第17話 クラブ見学
「お嬢様っ。お帰りなさいませ」
マリルが私の無事を確認するとホッとした様子。
「マリルただいま。怖かったわっ」
私もホッとしてマリルに抱きつく。
「で、どこの令息を亡き者にすれば良いですか?」
「もう、心配しすぎよ。ブルーノが守ってくれたし大丈夫よ。ただ人前で自己紹介するのがドキドキしたわ。担任の先生は怖そうだけど、公平な感じがしたわ」
私はマリルと話しながらソファに座って差し出されたお茶を飲む。ここで誰かの名前を出そうものなら明日、川で発見される予感がする。
「ブルーノ、明日から午前中は勉強よね? 何の教科があるのだっけ?」
「明日は算学と領土学、国内歴史ですよ」
「面倒な科目ね。算学以外は予習をしなくちゃ。そういえばクラブがあるって言っていたけれど、どんなクラブがあるのかしら」
「ブランシュ様、午後からはクラブの見学に行って、実際にみた方がいいですね」
「えぇ。そうね、そうするわ」
翌日、準備万端でクラスに向かう。
えっと、何かしら?
廊下の両端にクラスメイトが列を成して私に一人ひとり礼をしていくわ。意味が分からないけれど、歩きながら『おはようございます』と声を掛けていく。
なんだろう、この感じ。女王様と下僕達のような構図。
これにはエディットも苦笑している。
「皆様!? どうなされたの??」
私はクラスに入ってからクラスメイトに質問してみた。
「ブランシュ様とお近づきになりたいのですが、皆で話し合った結果、こうしてブランシュ様をお迎えする事になったのです。一人が話し掛ければ私も、私も、と争いになりますから」
「そ、そうなのですね」
「今日のエスコート役は当番である私、フェルナンド・アーレンが致します。ではお手をどうぞ」
あわわわっ。
どうしよう!?
これは毎日こうして誰かにエスコートされて席に着くということなのね。
チキンなハートがプルップルよ!
「毎日エスコートなんて申し訳ないですわ」
「いえ、こうしてブランシュ様と近づける事が私達の幸せなのです! どうかお許しを」
「は、はい。ではアーレン子爵子息様、エスコート宜しくお願いいたします」
「どうかフェルナンドとお呼びください」
「分かりました。改めて宜しくお願いします、フェルナンド様」
私がそう言うと、彼は胸をギュッと掴み苦しそうにしている。
だめだめ、これ以上彼を見つめるとまた心臓を射貫いてしまう気がするわ。
私は見ていませんよーという素振りをしながら彼のエスコートで席に着く。
こうしてクラスメイトの取り決めによって学園生活の平穏を約束されたようだ。
学園は午前中は勉学に励み、午後はクラブ活動になる。
人気は騎士クラブ、乗馬クラブ、刺繍クラブ、マナークラブらしい。もちろん強制ではないのだが、騎士科や侍女科に進む人達は進路を考えてクラブに入るのだとか。
「ブランシュ様はクラブに入られるのですか?」
「フェルナンド様、運動は苦手なので穏やかに過ごせるクラブが良いかなぁと考えていました」
「それなら研究開発クラブにしませんか?」
「研究開発、クラブ、ですか? どのようなクラブなのでしょうか」
「自分で世に出せるような商品を作り出すクラブなのです。ここで商品開発を行い、商会を通して世に広めていくというクラブなのです!」
「それは凄いですわ。でも、私、一度も耳にした事がありませんでした。人気がないのでしょうか?」
「まぁ、大体の貴族は優遇している商会がありますからね。商会を通じて商品を開発と流通させるのはよくある事です」
「そうなのですね。研究開発クラブは平民の方ばかりなのですか?」
「いえ、王宮の研究者になる人がこのクラブに入る事が多いのです。ここで開発した商品が売れるとその品と共に王宮へ就職する機会を得るのです」
なるほど。ここは王宮の研究者達の登竜門になっているのか。商品開発はとても楽しそうだ。前世の記憶を生かした商品をバンバン作って売りまくるのも楽しそうだ。
ふぉぉぉ!と興奮しながら私は商品開発ドリームに浸っていると、別のクラスメイトから待ったが掛った。
「ブランシュ様は刺繍クラブにどうですか?私達はブランシュ様と一緒に刺繍をして楽しみたいわ」
詩を作るクラブ、声楽クラブ、音楽クラブと様々なクラブがどうかとクラスメイトは意見を出しあっている。みんな真剣そのものでなんだかこっちが申し訳ない。美人は美人で大変なんだなぁと改めて思う。
「今日は研究開発クラブを見学させていただきますね。明日はまた別のクラブを見学しようと思います。良いクラブがあれば教えて下さると嬉しいわ」
私はにこっと笑うと胸をギュッと押さえる令息と令嬢達。やってしまった。私は慌ててフェルナンド様の手をがっしりと掴み案内を促す。
「さぁ、フェルナンド様。研究開発クラブはどこにありますの?」
「あ、え、う……。こ、こちらです」
カチコチと動き出すフェルナンド様。
「では、皆様ごきげんよう」
先ほどの姿は何処へやら。みんなピシッと礼を返してくれる。
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