第2話 過去の話を整理しよう
頭の痛みで目を開けると、そこには見知らぬ部屋で寝ていた。いや、この場所、知っている、わ。
大好きな白い花模様の壁紙にレースのカーテン。
……どうやら私は前世を見ていたのね。
まだ記憶が混乱している。少し、情報を整理しなければ。まず前世の私。牧野 楓三十歳。仕事は商社の事務員。趣味は料理を作ること。
私は昔からげじ眉、団子鼻でみんなにブスブスと言われ続けていたし、自覚もしていた。だから、なるべく地味に、目立たないように、人に公害だと言われないようメイクも頑張っていたし、ひっそりと生きていこうと心に決めていた。
きっと私には生涯彼氏なんてものは出来ないと思っていたわ。だからコツコツ貯金してラノベで疑似恋愛を楽しんでいたの。
紳士な王子様もいいし、知的な彼もいいし、超マッチョな彼も素敵よね!つまり私の好みの幅は広大なのっ。っと、話が逸れたわ。
趣味は料理を中心としたインドアなものばかり。現実世界、一人で生きていこうと思っていたからなんでも一人でしなければいけない。
もし、働けなくなったら、とか老後はどうやって過ごそうとかを考えて手芸をしてみたり、アパートの窓際で家庭菜園したりしていた。
色々なことに挑戦して生き残れる物を探していた。基本的にブスだと自覚しているので人前に出るのは好きじゃない。人を避けている間に引っ込み思案になっていたと思う。
コミュ症気味の私はなるべく人に関わらない趣味を選んでいたの。
そんな私にまさか彼氏が出来るなんて思ってもいなかった。
雅也君は同じ会社の営業担当の人でよく事務に顔を出していたの。『真面目に仕事をしている楓が気になって声を掛けた』というのが付き合うきっかけ。
元々料理が好きだったけれど、雅也君に喜んで貰おうと更に料理を頑張って作っていたの。懐かしい思い出だわ。
結局、私は浮気相手だったのか、本命だったのかは分からなかったけれど、二股を掛けられていたのは間違いない。
……クソだな!!
今思い出しただけでも腹が立つ。モテない私は恋愛経験も少なくて雅也君のかけてくれる優しい言葉に舞い上がっていたのだと思う。
全然彼を分かっていなかった自分。
反省するわ。
そして今世。ブランシュ・マルリアーニ只今十歳。父はヨエル・マルリアーニ侯爵。母ロザーリエ。二つ年上の兄、ヴェルナー。マルリアーニ侯爵家は昔から美男美女の血統で有名な一族らしい。
いつも釣書が家族全員に送られてくるの。父には後妻や愛妾となりたい夫人方から。母には父と別れて妻になってほしいと。
父や母は恋愛結婚で今もラブラブカップルなので別れる気はさらさらない。
兄や私には生まれる前から釣書が届くというなんとも言えない摩訶不思議な事が起こっている。兄は跡継ぎで顔もいい。
実質相手を選り取り見取りで選び放題なので小さな間に婚約者を決めるのではなく、大きくなってから自分の好きな相手を選べばいいというのが両親のスタンスのようだ。
前世の私からすれば世界が違いすぎてただ指を咥えて見ているだけだったと思う。
私、ブランシュはというと、控え目に言って絶世の美少女。傾国を越えて歴史に名を残してもいいんじゃないかっていうほどよ!こんな造形美を初めてみたわ。自分で自分が怖くなる。
そして、その美しさが仇となる。
今十歳だけれど、既に私は二回も誘拐されかけたのよね。恐ろしすぎる。どうやら生まれてすぐに侯爵家から一歩も出ていないけれど、門番や侍女に誘拐されかけたらしい。一度目は門番が私を好き過ぎて誘拐未遂。
……ロリコン野郎め!
二度目は侍女が自分の子供にしたいと誘拐未遂。三度目の今回、前世を思い出す切っ掛けとなった誘拐事件。『いい天気だからお庭に出てみませんか?』という侍女の誘いに乗って庭に出た所に知らない男達が立っていた。
『あ、これはヤバいわ』と思ったけれど、どんくさい私はあっさりと男達に捕まった。男に何かを嗅がされて意識を失ってしまったのは覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます