sub001-姉妹の入浴

ネムとルルの二人は、共に浴室へと入った。


「うう、ちょっと寒いかも.....」

「我慢しなさい」


Noa-Tunは軍事目的の要塞の為、外周リングといえども娯楽施設は当然存在する。

その一つが、浴室なのだ。

無機質なタイル、広めの浴槽、暖色の光。

本来は水資源の節約のために稼働していないこの設備は、惑星からの水資源汲み上げのテストに使われていた。

高度濾過装置は惑星の資源が必要だが、殺菌処理くらいならばNoa-Tunの設備で可能だ。


「オーロラ様がここの道具の使い方を教えてくれたの」

「えっ? 水浴びするだけじゃないの!?」


ネムは驚いた。

浴槽に溜まった湯を身に浴びる、彼女の常識からすればそれも非常識だが、この浴室でする事はそれだけであると思っていたからだ。


「オーロラ様が言うには、あの...お風呂? に入る時は、まず体をある程度綺麗にしてからなんだって」

「でも...どうするの?」

「これを使うのよ」


ルルはネムと共に、浴槽の横にあるシャワースペースへと足を踏み入れる。

そして、コックを捻り湯を出す。


「ひゃあっ!?」

「大丈夫、こっちに来て」

「う、うん」


ネムは突然噴き出したシャワーに驚き、距離を取る。

だがルルは、既に見たために驚かず、ネムを呼び寄せる。


「これを使えば、髪や体をもっと綺麗に洗えるそうよ」

「なんか...くすぐったい」


二人は不慣れな様子でシャワーを浴び、身体の微細な汚れを落とす。

定期的に水浴びをしていたとはいえ、体に生えた微細な毛や、尻尾や耳の毛などにも埃がついていたらしく、それらは水流によって排水溝へと洗い流され消えていく。


「入ってもいいのかな...」

「た、多分...」


二人は恐る恐る、浴槽に足を伸ばし...そして、湯に指が触れた瞬間に引っ込めた。


「あ...あったかい...?」


精密機器の管理上、浴槽周辺には空気の制御膜が張られている。

それ故に二人は熱気を感じられず、霧の立つ水だと思っていたのだ。


「は、入ろ...?」

「ええ...」


二人は手を繋いで、浴槽へと足を踏み入れる。

最初は熱く感じた湯も、右足、左足、両膝と沈めるうちに、じんわりと体に熱を伝える。


「「...............」」


二人はゆっくりと胴を湯に沈めて、そこで初めてほうと息を吐いた。

そしてしばらく、その場には言葉以外のすべての音が響いた。

空調の音、響く水音、水滴が床を叩く音、二人の呼吸する音。


「.........すごいね」

「...うん、すごい」


二人は感慨深げに呟いた。

これまで信じられないものばかりだったけれど、何より今は、この瞬間が心地よい、と。

その時、ルルは浴槽の脇にスイッチがあるのを見つけた。

そのスイッチは、銀色に輝き、白い浴槽の上で主張を見せていた。


「ひゃああっ!?」


ルルは興味本位でスイッチを押したが、直後に経験したことのない感覚に襲われ、本能のままに声を上げてしまった。

泡が浴槽の底から噴き出し、二人の体を撫でる。

そして、尻尾に引っかかった泡は尻尾の毛の一本一本をかき分けるようにして上がっていく。


「お、姉ちゃん...」

「い、今止めるわ」


ルルはスイッチをもう一度押した。

泡は止まり、再び静寂が戻ってくる。


「不思議ね...」

「うん、きっとこれも、星空の王様の不思議な力なんだ!」

「...そうね」


二人は頷きあうと、もうしばらく湯を堪能した。

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