120-”嘘”と『裏切り』

シンは、いつまで経っても来ないディーヴァを待ちきれなくなり、事前に通ってくるらしいルートを歩いていた。


「こんな場所に地下道があるとはな」

『帝城の地下に通じているようです、やはり貴族の令嬢だったようですね。軍の関係者なのでしょうか?』

「さぁな...俺にもわからん」


シンは慎重に、慎重に歩き続ける。

いくらシンでも、戦車に艦砲を取り付けるような真似をされれば危ない。

そして、その危険は...前からやってきた。


「...はっ!?」

「お前は誰だ?」

「お前こそ、名を名乗れ!」

「はっ...俺こそがノーザン・ライツだ」


シンは踏ん反り返るような演技をもって、相手を挑発する。

冷酷に国民を皆殺しにした戦争犯罪人を前にした相手が、どう出るかを観察したかったからだ。


「お前がッ...!」

「怒ったか? なら攻撃するがいい。俺はお前たちの敵だ」

「死ね!」


騎士は銃を抜き、シンを撃つ。

だが、レーザーは全て、シールドに弾かれて消えた。


「では、質問をしよう、この道は公然のものなのか?」

「いいや。この道を知っているのは...皇族だけだ」

「ならば、なぜお前は知っている?」

「俺が殺したからだ! お前の間者は死んだぞ、俺たちは勝ったんだ!」


思い出したように、騎士は壊れた通信機を出した。

その瞬間、シンは全てを理解した。


「そうか」


直後。

シンは護身用の銃を抜き、撃った。

酷い精度であり、それは騎士の頬をかすめ、撃ったシン自身も銃を取り落とした。


「腑抜けが...っ!?」


直後。

機関銃の嵐が、騎士を蜂の巣にした。

騎士は即死し、シンは駆け出した。


『司令官!? 危険です!』

「急がないと間に合わん!」


シンは走った。

その先に誰がいるかに気付いたからだ。

その人物が、どうなっているかも。


「デーヴァ!」


そして...その先には、凄惨な光景が広がっていた。

ひしゃげて歪み、捨てられた儀礼剣と。

左胸、右腹部に銃創、そして全身は...直視できないほどにズタズタにされたディーヴァがいた。


『司令官...これは...』

「...まだ助かる」


シンは誤魔化すように、ポケットから出したナノマシン高速修復剤をディーヴァに突き刺した。

中身が注入され、ディーヴァの顔色が少しだけ良くなる。


「......シン、さん?」

「ああ」


虚だった目に、少しだけ光が戻った。


「わた...し...死ぬんですね...」

「......」


シンは何も言わない。

何を言うべきか、迷っているのだ。


「私...あなたを......騙して...」

「皇女のことか?」

「...生き残りたい...ばかりに...」


今までのことは全て嘘だった。

自分は一国の聡明な皇女と、茶番をしていたに過ぎない。

シンはその事実を突きつけられた。

だが、それ以上に...


「俺も、お前を騙していたよ」

「...?」

「ノーザン・ライツが主席なのも、嘘だ。俺がNoa-Tun連邦の真の支配者だからな。そして本当は、お前のことも散々利用して、最後は捨てるつもりだった」

「...そう、ですか...」


ディーヴァの目から光が消えようとしている。

シンは血まみれのその身体を、抱き上げた。


「...えっ?」

「だけどな。俺はお前が気に入ったんだ。傲慢かもしれないが...俺のために死ぬな、デーヴァ!」

「えっ...えっ...その、私はディーヴァです...」


あまりに多くの血を失った影響か、思考力の低下したディーヴァは混乱してずっと正せなかった間違いを正した。


『ああーーー! なるほど、ディーヴァでしたか...もっと早く間違いに気付いていれば!』

「それより! この状態から治せるか、オーロラ!?」


シンの必死な質問に、オーロラは自信なさげに返した。


『......正直なところ、難しいです。肉体の損傷が激しすぎるので、ナノマシンでは治せません。それに.....ナノマシンでは、血までは.......』

「........そうか」


シンは暗い顔になる。

だが、その時。


『不可能、否定。オーロラ、義体研究データ、流用』

『あなたの義体データを.....?』

『私、作る技術、知識。皆無......否、流用研究、知識、有』

「.....成程、オーロラ! ナージャの義体研究データを、『時の揺り篭』の中でアップグレード研究! 俺が今からディーヴァを持ち帰るから! それまでに、解決策を!」

『お任せください』


オーロラは即座に、使用されていないメモリ領域全てを、時間遅延艦船建造ドック『時の揺り篭』の内部のコンピューターで使用し始めた。

シミュレーション研究を繰り返し、理論に変え、それをさらに上の仮定に押し嵌める。

そんな作業を。


「悪いな、シャトルまで!」

『早くお乗りください、シャトルの緊急延命ユニットで、何とか脳死は防ぎます!』

「ああ!」


シンは急いでシャトルに乗り込み、ディーヴァを緊急延命ユニットに繋ぐ。

薬物の投与で、一時的に心臓と脳、主要器官の停止を防ぐのだ。


「.....どうして、私に....ここまで.....」

「少し、妹に似ていたんだ」


シンはそう吐露した。


「だが、誰かの姿を投影して、それを愛するのは......きっと、愚かな事だ」

「..........あの」

「もう喋るな。次に起きたときには、きっと元気になっているだろう」


二人を乗せたシャトルは、宙域を離脱するべくワープしていった。

後には、廃墟と化した帝城と、死骸以外何も残っていない街があった。

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