047-ロー・セキュリティ宙域

「とりあえず.....」


私はアフターバーナーを点火するように指示を出し、アドアステラを背面のゲートの斜め後ろに回り込むような軌道を取らせる。


「通信申請は特に来てないし、こっちを本気で落とす気だな」

「どうするのですか?」

「戦っても不利なだけだ、逃げるぞ! 一気に振り切る、アフターバーナーを切ってSWD起動!」


アドアステラの速度が一気に跳ね上がる。

それと同時に、シールドに何かが当たったらしいアラートが鳴る。


『敵のレーザー射撃を観測。減衰率から、射程は中程度と予測』

「では振り切れるな」


この世界ではワープ妨害は一般的ではないようなので、このまま逃げ切る。


「SWD停止、ワープに入るぞ」

「ワープ座標算出開始。完了、操舵権限者に転送します」


減速したアドアステラに、フリゲートが急接近してくる。


「御主人、パルスレーザーによる射撃を受けています」

「大丈夫だ」


アドアステラはそのまま、ワープに入る。


『緊急ワープの為、航跡を察知された可能性があります』

「分かった」


ここからは、追いかけっこという訳だ。

丁度いいので、私はワープ中に作戦の共有を行う。


「私たちのアドアステラは今、ロー・セキュリティ宙域のハブジンにいる。ここからクーケントールを経由して、ハイ・セキュリティ宙域のバガンで一旦休憩、その後ロー・セキュリティ宙域のクズシダンとアパルアンを抜けて、ゼロ・セキュリティのアルタナゲートを通過、ロー・セキュリティ宙域のミョルカイを通過して、目的地のジスト星系の隣接星系に到達する…ここまではいいな?」


全員が頷く。

よしよし。

私は事前に入手した情報をみんなと共有する。


「今いるハブジンとクーケントールは海賊団の出没地域で、執拗な追跡が予想されるけれど、ゲートの封鎖は不可能だから、出待ちしか出来ないだろう」


ゲートの機能は、アクセスした艦船を反対側のゲートに飛ばすだけなので、物理的に塞いでも無意味だ。


「バガンはそこそこ治安が悪いが、それでも圧倒的に安全だ。身分保証ができている俺たちは、惑星に降下できる」


降りさえすれば、ある程度は安全だ。

物資は十分積んでいるので、入港だけして中で寝泊まりすればいい。


「その後は少し危険なので、戦闘向きの装備へと換装する。クズシダンはともかく、アパルアンとミョルカイには海賊の前哨基地がある。それに、アルタナゲートには海賊国家カルメナスに接続されたゲートがあるそうだ」

「つまり、確実に戦闘になるという事ですね、御主人」

「そうだ」


まあ、という訳で....


「まもなく目的地だが、すぐに回頭してランダムな地点にワープする。こっちは緊急ワープを繰り返すから、航跡は確実にバレている。ワープドライブの不安定化に気を付けろ――――頼むぞ、ノルス」

「はっ」


技師は基本的にファイスとケイン(助手)だが、航行系の様子見はノルスに任せている。

集中力と記憶力が高いので、細かな異変にすぐ気づいてくれるのだ。


『ワープドライブ起動を確認』


シトリンの声を聞きながら、私は海賊がどう動くかを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る