4話・暗躍する者
「何ですって? 異世界召喚?」
人払いを命じた部屋の中、彼女は男から話を聞き、美眉を顰めた。
「それは数百年前に人攫いのようなものだと、禁止されたのではなかったかしら?」
「はい」
「まあ、なんて非道な」
彼女がそう口で言うほど、そのものを批難しているわけではないことを男は良く知っていた。彼女にとっては彼らのやること、なすこと目障りで仕方がないのだ。
「それで何をしようというのかしら?」
「フィルマンさまの、運命のお相手を呼び出すつもりのようです」
「運命のお相手? まだ、そのような夢物語を信じているの?」
この国では王族始め貴族達、特権階級者の結婚は、政略結婚ありきで、親が家同士の繋がりや、利権を求めて子供の結婚相手を決めてきた。
それに従うのが当然とされていたが、第1王子だったフィルマンはそれを拒んだ。結婚は一生のもの。想い合う相手と一緒になりたい等と言い、父王が定めた許嫁との婚約解消を望んだ。
彼女からしてみれば、フィルマンの言動は理解しがたいものだった。彼女だけではなくて、他の特権階級者もそう思ったことだろう。
それでも王位継承権を奪われ、僻地に追いやられた彼には先がない。これで大いに失望し、人生を嘆きながら暮らしてくれたなら、彼女の鬱屈した思いも少しは報われるかと思ったのに、あの男は全然堪えて無さそうだった。
その上、まだ運命のお相手などと、まだ夢見がちな少女のようなことを言っているのかと呆れた。
「当然、手は打っているのよね?」
「勿論です。夢見がちな王子さまにお似合いの相手を見繕ってあります」
男の言葉に、彼女は口角を上げた。
「あなたは最高ね。わたくしの意を黙っていても汲んでくれる。そんなあなたが二番手なのが実に勿体ないわ」
「間もなく、一番に取って代わります。あいつはやり過ぎました。所詮、禁忌に触れた者です。天罰が下ることでしょう」
「そうね。罪深い者には、罰を与えなくてはね」
物騒な言葉を紡いだ彼女は狡猾に微笑む。その彼女の目の前で、男は忠誠を誓うように目の前に跪いた。
「この世はあなたさまの願いのままに」
「頼りにしているわ。わたくしを失望させないでね」
彼女が男の前に片手を差し出せば、男はその手の甲に唇を寄せた。
「我が君。心からの忠誠をあなたに」
見上げる男の瞳の中に、自分の姿を認めて彼女は満足そうに頷いた。
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