144-リベリオン

アルテミスは、通称バスチオンと呼ばれるホールドスターの一つ下に当たる要塞だ。

ホールドスターより防衛力と攻撃力ではるかに劣り、最終兵器を搭載できない欠点がある。

しかし、


「主力艦と隠し財産の置き場所には丁度いい場所なんだよな」

『シンよ、資源を隠し財産呼ばわりするのは各方面に失礼じゃぞ?』


今回もまた、資源と燃料を節約しながらの戦いとなる。

主力艦に積載している分を他に回すことはできない以上、必然的に厳しくなるな。

まあ、オーロラとディーヴァがいる。

メンタル面では大丈夫だろう。


「それよりも.....オーロラ、敵のデータは?」

『収集はしていますが.....そもそも構造解析すら行っていないので、何が起きたのかすら不明です』

「残骸は回収したから、それの解析も頼む」

『はい』


アルテミスの戦闘指揮所は、元々滞在を前提としていないので席が一つだけであり、その周囲に立体モニターがあるような形だ。


「主力艦建造の資源が足りないな......だが、上位艦船を作る分には充分か」


上位艦船。

それは、要するに高技術レベルの艦船という事だ。

今までは、単純に過剰戦力という事で生産していなかった。

生産・維持コストに比べて撃破された際のリスクが高すぎるからだ。


『上位艦船というと、ミストルティンのような?』

「そうだな」


吶喊型フリゲートであるフェイルノート級の改良型である攻城型フリゲート、ミストルティンは、凄まじい攻撃能力を持つ。

どれくらいイカれた攻撃能力かというと、カチカチに固めた襲撃型戦艦スレイプニル級のシールドを一撃で貫通し、装甲を二枚程貫通する。

過剰戦力ってレベルじゃねーぞ! というわけで、今までは製造していなかった。


『では、ミストルティン、ドラゴンキラー、ギャラハッド、ステラクイーン、エストック、ロキの製造を開始します』


ミストルティン級攻城型フリゲート、ドラゴンキラー級要撃型駆逐艦、ギャラハッド級装甲巡洋艦、ステラクイーン級支援母艦、エストック級高速巡洋艦、ロキ級襲撃型戦艦。

それに、より高位のエネルギー変換クリスタル、砲弾、ミサイルを搭載し、ネムとルルを奪還する。


「司令官、私はどうすれば?」


後ろに立っているアインスが、問う。

彼女はタウミエルの搭乗者であり、タウミエルはオーバーホールを経て真の能力を手に入れた。


「今後の作戦立案に協力しろ。その際、敵旗艦に直接攻撃を掛ける際にタウミエルを運用する」

「イエス、サー!」

『妾は出なくとも良いのか?』

「俺の護衛を頼む。そもそも、お前は指揮官機だろ」

『そうじゃが...』


指揮型艦のサンダルフォンと合体しているマルクトは、そのまま戦場においての指揮官機になる。

新型の超大型潜宙艦ヨグ=ソトスに搭載し、脱出ポッド代わりに運用すればいいだろう。


「さて、アルテミスの機能はこれくらいか」


腹に大量の主力艦を抱えている以外は、Noa-Tunとあまり差異はない。

防衛を前提に置いていないため、装甲や武装も削減している。

あとは、ホールドスターとは異なり居住区に余裕がないので、大浴場や大食堂のような設備はない。

その代わり、俺の大好きな(白目)非常用食料の備蓄は大量にある。

数人であれば、死ぬまで暮らせるだろう。

まあ、それに甘んじる気はないが。


「それで、敵の侵入経路は分かったか?」

『はい。アザトースで各星系の残存データバンクとの通信を試み、敵の侵入経路を特定しました』


モニターに、赤外線センサーのスキャン結果がグリッド表示される。

それは、まるで――――


「ワームホールだな」


ナージャが使っていたワームホールによく似ている。

つまり、奴らは......ワームホールから来たという訳か。

だが、今回の場合は最初からあったというよりは、後から開いたように見える。


「ナージャに話が聞けないのが残念だな....」


ナージャはビルジースプライムで作業中だったため、この場にはいない。

元の武装は全て返してあるので、適当にこの場を乗り切ってくれるだろう。

助けに来てくれるかは分からないが.....


『しかし、敵の情報らしきものはデータベースにありました。艦船の特徴が一致するため、情報が不正確ですが一応正体は掴めたと思われます』

「で?」


俺は続きを願う。

この強大な敵の名を、早く知りたいと思ったからだ。


『――――エミド。クリストフからの情報により判明しました。パーティクルオシレーションディケイと呼ばれる高周波分子振動による物質構成の脆弱化を伴うレーザー攻撃をメイン兵装として使用する勢力です』

「それがまた、何で?」

『過去の例によれば、”秩序を乱した”という名目で国家を滅ぼしているようです』

「秩序ねぇ.....」


俺の嫌いな存在だ。

神、運命、秩序。

エントロピーに従わず、一定化の理念を他人に押し付ける。


「俺たちが秩序を乱すというのなら、その喧嘩――――買ってやろうじゃないか」


つまり、この売られた喧嘩に俺が勝てば。

エミドは反対に、秩序を乱した者となる。


「面白い」

『そうでしょうか.....?』

「ああ、面白いさ」


負けたのは最初だけだ。

ゆっくり考える時間は十分に得た、これからが反撃の時。

俺はモニターに移る無数の映像を前に、ほくそ笑んだ。

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