046-滅亡惑星デート

数日後。

僕はエリスと一緒に、『宝物殿』内部の惑星デートを敢行していた。

事前に降りて拠点を作っておいたので、安心してテレポートできる。

彼女は今日は、ちょっと暑い惑星に合わせてワンピーススタイルだ。

....僕は関係ないが。


「どうだ?」

「凄いところね.....」


昔はそこそこの文明が発達していたらしい星で、「青」を意味するVe’zの言葉の名前が付けられていたものの、今は滅んでしまったようで誰もいない。

自然消滅のような形で人が消えたようで、かつての都市は植物に侵食されて荒廃している。

こんなバックストーリーがありながら、特に有害そうな生物も植物もなかったので、エリスを呼んだ。


「オルトスのような国だったらしい。当時の記録媒体は全部風化してたが、記念碑が残っていた」


Ve’zの超技術は数千年の劣化をものともしないが、通常の技術体系では数千年も経てばこうなってしまう。

この星にあった国の名前は、少なくとも「カークス」「イドラ」「コー」の三種類を確認している。

全部民主主義だったらしい。

人間が統治する以上、何らかの破綻があったのだろう。


「どうして私を呼んだの?」

「丁度いいから、ここでピクニックでもしないか?」


僕は一緒に持ってきたコンテナを指差す。

自走式で、僕たちに合わせて付いて来るはずだ。


「変な趣味ね....いいけど、私も好きよ。こういうの、なんて言うんだったかしら....」


ちなみに僕らが今いるのは、半壊したオペラハウスだ。

センサーには何も映らないが、暗闇に何かが蠢いているようで少し不気味だ。


「表通りに出よう」

「ええ」


僕は触手で瓦礫を退け、エリスが通れる道を作る。

だが、エリスはそんな事をしなくても、瓦礫の上を跳びながら移動していた。


「何をしている?」

「床に落ちたら死んじゃうっていう、戯れよ」

「面白そうだ」


小学生の頃は、そういうのが好きだった時もある。

僕も彼女に合わせて、瓦礫の上に立つ。

だが、瓦礫が砕けて床に転がる羽目になった。


「下手ね」

「慣れないことはするものじゃないな」


僕は立ち上がる。

その時、ある違和感に気付いた。

僕は恥ずかしい姿をさらして、それを笑われたのに、何故か怒りが湧いてこない。

どういうことだ....?


「それにしても、笑う事はないだろう」

「ごめんなさい、エリアスって何でもできると思ってたから、驚いたのよ」


僕たちはそんなやり取りをしながら、表通りまで出る。

あちこちに放置された車輛から、経った年月が察せられるものがある。


「タイヤで車を? 随分非効率なのね」

「昔は、どこもそうだったんだろう?」

「.....オルトスじゃ、だいぶ古代よ?」


僕は地面に落ちている携帯端末を拾う。

一昔前の地球みたいに、折り畳み式だ。

スマートフォンのような革新的なものは生まれなかったらしい。


「どうして死体が無いのかしら?」

「とっくに風化したんだろう」


白骨化した人間が、完全に風化して消え去るほどの年月が経ったのだろう。

実際この表通りも、植物がアスファルトを破って生えているせいで歩きづらい。


「食事をする場所を探さないとな」

「そうね.....ちょっと虫が多いわ」


コンクリートジャングルだったようだが、今は別の意味でジャングルだ。

平均気温が27℃、平均湿度が62%だから、本当にジャングルだ。


「.....エリス、上で食べないか?」


僕は無事そうに見えるビルを見つけ、指差す。

エリスは頷くと、僕に続く。

崩落したビルの中を歩き、何故崩落しないのかを知る。


「そうか、木の根が...」

「凄いのね、樹木って」


木の枝が張り巡らされ、風化したコンクリートを補強しているのだ。

僕らは一気に屋上まで駆け上がる。


「わぁ......」

「....凄いな」


風が吹き抜ける。

植物に覆われた都市が一望できる、いい場所であった。


「遠くまで続いてるのね」

「ああ、この星全体がこんな様子だ」


人口が膨れ上がった後に弾けたのか、海すらない。

水没した地域はあるが、水は湖サイズで存在しない星だ。


「さて、食事は何か....って、ケルビス印か...」


ケルビスは最近、Ve’zの内部で「ケルビス印」というブランドを作り、加工品を売るようになった。

といっても、僕かエリスしか買わないが。


「お茶と....サンドイッチのようだな」

「私、このフレーバー好きよ」

「僕も、このサンドイッチは好きだ」


ケルビスの不慣れな様子の手作り感が、母親の作ってくれた料理を思い起こさせる。

あまり料理の得意な人間ではなかったからな。

僕らは暫し食事を楽しみ、そして帰還した。

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