シーズン6-ビージアイナ戦後
121-すれ違い通信(意訳)
俺は、オーロラに全てを任せた。
シャトルから運び込んで、オーロラの配備した耐衝撃輸送カーゴにディーヴァを入れて、それで...
『こちらが、現在のディーヴァ様です』
「そう、か...」
結果からすれば、ディーヴァは助かった。
だが、俺はもう彼女の手を握ったり、抱き締める事はできないようだ。
なぜなら...
『失った血を再生させる技術は無いため、ナージャの義体に使われているものと同様の代替血液への適応手術を行いました。肉体の欠損が激しかったため、そのまま代替血液に沈める形となってしまいましたが...』
ディーヴァは服を脱がされた状態で、耐衝撃・合金混合アクリル水槽の中で浮いていた。
その全身には器具が取り付けられ、彼女の生体細胞を維持し続けている。
「もう意識は戻らないのか?」
『いえ、そういう事は特に』
『うむ』
オーロラの声に重なって、その場に声が響いた。
同時に、目を閉じていたディーヴァが、水槽の中で目を開けた。
『妾は全く問題ないぞ、シン』
「いや、待て。なんだその喋り方は」
今までそんな喋り方だったか?
俺は疑問に思い、問いかけた。
『...ちょっと悲しいのじゃが...ずっとこうであったぞ』
『もしかして、司令官...ずっと一般会話しか学んでいないのですか?』
「いや...そりゃそうだろう、すぐに身につけられるのは一般会話だぞ?」
まさか。
俺はずっと、丁寧語(古語)で話しかけられていた?
たまに分からない部分はフィーリングでなんとかしていた節があるのは認めるしかない。
『何と...今はオーロラ様の自動翻訳であるから、それに驚いたのじゃな』
「ああ」
俺は頷いた。
だが、これで互いに真の意味で分かり合えていなかったことが判明した。
『何はともあれ、この姿は妾に相応しいの...国民を火に焚べ、父上からいただいた土地を鍋で煮て悪魔の心臓を得たのじゃから』
「ああ、この仕打ちは俺に相応しい。お前を利用しようとして、結果としてもっともらしい嘘をついて、お前の全てを捨てさせたのだから」
『似たもの同士じゃったな!』
「そう...だな...」
国を滅ぼして得たものは、俺一人。
これでいいのか?
そう聞きたかったが、聞く前に言われた。
『妾は、最初こそお主と暮らしたかった...じゃがな、人は追い詰められると本性を出す生き物。......妾に悪感情しか持たぬ者ばかりの帝城で豪華な暮らしを送るより、どんな形でもシンと共にいたくなったのじゃ』
「俺にそんな価値があるのか?」
『悔やむでない、シン。妾が信じた男はそんなにヤワではなかろう。妾たちは共犯者なのだから』
「まあ、お前が気にしていないなら構わないが」
国民を殲滅したのも領域支配ユニットの係留のためであるし、領土はこれから俺たちに潤沢な資源を齎してくれる。
俺は俺で妹のように思っていた大切な人間が、生きて手元に戻った。
全て解決、万事問題なしだ。
まあ、唯一問題があるとすれば...
『もう行ってしまうのか?』
「...まだ戦いは終わっていない、俺は艦隊総司令官として、ビルジアイナディートにとどめを刺す」
『頑張るのじゃ、お兄ちゃん!』
「ああ」
少しドキッとした。
声色が妹に似過ぎだったからだ。
頑張ろう。
「くっ...!」
ルルは機首を持ち上げて、強引に都市から脱出する。
そうして、外壁からの弾幕の雨を回避しながら、空母の一つに何とか着陸する。
「がはっ...はぁ、はぁ...」
コックピットに取り付けられているエチケット袋に、血の混じった唾を吐いて、ルルはスワロー・エッジの燃料の補給を受ける。
覚醒とは、ルルの身体能力や反射力を大幅に上げるが、デメリットが無いわけがない。
覚醒はルルの幼い身体には負荷が強く、ほんの短時間で体内が傷ついてしまう。
成長すれば負荷は体外に向き、獣人の技術でも治癒可能な傷になるのだが。
「.........はぁ、はぁ」
ルルは高速修復ナノマシンユニットを使い、自分の体内の傷を治す。
このままではジリ貧だが、ネムからの指示はない。
けれどルルは、ネムの事を信じていた。
無責任に放り出したりは、決してしない事も。
『こちらネム! 全体に通達! 作戦参謀が新たに作戦に参加する!』
そんな言葉が、全体に響く。
そして次に、聞きなれた声が、コックピットに響いた。
『皆。俺だ。今から作戦内容を解説する。敵の旗艦は通常の知識では勝てないことが分かった.....だからこそ、もう一度聞いてほしい』
ルルは勝利を確信した。
敵の本拠地から、司令官が戻ってきた。
それだけで、もう負ける要素がないのだから。
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