102-古代からの贈り物

「........」

「シン様、食べないんですか?」

「....あ、ああ。ちょっと考え事をしていた」


余りある資材の分散方法。

それを考えているうちに、食事の手が止まっていたようだ。


「ルル、ネム。気にしなくていいから食べろ。大きくなれないぞ」

「そ、それは....」

「ネム、食べるの大好き!」


ネムが口元を汚しつつ叫ぶ。

俺は机の脇からティッシュを出し、ネムの口周りを拭いてやる。


「........恐らく。司令官、思考の散逸.....資材過多?」

「その通りだ」


ナージャがパフェを食べながら尋ねてくる。

流石にデータベースを閲覧できるだけあって、鋭いな....


「艦船、建造に使用......既出案。....代替案.....」

「食べてから話したらどうだ?」

「確実性の高い提案、感謝」

「どうして会話が成立するんでしょうか....?」


ルルが不思議そうに呟く。

そうは言われても、英語を読むようなものだ。

単語だけ引っこ抜いて頭で組み立てれば、何を言っているかはわかる。

俺は周囲を見渡す。

アインスとツヴァイは、既に食事を終えて待機している。


「二人とも、部屋に帰っていていいぞ」

「イエス、サー!」

「イエス、コマンダー」


アインスとツヴァイは部屋へと帰っていく。


「もしかして、シン様.....あの人のことを?」

「あの人?」

「ほら、貴族のお嬢様? を保護したんでしょう? すぐにお別れすることになったとか....」

「ああ! デーヴァの事か....別に大したことではない」


ちょっといいなとは思っていたが、それだけだ。


「俺が恋してるのは資材だけだからな」

「........」


ルルが冷たい視線を浴びせかけてくるが、俺には効かない。

溜まっていく物資こそが、俺を魅了する唯一のものだ。

この二人も......もう少し大きくなれば、俺から自立して離れていくだろう。


「ところで、二人の誕生日はいつなんだ?」

「......シン様は、獣人族の暦の数え方をご存じですか?」

「あー....成程、後でオーロラに教えておいてくれ」

「分かりました!」


その時、ナージャが俺の方に視線を向ける。


「どうした?」

「食事終了。――――先の件、継続」

「ああ」


ナージャは俺の端末にデータを転送する。


「これは....?」

「Ve’z技術。私、個体:シン、充分な信頼性を付与、技術供与の権利有と判断」

「俺に技術を預けてくれるわけか....ありがとうな」

「.......妥当」


ナージャは頬を染める。

意外に器用だな...


「とにかく、これを建造するとなれば、今流入している物資でもカツカツになるな.....いいだろう」


ナージャが渡してきたのは、恐るべき科学技術の塊だった。

オーロラでも、基礎理論が不足しているために設計図通りに作るしかできないようだった。

その正体は――――


『あれは、内部の時間の流れを遅延させることのできる装置です。ただし、動力は膨大であり、Noa-Tunの動力からリークさせたとして一日数時間しか稼働させられません』

「何日分だ?」

『1時間あたり、一週間分遅延させられます。これで主力艦の建造が捗りますね』

「........中々、面白い状況だな」


言うなれば、1万円を保管するために金庫を買ったら、金庫が1万円だったような話だ。


「内部で人間は生きられるのか?」

『可能です、ただし精神に未知の影響が波及する可能性があります』


長居は禁物か。

1日くらいなら、ゆっくりできる場所として使えるかもしれないが。

大きさはNoa-Tunの半分程であり、係留による影響はない。


「よし、建造を開始せよ」


ビージアイナ帝国は主要なルートを抑えられ、最早瓦解しかかっている。

それにとどめを刺すために、俺は次なる戦力増加案を練るのだった。

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