007-奇妙な出会い

「はぁ...?」


今はちょっとタイミングが悪かったなあと思って見ていたのだが、急に謎の光線が謎の構造物を破壊した。

そして、五分も掛からずに全部綺麗になってしまった。

あの光線はどうやら「アルカンシエル」と呼ばれる兵器らしい。

つまり、やったのはVe’zの戦力という事だ。

何故だ......?


『ご覧ください、宝石の埃は我々が掃除いたしました』

「.........そ、そうか」


やらかしたかもしれない。

いや、やった。

僕がやったんだ。


「......よくやった。次からは、戦力を動かすときは通知を入れてほしい」

『了承いたしました、エリアス様』


何人死んだ?

戦闘ログを調べても、見当たらない。

ようやく僕は理解した。

カサンドラ達は、結局AIなのだと。

人間が何百人死に絶えようが、主の命令でないことは記録しない。

人の命を大事にしようなどと、人間主観の考え方はしないのだ。


「......もっと、気を付けないと」


僕はVe’zの主だ。

急に押し付けられた役割だけど、世界のバランスを大きく乱すこの勢力を、何とか引っ張って行かないと。

そして、帰れたら帰ろう。

弟の顔を見て、両親に謝って。

それから色々考えればいい。







数時間後。

星の数を数えるのにも飽きた僕は、都市の外周を歩いていた。


「.........」


この都市では、娯楽は少ない。

Ve’z人は生命の高みである「完全なる満足」に到達した種族なので、あらゆる欲求を超越した結果、色々欠けているのだ。


「そうだ」


僕はその辺のベンチに腰を下ろし、目を閉じる。

唯一暇をつぶせそうなものを思い出したのだ。


『神経接続:思考中』

『遺伝情報:承認』

『接続開始:不安定性0.001%』


目を閉じると、僕の身体は都市コンピューター内部にある広大な電脳空間に飛んでいた。

ここは、知識の宝庫だ。

過去から現在にわたって、Ve’zが収集してきた書籍のデータが全てここにある。

勿論、その中身は全て知識としていつでも引き出せる。

でも、この目で見なければ知識の意味はないだろう。


「.........」


僕が「絵のついた本が読みたいな」と思うと、本棚のいくつかから本が消え、漫画本によく似た本が詰まった本棚が目の前に現れる。

ただ、実際は眺めるだけに終わる。

星が違えばセオリーも違うので、地球人的な感覚で愉しめる本は少ない。


「......」


成程、と思う。

感情や欲求を捨てなければ、気が狂ってしまうだろう。

事実、僕が使っているこの身体はエリアス、つまり女性のものだが、既にその身体機能は失われて久しい。

食欲・睡眠欲・性欲、その全てが”抑制”されているわけではなく”存在”していないのだ。


「......」


気づけば、僕は日の差し込む一室にいた。

電脳空間では何でも再現できるからだろう。

僕はそれを、手で振り払って消す。

結局こんなもの、何の慰めにもならない。


「さて、そろそろ........!?」


その時。

本体の方に何かが起きて、神経接続が強制的に遮断される。


「ぐ........」


目を開けると、目の前に何かがあった。

高く跳んで、反重力スラスターで空から俯瞰する。


「これは.........船か?」


酷く損傷している。

そもそも、三重のシールドを突破してここに来た以上、考えられるのはVe’zの技術をはるかに超えたワープ技術か、それとも......


「ワームホール、か」


自然発生のワームホールの発生だけは、Ve’zでも妨害できない。

でも、たまたまここに飛んでくる事なんか起こるのか?


『エリアス様、その場をお離れください』

「問題ない」


僕は触手を使って、船に近寄る。

ハッチを両手で掴んで剥がす。


「っ」


直後、身体に衝撃が走る。

ふと身体情報を参照すると、胸に綺麗に銃創が走っていた。


「やってくれる」


内部に入り込み、攻撃者に掴みかかる。


「くぅ....ッ!」

「女だと!?」


攻撃者の正体は女性だった。

とりあえず、触手で包んで外に放り出した。

何か叫んでいるので、ライブラリから言語を解析する。

2年前が最終更新だが、[ジェラド星系]で共通して使われる言語のようだ。


「な、なんで死なないの!」

「悪いが、心臓がないのでな」


ちゃんと胸を狙っていた。

ほぼズレのない、高精度の射撃だ。

銃を見る限り、アシストもほぼない状態で放ったことになる。

残念ながら、Ve’z人は心臓で血液を循環させてるわけではないので、心臓を撃っても死なない。

慌てて治療したが、あとで別のクローンに意識を転送しておこう。


「あ、あなた、人間じゃないのね!?」

「よくお分かりで」


僕の胸から、橙色の血が流れているのを見て、人間じゃなさそうだと分かったようだ。


『エリアス様! ......お怪我を! その生命体を抹殺します!』

「待て」


僕はその場にいる戦闘ドローン全体を無力化する。


「僕はエリアス。君はどこから来た?」

「....化け物に語る言葉はないわ!」

「あ、そう」


僕は彼女を連れたままメディカルベイ医務室にワープする。

突然周囲の景色が切り替わり、彼女は驚いているようだ。


「ぐっ」

「寝ていろ」


適当なメディカルポッドに放り込んで、起動する。

彼女はしばらく抵抗していたが、ただの人間だったようですぐに眠りだした。

さぁ、あの船を解析してみよう。

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