第20話 祝!クラブ決定!

 翌日はいつものように入り口から当番の方にエスコートされ、クラスに入る。この光景もようやく慣れてきたわ。


慣れって恐ろしいわ。


 当番があるおかげで授業も真面目に受けられているし、昼食も毎日当番の方と食べるのでぼっちになることがない。


これは凄いことなの。学生になった頃って何もかもが初めてで緊張して友達を作るために声を掛けるのも一苦労していた私。周りの目がいつも気になっていた。


今でも違う意味で周りが気になるけれどね。


「ブランシュ様はクラブを決められたのですか?」


今日の当番のミカエル様は食堂でランチを取りながら聞いてきた。私のランチは白身魚のポワレを選んだ。ここの食堂のお魚は美味しいのでよく食べている。


ミカエル様は騎士科で騎士クラブに入った。先日の状態を見て騎士としてあるまじき行為だと憤慨していたわ。とてもミカエル様は紳士で令嬢方に人気があるらしい。


刺繍クラブの令嬢が刺繍をしながら話をしていたわ。彼の仕草を見てあぁ、これは令嬢に人気になるのは当たり前よね、と私も思った。


「クラブは決めましたわ。研究開発クラブか刺繍クラブにしようと思っていますの。でもどちらもやってみたいから迷っていて……」


私が困った風に話をするとミカエル様は目を輝かせて話す。


「なら、先生に相談してはどうでしょうか?過去に王太子殿下が騎士クラブと乗馬クラブの二つを取っていたと聞きました。職員室に行ってみましょう」


「本当ですか? 二つのクラブに通えるのなら嬉しいですわ。ミカエル様、教えて頂いてありがとうございます」


 私は急いで食事を終えると、職員室へと向かった。行き交う人達はサッと私に道を譲り、礼をしている。


モーセなの!?

まさかここでもされるなんて。



クラスメイトがするのには慣れてきたけれど、まさかクラスの外でこんなことになるのはびっくり! 隣にいたミカエル様も苦笑していたわ。



私はバルトロ先生を見つけたので早速先生に二つのクラブに通いたいと願い出た。


ちょうど顧問の先生もいたので入会したい事を伝えると二人とも大歓迎だと拒否される事はなかった。


こうして私は週三回を研究開発クラブ、間を挟むように二回を刺繍クラブに行く事になった。


「ブランシュ様、良かったですね。またお暇があれば騎士クラブにも顔を出していただけると嬉しいです。では、私はこれで」

「ミカエル様、何からなにまで有難うございました。助かりました」


こうして私はクラブに無事入会することができた。午前中は勉強、午後はクラブ、放課後は兄達とサロンでゆったりとお茶をするのが日課になっている。


偶にサロンでカインゼル殿下が混ざる感じかな。カインゼル殿下は寮住まいだとはいえ、王族なので仕事もあり、王宮に戻っている日も多いようだ。


「ブランシュ、最近の王都ではレシピ本が流行っているようだよ。凄いじゃないか。兄として鼻が高い。流石はブランシュだね」

「みんな美味しい物に目がなかっただけですわ」


私が作ったレシピ本は研究開発クラブと取引のある商会がすぐにレシピ本にして出版してくれたわ。


 他の研究者は商品化するのに試作品を作り、試してから結果を数値化して纏め、その後、商会の人と売れるかどうか検討した後、ようやく商品化になる。


 私の場合はレシピなので料理を作って見せてその場で食べて貰い確認する。


そして商会の人からゴーサインが出るレシピを増やしていき、ある程度貯まったら本にするという感じだった。平民の食べ物はポリッジが定番だ。


 貴族が食べる食事は各家の特色があるようだが、お茶会などで披露する以外は外部に出回る事がないため、実際にどんな物を食べているのかは分からない。


ただ、食堂の料理を見ていても調理工程が単純な物が殆どだ。カインゼル殿下に食事はどんな物を食べているのか聞いてもパンと卵とミルクとフルーツだが?と不思議がられた。


 夕食は凝った物が出ているらしい。


フランス料理みたいなものだろうか。


 宮廷や王朝が栄えていると料理も素晴らしいものが開発されるという話を昔どこかで聞きかじった気がしたけれど、やはり国が安定していれば食糧事情も安定し、食にお金を掛けるようになっているのだと思う。


 実際、この国では十年ほど小競り合いはあっても他国から戦争を仕掛けてくる事はなかったため、安定しているのだと思う。


 話は戻るけれど、レシピ本が早くに発売された理由、つまり料理が美味しくてボツになったレシピが無かったからだ。


今回のレシピ本の売り上げは学院に寄付される事になっている。学院の名前で売り出すからだ。


もちろん売り上げの一部は研究開発クラブの資金源にもなる。研究には多額のお金が必要だからね。


私としては自分の稼ぎにならなくても趣味でやっているし、お金に困っている事はないので問題ない。


因みに研究開発で一山当てた時は褒賞という名で少し還元されるらしい。私も少し褒賞を頂いたので有難くお小遣いとして箪笥預金しているわ。


「ブランシュの作る料理はどれも斬新だし、美味しいもの。レシピが売れるのは当たり前よね」


モニカ姉様はいつも手放しで私を褒めてくれる。


「刺繍クラブの方はどうなの?」

「それが刺繍クラブの方は刺繍があまり進んでいないのです。皆様のように上手ではありませんから。

それでも皆様は優しくて褒めて下さるんです。この間は刺繍に飽きてあみぐるみを作ってしまいました。私にはやはり刺繍の才能はなさそうです」

「ふふっ。そのあみぐるみは部長が持っているんでしょう?」

「何故知っているのですか?」


驚いている私をモニカ姉様はふふっと笑みを浮かべた。


「だって部長のアンジェがクラスで自慢していたんだもの。ブランシュから貰ったって」

「いいなぁ。私も欲しいわ」

「では今度、ロラ姉様とモニカ姉様にも作りますね。あれは簡単に出来ますから」

「絶対よ?」

「そうそう、今週末は待ちに待った舞踏会でしょう? ドレスが出来たの。マルリアーニの邸にドレスを持って行ったから楽しみにしておいてね」

「ようやく完成したのですね!楽しみですわ。姉様有難う」


ドレスが仕上がるまでに何度か試着はしていたので素晴らしい物に間違いないの。二人の作ったドレスはとても素晴らしい物に違いない。


「兄様、今週末はしっかりとエスコートして下さいね」

「あぁ。もちろんだよ、僕のお姫様。明日は早めにマリルと出ておいで」

「部屋に戻ったら荷物を纏めておきます。久々の我が家。ゆっくりしたいですわ」


 いつものように雑談をした後、部屋に戻る。初めての舞踏会。


 姉様達の話ではダンスを楽しんだり、お友達と話をするのを楽しんだりするのだとか。でも、人が多いので中庭に出たくなるけれど、出てはいけないと言っていたわ。


休憩室に誘われたら一巻の終わりなのだとか。治安が良いとはいえ、舞踏会中も狙われるのかと考えただけでげんなりよ。美人って本当に大変ね。

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