第16話 迎えた入学式
今日は入学式という事で上級生は休みの日。
新入生はホールへと集められて学院長から有難いお話を頂くことになっている。
私は一番目立たない一番後ろの席へと座った。周りの生徒は私の顔を見るなり、ぎっちり凝視してくる。
えっと、私の顔に何か付いているかしら?
朝食のジャムが付いていたかしら??
不安になる私。会場は少しばかりざわついていたけれど、式が始まるとピタリと静まった。
学院長からの話の後、在校生代表であるランドルフ殿下が挨拶する。もちろん殿下の姿を見た令嬢達から黄色い声があちこちから聞こえてきた。殿下の挨拶が終わった後、新入生代表の挨拶があって、そこから生徒は各クラスへと向かう。
「お嬢様のクラスはSクラスのようです。向かいましょう」
「ブルーノ、分かったわ」
私は護衛と一緒にクラスへと入っていった。
成績順でクラスが決まるのだがSクラスは一番上のクラス。平民もいるにはいるのだが、貴族のように家庭教師が幼い頃から付くわけではないので自然に貴族が多くなるクラスになってしまうようだ。
平民でSクラスに入る事が出来る人は本当に頭が良いのだと思うわ。素直に感心しちゃう。
私なんて前世の記憶で算数は簡単に思えたけれど、思い出さなければAクラスだったかもしれない。教室は前世の学校の雰囲気が近いかしら。大きな黒板の前に机が置かれている。
ロッカーはというと、教室内には無くクラスに入る前の踊り場のような少し広くなったスペースに設置されていた。Aクラス以降は建物の入り口付近に設置されているの。Sクラスだけ特別仕様なのだと思う。
私はブルーノと一緒にクラスに入ったのが一番最後だったようで皆、着席していたわ。
そして私に視線が集まる。
「ブルーノ、どうしよう。皆が見ているわ。今朝のジャムがまだ口に付いているかしら?」
「……お嬢様。大丈夫です。付いておりません」
ブルーノは珍しく呆れている様子。ブルーノは教室の後ろに椅子が用意されていて一人そこに座るみたい。特別仕様なのね。
担任と思われる男の先生がクラスへ入ってきた。いかにも体育会系の体型をした爽やかそうな先生。私とは真逆を行く感じね。
「新入生の諸君、今日からSクラスの担任となったバルトロ・ドンギアだ。宜しく」
バルトロ先生は遠くまで聞こえる程の大きな声で雑談を交えつつ自己紹介をした。そしてクラスメイトの自己紹介がはじまった。
Sクラスはどうやら男の人が大半を占めているようだ。まぁ、令嬢は婚姻が控えているのでそこまで必死に勉強しなくてもいい。ただ、王子妃候補者達は常にトップ争いを強いられると思うの。
カインゼル殿下を狙う令嬢達は多いので三年生は男女の比率が半々なのだとか。でも、その歳で婚約者が居ないとなるとかなりリスクが高いわ。
選ばれなければ行き遅れだもの。
婚約者を決めない殿下は女の敵!
そう考えている間に私の順番が回ってきたみたい。
前世から苦手な自己紹介。
「私の名前はブランシュ・マルリアーニです。趣味は刺繍です。皆様どうぞ宜しくお願いしますわ」
私は簡潔に挨拶をした。内心言葉が震えないように必死で手汗が酷い。そのまま着席しようとしたところで担任が私の前にやってきた。
「お前が噂の令嬢だな。ブランシュ! 俺は顔だけでは判断しない! 悪いことは悪いと叱るし、良いことは良いと褒める! だが、学級を無駄に乱すなら俺は容赦しない!」
その言葉にクラスがどよめいた。
「私は学院の許可を貰い護衛も付けての参加になっております。目立たぬように穏やかな学院生活を過ごす事を目指しております。バルトロ先生、クラスメイトの皆様方、これから平穏な学園生活を送りたいと思いますのでどうか騒ぎ立てないようによろしくお願いします」
「そうだな!! ブランシュの事情は皆もよくわかっている! 皆も騒ぎ立てず、クラスの一員としてブランシュを迎え入れてやってくれ!」
先生は顔を真っ赤にしながら教壇へと戻っていった。そうして自己紹介が終わった後、明日からの授業やクラブの話をした後、解散となった。
「ブルーノ、帰りましょう」
「ハイ。お嬢様。少し急ぎますよ」
「ええ」
私はすぐに立ち上がり、クラスを出ようとするが甘かった。
「「「ブランシュ嬢!!」」」
クラスメイトが一斉に私に声を掛けながら寄ってくる。
ひ、ひぇぇぇ。恐ろしい。
チキンなハートはブルッブルよ。
ブルーノはこうなる事を見越していたようで私の前に立ち、盾となってくれている。
「クラスメイトの方々。一歩下がられよ」
ブルーノがそう言うと、クラスメイト達が一歩ずつ下がり私との距離が少し空いた。彼らは何かを期待しているような様子。
「クラスメイトの皆様、これから毎日登校します。そんなに慌てないで下さいませ。
皆様もご存知の通り私は度々襲撃や誘拐されかけております。
邸からあまり出たことがありません。ずっと毎日皆様と生活する事を楽しみにしておりました。
皆様に多大なご迷惑をお掛けすると思いますが、これから宜しくお願いしますね」
私は声が震えるのを抑えつつなんとか言葉にした。
「そ、そうだな! ブランシュ嬢、これからも宜しく。また明日を楽しみにしている」
「ブランシュ様。私も。色々お話が聞いてみたいわ。明日から宜しくお願いしますね」
何とかなったようだ。私は丁寧に挨拶をした後、ブルーノと寮へと戻った。
私達が去った後、クラスで話し合いが行われていたのも知らずに。
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