089-死出の騎士達

『敵艦載機、こちらに向かってきます! 旗艦からの指示はありません!』

『ふんっ、愚かな....我ら帝室騎士団の対空能力を知らない蛮族など、相手にもならぬわ』


空母の艦長は、指揮系統が麻痺しているのにも関わらず、平常を保っていた。

なぜならば、彼らは独立した指揮系統を持つことを許可されているからだ。

帝国の皇女を守るためであれば、独断専行もやむなし、というわけであった。


『侵略者どもめ、この手で蹴散らしてくれる!』


空母から発艦した艦載機の編隊は広範囲に展開し、Noa-Tunの艦載機編隊を迎え撃つ。


『むっ、三機とは卑怯なり!』


獣人の一人が弱音を吐く。

彼の機体の背後には、三機の追跡者が張り付いていたからだ。


『しかしながら――――その余裕は実に姑息なり!』


彼の機体は、逆噴射をしながらスラスターで高速旋回を見せ、ほぼ180度反転して追跡者の斜め横をすり抜けた。


『な、何だ!? 今の軌道はっ!?』

『あ、ありえん....!』


帝国で一般的な艦載機は、慣性制御によるG抑制などという便利な機能はない。

それ故に、無理な機動を取るNoa-Tun艦載機の動きについてこられず、あっという間に背後を取られた。


『食らうがいい、この機関砲を! 一発一発の弾丸がお前達の翼を削り取るのだ!』


獣人の乗る機体はファウヌス。

両翼に機関砲を装備した、制圧型軽戦闘機である。

放たれた機関砲の弾の精度は低く、その全てが当たるわけではない。

だが、素早くバレルロールで離脱した一機を除いた二隻は、蜂の巣となって墜落する。


『クソォ、なんて性能だ...ッ!?』

『只今参上致した!』


その時。

逃げようとする軽戦闘機のキャノピーに影が差す。

上を見上げたパイロットは、特徴的な機影を目にした。


『敵に背を向ける不届者め、くたばれ!』

『は、速...ぎゃああああああっ!』


速度だけは一級品。

その名を、エインハージといった。

両軍の戦闘機編隊は、交戦後に帰投し補給を行う。


『三十二機帰還、未帰還機二十二!』

『六十機帰還。未帰還零。』


両軍ですばやく情報共有が行われるが、艦載機戦においても実力差は決定的だった。


「あり得ない...我々は数十年戦ってきたプロのはずだ、何故あんな動きができる! 何故、ぽっと出の侵略者があれほどの技量を持っている!?」

「考えても仕方がないだろう...」


ビージアイナ側のパイロット達は、長年敵対してきたオルトス王国のエースパイロットに勝るとも劣らない技量を持った敵のパイロット達に、不気味なものを覚えていた。


『司令官、かなり上手くいきましたね』

『ああ...まさか、スキルシリンジでエースパイロットの知識を共有できるとは思わなかったな』


Noa-Tun側は、タルタロスに捕獲していたクロトザクのエースパイロットから、スキルエミッターでその経験を吸い尽くしてスキルシリンジ化していた。

それを天空騎士団全員に挿入することで、パイロットの知識と勘を身につけることが出来たのだ。


『補給完了、第二波攻撃に出ます』

『パイロットの疲弊をほぼ気にしなくていいのが、獣人の良いところでもあるな...』


肉体的、精神的な疲労。

それは艦載機のパイロットであれば誰しも経験することだ。

事実、ビージアイナの兵士たちも、彼らの信奉する神に祈って出撃している。

だが...獣人達は違った。

彼らにとって、家族のために死力を尽くして殉じる事は、最高の名誉なのだ。

そして、死ぬ事も恐れてはいない。

シンがいる限り、残された家族は守ってもらえる。

そう信じているからだ。


『第二陣接近!』

『バカな、まだ補給中だぞ!?』


普通は艦載機撤退後は艦隊戦に移行する。

だが、艦載機も艦隊も、その猛攻を止める事なく進撃していた。

未だ旗艦が沈黙している状況で、このまま艦載機の接近を許せば、最悪全滅も有り得る。


『敵編隊、展開を開始しました』

『よし、全艦隊にドローン出撃指示。攻撃じゃないぞ、妨害ドローンだ』

『分かりました、ECM、GDAL、スキャン分解ドローン出撃開始』


電磁パルスと、GravityDirectAnchorLaser(重力鋲)、スキャンを分解し、ターゲットを阻害する能力を持ったドローンがそれぞれ出撃していく。


『どうした、ツヴァイ?』

『ハッ、司令官。修復ドローンなどは必要ないのですか?』

『ふふ.....まあ、見ていればわかるだろう』

『イエス、マスター』


ツヴァイは食い下がらずに退く。

こうして、戦闘は終局に向けて動き出した。

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