088-かき乱す黒鳥

『第五分隊、作戦宙域へ到着』


事前に指定した座標へとワープしたガレス艦隊は、艦載機の展開を始める。

それを確認したビージアイナ艦隊は、集合を始める。


『やはりな』

『予想していましたか?』

『勿論だ』


シンは目を細める。

宇宙海戦における、艦載機への有効な陣形は集合すること。

艦と艦の密度を高めることで、艦載機への攻撃に対処、もしくは防御しやすくするのだ。


『この陣形は巧いな、防御の厚い戦艦を前面に出すことで、前面からの砲撃を防ぎつつ、側面はシールド出力の高い巡洋艦でカバーしているようだ』

『でも、シンさま! それは.....』


ネムが手を挙げて発言する。

シンは、それを遮ることなく目をやる。”続きを言ってみろ”と。


『それは....こちらの第三分隊の爆弾があれば、無意味ですよねっ!?』

『その通りだ。爆撃艦にとっては密集した艦隊など、餌に過ぎない』


遮蔽した状態で、第三分隊が左右に分かれて展開し、前進を開始する。

戦艦に当てるのではなく、左右のシールド艦に当てるつもりなのだ。


『司令官、艦載機『ブラックバード』から通信が届いております』

『スクリーンに出せ』


シンがそう命じると、戦闘指揮所の大モニターに、黒兎獣人の少年が映る。


『.....誰だったかな』

『(司令官、特殊作戦機の)』

『.....アズルか、どうした?』

『現在ガレス周辺を旋回中、編隊長が指示を求めてきていますが、どうしますか?』

『オーロラ、サウンド02』


その時、アズルの通信回路に音声が流れる。

直後、アズルは敬礼すると通信を切った。


『アズル君......し、シン様....これはどういう事なんですか?』

『ああ、説明していなかったな』


シンは大モニターに、アズルのデータを表示する。


『アズル....男性、16歳。兎獣人で、身体的特徴から人望はなく、パイロット適性もない』


シンはそう言い切ってから、前を向く。


『だが、彼には他の兎獣人にはない能力がある』

『それは...?』

『絶対音感だよ。彼は少ないフレーズのメロディを聴くことで指示を受けて、全体にローカル通信で指示を飛ばすんだ』


シンはアズルの音感を買っていた。

指示を飛ばす暇がない時、メロディの微妙な差異で正確な指示を飛ばすのだ。

そして。


『彼の機体はスワローエッジをベースに改良を加えたものだ』

『ええっ!?』


スワローエッジは自分だけのものと思っていたルルが、驚いたように叫ぶ。


『落ち着け。スワロー・エッジよりは性能が低い。それに俺は、あれをスワローエッジではなくブラックバードと呼んでいるからな』

『どういった機能なのですか...?』

『見ていればわかる』


シンはそういって笑う。

その間に、爆撃艦は射程距離へと入っていた。


『爆撃艦隊、射程距離に到達』

『敵惑星の背面の座標は記録しているか?』

『はい』

『では、爆撃艦隊...全艦、遮蔽解除。のち、ボム投射!』


カタパルトにセットされたボムが放たれ、敵艦へ向かって飛んでいく。


『情報統制はしっかりしているから、敵にとっては未知の攻撃だろうな』


シンは呟く。

ボムは通常のミサイルと形式は似ているが、シールドを持っているために、迎撃は高火力の一撃...ブラストウェーブなどでなければ不可能だ。

すぐに敵艦隊の前面で爆発が巻き起こり、シールド艦が火を噴く。

戦艦は耐えたものの、背面での爆発により推進機を破壊され、行動不能に陥った。


『第一、第二、第四分隊は前面へ展開せよ! 第五分隊の艦載機編隊は敵艦隊の上部へ移動開始! ブラインドファイスは敵艦隊旗艦にECMを展開!』


ブラインドファイスによる電磁パルス攻撃に対し、ビージアイナ艦隊旗艦はECCMを展開するものの、強度が高すぎて防御できずに浴びてしまう。


「敵、電磁パルス攻撃によりシステムがダウン!」

「馬鹿者、対電磁防御はどうした!」

「破られました! 通信回線がダウン!」


密集した艦隊は、対空防御が可能――――――だがそれは、指揮系統が正常に機能していればの話である。


『ルル、俺は.....その、天空騎士団を使い潰すつもりではある』

『.....はい』


ルルは、シンの一面を知った。

だが同時に、彼がそんなことを口走る理由について考えもした。


『だが、無為に死なせるなんてことはしない。味方である以上、損耗がないように運用するべきだからな。彼らは同族を養うために犠牲になってくれているんだから、最低限の応援は必要だろう――――アグリジェント、シンフォニア! シールドエコー! シールドウェーブ、スピードウェーブ、スキャンウェーブ展開!』

『各ウェーブ展開。シールドエコー開始』


アグリジェント、シンフォニアのそれぞれ二隻が光の波を放つ。

その波は、展開していた戦闘機隊へと覆い被さり、すべての機体のシールド出力と性能を大幅に引き上げた。


『戦闘機隊、進撃せよ!』


司令官の号令が下り、すべての艦載機が速度を上げ、敵艦隊へと迫った。

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