042-二人で食事

当日、私は礼服用の服で出かけた。

どうせ誰も見てないんだし、普通の服でも良かったんだけど、無いものはしょうがない。

ドレスコードは別に無いので、ちょっと高い飲食店を指定した。


「凄い護衛の数だな」

「一人で行くと言っても聞かなくてな」


現場に着くと、そこには大量の武装した人間が詰めかけていた。

大方、私を警戒しているのだろう。

遠くのビルから殺気を感じる。

私は射線をアレンスターで塞ぐように動き、話しかける。


「ドレスコードがある場所は窮屈でな、こんな場所で済まない」

「構わないって言っただ...構わない」


人の目もあるので、アレンスターは真面目な口調に戻る。

私は変えないけど。


「では、入ろうか」

「ああ」


店内までは護衛は入ってこない。

だが、客の中に紛れていないとは限らないので、私は腕を組んで移動する。

お兄ちゃんの教えてくれた諺、「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」というやつだ。

アレンスターと気安い関係になったといっても、友達ではないのだから。


「何を頼む?」

「待ってくれ、こういうところは初めてなんだ...」


私が選んだ店は、地球なら入るのを躊躇するくらいには上等なお店だ。

お兄ちゃんはいつかこういう場所に行きたいと言ってたから、将来私が偉くなって連れて行くはずだった。

それも叶わなかったけれど、まだチャンスはある!


「では俺は、パルティのクアレと、バルイナのステーキを、パンも欲しいな」

「......勝手がわからん」


こっちでは「高級」の基準が違うらしく、アレンスターは混乱しているようだった。

私はアレンスターの食べたいものを聞く。


「特に希望は無いが、肉と野菜は欲しい」

「ではこの...ケラカ風夏野菜のパスタと、バルイナ肉のアントレでいいか?」


正直何を言ってるんだお前は状態だけど、私がさっき頼んだのはサラダとこの世界のそこそこいい肉のステーキ、アントレはスープ的なやつだ。


「ああ、構わない。確かに、「ちょっといい店」だな」

「そうだな」


彼が普段口にしているメニューとは質も値段も大違いだろう。

でもごめんね、仲間に分配する分もあるから、無駄遣いはできないのだ。


「食う時くらい、仮面は外さないのか?」

「ああ」


私はマスクの口部分だけを開く。

人の目があるし、傭兵に見られたら面倒だ。

特にアルゴには。


「お待たせしました、パルティのクアレ、バルイナステーキ、付け合わせのパンです、それからこちらサービスのドリンクです」


最初に私の料理が運ばれてきて、二人分の飲み物がサービスされた。

子爵であるアレンスターに先に料理を出せないお詫びのようなものだろう。

私は何かのジュースらしい、澄んだ色のそれを一口飲み、それから料理に手をつけた。




しばらく二人は、一言も喋らずに食事を続ける。

アレンスターは運ばれてきたパスタを丁寧な所作で口に入れる。


「.....アレンスター」

「ん?」


その時、カルが口を開いた。

アレンスターが顔を上げると、カルは仮面の下でアレンスターを見た。


「俺は、もうすぐこの星系を出る予定だ」

「.....っ、どうしてだ!?」


アレンスターは掴みかかりそうな勢いで、カルを見た。

だがカルは、食事のペースを落とすことなく答えた。


「どうしても何も.....事情聴取も終わったし、ブライトプライムに留まる必要は....もうないから....な」

「だ、だが....もう少し傭兵のランクを上げておくのも」

「興味がない」

「...そうか」


アレンスターは何でもないように頷いたが、結局食事のペースは大幅に落ち、カルが食べ終わってデザートを注文するころにも、料理が皿に残ったままだった。

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