◆3 ある城の日常

「やることなーい、暇暇暇暇!」

 フィオネが机の上に上半身を預けながら呟いた。腰まである長い金髪や、ぱっちりとした緑の瞳。その美しい容姿はまるで姫のようなのだが、言動が一致していない。足をバタバタとさせながら、暇であることをアピールしている。


 「だらしないぞ、フィオネ」

 執務室にいたもう一人、アンバーが注意をする。といってもアンバーも暇なので、さっきから時計の秒針が動くのをちらちらと見ている。


 「アンバーってさ、お父さんみたい。まだニ十歳とは思えない。そんなに怒ると皴出来ちゃうよ?」

「なっ……」


  アンバーが容姿端麗な顔を歪ませて立ち上がった。勢いよく立ち上がっても、アンバーのきっちりとした七三分けの髪は靡かない。


 ──ちょうどそのとき。


「ただいま帰りましたーっと。みんな元気してた?」


 ひょっこりと顔を覗かせた男がいた。真っ黒のマント。艶やかな黒髪。切れ長の瞳は闇を映したように真っ暗だ。黙っていると威圧感のあるほどの美丈夫だが、彼はへらりと笑いながら手をひらひらと振っている。そうすると堅苦しい雰囲気が霧散する。


「ルーク様!」

「主!」


 言い合いをしていた二人の顔がぱっと輝く。「おかえりなさいませ!」とフィオネは立ち上がりルークの元に小走りで駆け寄った。「主、長旅ご苦労様でした。今、お茶を入れますね。あぁ、その荷物はフィオネにでも持たせといて」ときっちりとお辞儀をしたのはアンバーだ。「何よ、その言い方」とアンバーを睨むフィオネだが、ルークの荷物をさっと奪い取る。


「主、どうかお座りになってください」


 アンバーが椅子を引く。


「ん? あぁありがと」


 いつのまにかルークは荷物を奪われ、椅子に座り、ハーブティを飲んでいた。次々と世話を焼いてくれるアンバーとフィオネを見ながら、ルークはいつのまにか笑っていた。


 アンバーとフィオネはそんなルークを見ながら、首を傾げる。


「どうして笑っているんですか?」


「いや、平和だなぁと思って」


 ルークはそう答えた。

 ここ、魔王城は今日も平和だ。


 

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