034-温泉

それから数日後。

僕はケルビスに呼ばれ、農園のある惑星へと移動した。


「どうした?」

「西に農地を拡大していたのですが、地中調査の結果温水脈を発見しました」

「それは....もしかして、温泉か?」

「そう呼ばれているものですね」


温泉か。

特に興味はないが、エリスに聞いてみようか。


「...エリスに尋ねてくるから、温水脈を浴槽に溜められるように加工しろ、できるな?」

「はっ!」


僕はエリスに会うため、その場を後にした。

エリスはいつも通り、外縁部のベンチに座っていた。

ただし、何もしていないわけではなく読書をしているようだった。


「エリス」

「....エリアス、どうしたの?」

「...温泉に興味はあるか?」


ふと聞いただけだったのだが、エリスは意外と積極的にすり寄ってきた。


「温泉ね、二人で惑星に降りて行かない? このホテルとか、いいなと思ったの!」

「.....いや、いつもの農園に温泉が沸いたからな。お前が望めば形になり、そうでなければ...」

「あら、いいじゃない! いつでも入れる温泉って、多分素敵よ」


それなら構わないか。

僕はケルビスに建造を進めるように通信を送るのだった。







それから数時間後。

僕とエリスは温泉を訪れていた。


「...浴槽は一つか」

「嫌なら交代で入る?」

「......」


別に僕は興味はないから、エリスだけに入ってもらおうか...?

考えていると、エリスに手を引かれる。


「行きましょう、一人で入っても寂しいのよ」

「...ああ」


僕とエリスは、温泉に向かう。

と言っても、木を削って浴槽を作り、その上に屋根をつけて床に簀を敷いただけの構造だが。

服を脱いで、先に僕が入る。

ケルビスだと泉質までは調べていないはずだ。


「.........有害物質なし、酸性度もそんなに高くないか...長居は肌に良くないが」


この世界にも温泉はあるようだが、基本水着を着て入るらしい。

そういうものを作るのは簡単だが、僕たちは身体上同性なのでいらないという結論に達した。

同時に、囲いの類も無いため、一見すると足湯専用に思える。


「...ちょっと熱いわね」

「薄めるか?」

「大丈夫よ」


この惑星にも四季というものはあり、今は春にあたるので、雪解け水が地下水脈に流れ込んでいる。

少し遠いが、井戸があるのでそこで汲んだ水で薄められるはずだ。


「......なんだか新鮮ね」

「何がだ?」

「任務に追われていた時は、こんなことを考える余裕なんかなかったもの」

「そうか」


僕も同じようなものか。

親の期待に応えなければならないと努力して、一切の娯楽を無駄と切って捨てていた。

だが...実際に触れてみると、それらはとても良いものだった。


「...なら、僕も同じだな」


同時に、エリアス自身も...

温泉が沸いたから入ってみようなどとは思わなかったはずだ。

だから、僕は前世と今世共に知らなかったんだ。

人の温かみを。


「エリアス様!」


その時、カサンドラの義体がこっちに向かって歩いてきた。

何かあったのだろうか?


「ケルビスが、エリアス様たちに飲み物をお出しするようにと」

「ああ...ありがとう」

「では、私はこれで」


カサンドラはテレポートして消える。

後には彼女の置いて行った果汁水だけが残った。

多分ケルビスは男性型のAIだから、エリスに配慮してくれたのだろう。


「飲むか?」

「いただくわ」


僕らは果汁水を飲んだ。

いずれはアルコールにもチャレンジしてみたいが、多分酔うのは彼女だけなんだろうな...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る