045-黒き渦

『.....来た、ね』


ワームホールが一瞬歪み、そこからオーロクルが現れた。

オーロクルは細長い艦体を持つ船で、後ろ側に出っ張りがありそこにシールドバニッシャーが搭載されている。


『じゃ、攻撃します』


この場にはアドラスしかいない。

後詰めはいるが....


『(私ひとりで倒さないと、禊の意味がないよね!)』


アドラスは張り切っていた。

アドラスの秘密兵器はいまだ、手札として残っているのだから。


『うーん、やっぱり硬いなぁ』


エミドがシールドトランスファーアレイをオーロクルに向けたせいで、アドラスの攻撃はオーロクルに通らない。

いや、確実に削ってはいるものの、オーロクルのシールドバニッシャーのチャージの時間を許してしまう。


『シールドが消えたね』


だが、アドラスは動揺しない。

直後、パーティクルオシレーションディケイ(POD)がアドラスの装甲を分解し始める。


『どうした、アドラス?』

『.....もう少し待って、ください....』


エリアスからの疑念を持った声に、アドラスは待ったをかけた。

アドラスの代替兵器は、慎重さと時間が必要だ。


『第一装甲板、崩壊。第二装甲板の分解が開始.....でも。』


アドラスは笑った。

それは、勝利を確信した笑みだ。


『トゥールビヨン、起動』


アドラスの角ばった船体にラインが走り、そのラインの部分が稼働して、その船体を更にデコボコとした形に変化させる。

直後。

オーロクルを中心に巨大な重力異常が発生する。

重力の歪みは急速に熱量を失うことで質量を増大させ、法則の穴――――疑似ブラックホールと化す。


「な、何だこれは!?」


ジェキドはその光景を見て、動揺した。

Ve’zのワームホールを制御できる技術については知っていたが、ブラックホールを疑似的に生成できるなど聞いたこともなかった。

惑星を引き裂く力を持たないアドラスがなぜ惑星を引き裂けたのか。

それは、この『トールビヨン』にあったのである。


「ギ......オーロクルが.....重力場から抜け出せません! シールド崩壊! 船体は10秒と持ちません」

「これは驚いた。仕方あるまい、オーロクルは捨てようではないか」


重力場の中央に引きずり込まれたオーロクルは、シールドごと船体が歪み、空間ごと複雑に捩れて爆縮した。

それと同時に、アドラスの船体が元に戻り、ブラックホールは消え去った。


『いやー流石だねぇ』

『クラッキングを再開する』


しばらく経ってから、ポラノルとグレゴルが戻ってきた。

ポラノルはそのまま敵残存艦隊へ、グレゴルはトランスファーアレイにクラッキングを仕掛けてポラノルを援護する。


『エリアス様の役に立てた....うれしい!!』


アドラスは喜びながら、その全身からミサイルとビームを連射する。


『うわーッ!? ボクがいるのに無茶苦茶だ!』


ポラノルは短距離跳躍を繰り返しつつ、敵のセンサーをジャミングした上でミサイルを誘導して直撃させていく。


『ど.....どうせ、それくらいじゃ....死なないでしょ....?』

『酷い!』


こうして、遺物頼りであった先遣隊は全滅した。

だが、戦いは未だ終わってはいない。

Ve‘zの技術に脅威を見出すジェキドは、上位存在に与えられた使命の為にVe’zを滅ぼさなければならない。

こうして、小競り合いは大規模な戦争へと発展していくのだった。

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