050-ファイスとアリアの想い

ハイパースペース内では暇なものである。

ゲームだと長くても五分程度だったのだが、しかしここは現実であり、出口までは半日程度ある。


「やる事ないな...」


私はスチームサウナの中で呟いた。

いつものようにジムでトレーニングをして、汗を流してお風呂に行く...

そのローテーションでも構わないけれど、ちょっと味気ない。


「おや、主人」


その時、サウナ室にファイスが入ってきた。

そんなに毛があると、サウナ室は辛そうだけど...?


「ねえ、ファイスはいつも何して過ごしてる?」

「自分は...主人のように鍛錬をしております。他には、素振りや足の運び方の練習などですね」

「そう」


ファイスは、私よりずっとストイックな性格だ。

いや、ハングリー精神っていうのかな?

ギラついた強さを追い求めている。


「...ひょっとして、私が決闘を挑まれた時から?」

「はい、主人を守る為の力を身につけたいと願ったのです」


立派だ。

これ以上ないほどに。

何もかもが半端な私とは違う。


「主人は強いのです、しかし自分がお側にいれば、その強さに死角はありません」

「なるほどね、任せたよ...ファイス」

「はっ」


精神年齢的にはまだ幼いはずなのにこの覚悟。

お兄ちゃんに見られたら、絶対に引き抜かれちゃうな。







ブリッジに戻ると、いるのはアリアだけだった。


「他のみんなは?」

「えと...ケインさんは遊びに、ノルスさんは読書をしに出て行っちゃいました。シトリンさんは自分の部屋で充電中らしいです」

「そうか....アリアは、何故残っている?」


自室で休めばいいと思うのだけど....

しかし、アリアは自信なさげに答える。


「....ここのほうが落ち着くんです、一人になると....その.....怖くて......」

「成程」


私は頷く。

アリアはケインと同じくまだ幼い。

賢いノルスともともと寿命が人より短い種族のファイスは成長が早いが、ケインとアリアは普通の人間だ。


「こんな船でごめんね」

「いえっ....その、あなたは....私の親、みたいなものですよね?」

「....うん」


私は頷いた。

彼らは、乗組員だけど、成熟するまでは私の子供という扱いにしている。

その方が書類的にも楽だし、”守る理由”が出来るから。


「その、お父さん...お母さん...?」

「お母さんでいいよ」

「お母さんが船に乗って私たちを守ってくれるなら、私はきっと、どこまでも一緒にいたいんです」


アリアの目は真剣だった。

ケイン見習ってほしいけど、そうもいかないか。


「どこまでも.....という訳にはいかないけれど、私もそう思ってるよ」


私もいつかは帰らないといけない。

お兄ちゃんが待っている、あの地球へ。


『お邪魔でしたか?』


その時、声がかかった。

いつの間にか、入り口にシトリンが立っていた。

充電が終わって戻ってきたのだろう。


「.....いいや? 三人で雑談でもしようか、暇だからね」

『喜んで』


アリアに寂しい思いをさせないように、私はシトリンを加えて雑談を始めるのであった。

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