043-状態チェック

Noa-Tunの朝は早い。

惑星イルエジータを標準時として生活するシンは、日の出――――朝5時には目覚め、シャワーで身体を清め、歯を磨いた後に自室で簡単な食事を摂る。

オーロラが丁寧にアイロンをかけた軍服を着て、鏡の前で制帽を被って部屋を出た。


『今日はどのように?』


部屋を出ると、オーロラが話しかけてくる。

「緊急時以外は寝てる時に話しかけるな」という命令を遵守しているためだ。


「通常業務だ、領内の哨戒と、ホールドスターの全体チェック」

『哨戒班は既に出撃しています。皇国首都星から四隻の艦隊が出撃したのを確認しましたので、見つけ次第撃墜します』

「しつこいな」


惑星軌道の封鎖は、ドルドリーク軌道上に大型要塞「スターフォート」の建造が行われるまでは不可能であり、監視だけに留めていた。


「そうだ、戦闘機の生産はどうなった?」

『ルル様の適性を調べるため、各種一機ずつ製造、ホールドスターの内部に運搬しました』


ルルの適性を調べるため、という名目で本当は現実になった戦闘機が見たいという理由なのだが、シンは満足そうに頷く。


「皇女の実験結果は?」

『リスト1022種のうち33種の実験完了、検体の消耗が激しいため現在治療中です』

「分かった」


シンは皇女が何をされているのかを把握している。

ホールドスターの高度な医療技術を活用して、インプラントやドリップの投与による副作用や効果を確認してから、除去して次の投与を行っている。


『必要でしたら、様子を閲覧しますか?』

「いや、一度でいい....」


皇女が整った顔を歪ませながらやめてくれと懇願しながら喚くのは、正直シンにはきつかった。

戦争犯罪人である皇女には妥当ではあるのだが.....


「何度も聞くが、壊してないだろうな?」

『はい、精神的に不安定になるたびに精神安定剤を過剰投与し、酩酊状態にさせることで誤魔化しています』

「...」


シンはそれ以上何も言わなかった。

できれば、自分がその目に遭うことは避けたい、程度に思った。




戦闘指揮所は、いつも通り無人だった。

ホールドスターの機能を把握しておらず、権限もゲスト程度しかないルルとネムは、退屈なこの場所には来ないのだ。


「採掘状況は?」

『予定の32%を完了、アステロイドベルトが枯渇したため、現在探査中です』

「わかった」


シンは喋りながらホールドスターの設備のチェックを始める。


ホールドスター 『Noa-Tun』 状態:係留 イルエジータ軌道上


◇物資倉庫 状態:『平常』 

◇修理ベイ 状態:『平常』

◇マーケットベイ 状態:『切断』

◇ドローンベイ 状態:『平常』

◇加工施設 状態:『平常』

◇研究施設 状態:『平常』

◇居住区画 状態:『平常』

◇弾薬庫 状態:『平常』

◇小型艦艇ドック 状態:『平常』

◇中型艦艇ドック 状態:『平常』

◇大型艦艇ドック 状態:『平常』

◇旗艦級ドック 状態:『建造中』

◇戦闘指揮所 状態:『平常』


◆シールド 100%

◇シールド発生コア 状態:『平常』

◆アーマー 100%

◇アーマーリペアシステム 状態:『稼働中』

◆HP 100%

◇オービタルコアシステム 状態:『稼働中』

◆非常電源残量:100%

◇セントラルコアシステム 状態:『稼働中』

電力バランス:正常


「...異常なしか」


シンは呟く。

次に、ザヴォートの状態をチェックする。


ザヴォート 『ヘーパイストス』 状態:係留 Noa-Tun軌道上


◇総合製造システム 状態:『平常』

◇艦船製造システム 状態:『平常』

◇物品工場 状態:『稼働中』

◇小型艦船工場 状態:『平常』

◇中型艦船工場 状態:『平常』

◇大型艦船工場 状態:『平常』

◇旗艦級工場 状態:『建造中』

◇資源処理施設 状態:『平常』

◇化学処理施設 状態:『平常』

◇物資倉庫 状態:『平常』

◇中央指揮所 状態:『稼働中』

◇グランドリペアシステム 状態:『待機中』


◆シールド 100%

◇シールド発生コア 状態:『平常』

◆アーマー 100%

◇アーマーリペアシステム 状態:『平常』

◆HP 100%

◇オービタルコアシステム 状態:『平常』

◆非常電源残量:100%

◇インダストリアルコアシステム 状態:『平常』

電力バランス:安定


『現在旗艦級工場を建設中です』

「ああ」


シンは頷く。

外宇宙に存在するであろう未知なる文明。

それらと戦うためには、旗艦級戦艦フラッグシップが必要だ。

バロンやセレスティアルやアルゴスといった、強力な兵器を搭載した大型戦艦が。


「俺の“目標”には未だ届かずか」


シンは寂しそうに言ったのだった。

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