第3話 麗しい家族

「ブランシュお嬢様、目を覚まされましたか?」


私専属の侍女マリルが声を掛けてきた。


 天井を見たまま頭の中を整理していた私はよいしょとベッドに座る。マリルは泣きながら私をギュッと抱きしめてきた。


「マリル、私は大丈夫よ? マリルは? お父様達に責められなかった?」


私が攫われたあの日、マリルは実家から呼び出されて休みを取っていたの。代わりの侍女が私に付いていたの。きっと仕組まれていたのね。


「私の事は大丈夫ですよ。それよりお嬢様、すぐに旦那様をお呼びしますね」


マリルは呼び鈴を鳴らしている。私を一人にしないようになっているのだと思う。暫くすると父達が部屋へとやってきた。


「ブランシュ!! 良かった」


父も母も涙を浮かべて喜んでいる。兄に至っては私を抱きしめた後、膝に乗せてた。


「お父様、ご迷惑をおかけしました。一杯寝たのですっかり元気になりましたわ」

「ブランシュ、心配したよ。僕の天使。もう絶対お庭にも行かせないよ。何かあるといけないからね」

「お兄様、心配しなくても私はマリルとしか部屋から出ませんわ。お外は怖いですもの」

「ブランシュと同じ部屋に僕が居ればいいね。良い案だよね」


お兄様はギュウギュウと抱きしめながら言ってのける。


「ヴェルナー、ブランシュが心配なのは分かる。だが、男女が寝所が同じなのは駄目だと言っているだろう? まぁブランシュが可愛いのは仕方がないがな。とにかく良かった。怪我一つなくて。今日はゆっくり休みなさい」

「はい。お父様」


嫌がる兄を父は引き剝がして部屋を出ていく。


「マリル、エディットの怪我の具合はどうなの?」


マリルと同じく私の護衛のエディット。私を守るべくあの時、男達に斬られたはず。


「お嬢様を庇いエディットは背中に怪我を負って現在は治療中です。明日には復帰出来ると思いますよ」

「エディットにも悪い事をしたわ。私が侍女の誘いに乗って外に出たいなんて言わなければ怪我もしなかったのに」

「エディットにしてみればお嬢様を守れたことは本望ですから大丈夫です」


マリルはキリッとした表情で答えた。護衛が怪我したのに翌日に復帰するのは違和感があるわよね。


そう、この世界には魔法が存在する。


前世のアニメのようなドーンとかビリビリとか大がかりな魔法ではないのだけれど。ほんの少し使える程度の魔法。


魔力を持っていない人も多い。持っていなくてもなんら問題ないのだけれど、王族に限っては違うようで魔法を扱える人を血筋に取り込むようにしているせいか他の貴族たちと違い、魔力は桁違いに強くて量も沢山持っているらしい。


実際に見たことはないので分からないけれどね。そしてどんな魔法が使えるのかは人によって違うらしい。


 かくいう私も実は治癒魔法が使えたりする。残念な事にかすり傷+α位な程度なので誰にも話をしたことはないわ。


……いいのよ。使う機会は無いし。使えるという事だけで十分満足だわ。

前世は魔法すらなかったしね!


私が前世を思い出したのも当然黙っておく。頭の痛い子だって思われたくないもの。ちなみに家族では母が雷魔法を使えるわ。たまに肩こりの父にピリピリっと電位治療器のように魔法を使っている。面白い使い方よね。


 父と兄は魔法が使えない事になっているみたい。魔法が使える事は知っているけれど、跡を継がない私には内緒らしい。予想としては闇魔法的なやつだと思っている。


魅了とか、毒を作り出すとかね? きっと私や母と違って魔法のレベルが違うのだと思う。


あくまでも予想だけどね。

魔法が使えることを黙っているのはなんとなく?使っても効果は少しだから言わなくていいかなーなんてね?


 そうそう、ラノベの世界では前世を思い出したらみんなチートするんでしょう?


私は人が怖いし、目立ちたくない。前世を思い出した今、部屋から更に出たくない。

生涯引きこもりでいこうとさえ思っている。


 あれから私の護衛は更に増やされて、窓は格子が付けられている。邸からほぼ出ない生活。


行動範囲を更に狭めて再開されることになった。とはいえ、ゲームやスマホなんて物は無いので一日を通して勉強と刺繍やレース編み等をして過ごす日々。


 前世を思い出して刺繍が格段に上手くなったのは言うまでもない。けれど、この世界の令嬢達はみんな刺繍を嗜んでいるので私がちょっと上手だからといっても全体としては中くらいなのだと思う。


残念ながら上位層は厚く私の入り込めるスペースはないらしい。


母はとっても褒めてくれたけれどね!


 何だかちょっと悔しいから家紋をステッチして二センチ角のサイズでクッションのようにしてから小さな鈴を付けてチャームにし、父にプレゼントしたわ。


ハンカチに刺繍するのは一般的だけれど、刺繍をしたものをチャームにするのはあまりいないらしいので父は喜んでいたわ。


兄はとっても羨ましかったらしい。それから事あるごとに僕にも作ってくれるんだよね?と催促されて親指サイズのクマの顔の編みぐるみを作ってあげた。


「ブランシュ! 嬉しい。妹からのプレゼント! 一生の宝物にするよ」


兄は頬ずりしながら喜んでくれているけれど、兄のシスコン具合が不安になるわ。これもきっと美人すぎる私だから仕方がない。


きっと兄妹でくっついている姿は美男美女で絵になっているのだと思う。


部屋にいる侍女達はもちろん眼福だと言わんばかりに微笑んでいるわ。


「お兄様、これは誰でも作れますわ。でも、使って下さると嬉しいです」

「そうなのかな?よく分からないけれど、僕は見たことが無かったから剣に付けてお守りにするよ」


……確かに。


 私が開発したわけではないけれど、立体の刺繍や編みぐるみのような物はまだ見たことがないわ。


おんもに出ない令嬢の独特な発想で作られたって事で許してもらおう。


例え珍しくてもみんな刺繍やレース編みをしているからすぐに作られると思う。チートでウハウハは出来ないのが残念ね。




そうしてまた私の引きこもり生活が続くのかと思っていたのだけれど、ついにそれは起こった。

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