SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男

序章

001-『Noa-Tun』

「ストラクチャーダメージ、50%越えたぞ!」


暗い部屋で、一人の男の声が響いた。


『無理だっ、包囲されてる! ワープ遅延を食らったから、ソッチに行けるのは3分後だ!』

「くっ、こっちの艦隊はほぼやられてる! 回せる船はないのか!?」

『スターゲートを押さえられてる、そのままジャンプするとタコ殴りにされるってんで、救援を出し渋られてるんだ!』

「攻城艦を排除しないと...」


パソコンに向かうのは、黒川新輝。

数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』をプレイするいちプレイヤーである彼は、たった今大激戦の最中にいた。

彼が所属するプレイヤーユニオン、『Perfectly Looters』は、別のプレイヤーユニオンである『Crazy Hornets』と『PRIMEs.』の連合艦隊に侵攻を受けていた。


「しょうがない、超大型ドローン射出! イジェクターに集中砲火しろ!」


彼が守るのは、『PL』が所持する超巨大構造物メガストラクチャ、『Noa-Tunノーアトゥーン』。

超巨大構造物の中でも最上位に位置する、ホールドスターと呼ばれる最重要拠点である。


『よう、shin! 助けは要るか?』


その時、艦隊チャットにそんな言葉が映る。

最初は英文だったが、新輝の使うツールによって即座に日本語に変換された。


「耐えた甲斐があった! Mistin、頼んだ!」


新輝はチャットに「Mistin、SCでゲート付近を掃討してくれ」と書き込む。

SCとはSpace Carrer、航宙母艦である。


『俺一人じゃ無理だ、叩き潰されるぞ!』

「.........俺の、ミスか...」


新輝は机に拳を振り下ろした。

彼は情勢的にはCHとPsの艦隊は遠方に出ているはずであり、本拠地侵攻をするなら今と思ったのだが、逆にCHとPsの主力艦隊が本拠地の星系に現れ、送り出した艦隊はPsが誇る妨害・支援艦隊に足止めされていた。

PLの艦隊は強いが、本拠地の戦力は大したことはなく、精々が警備程度に飛ばす、といった内容であった。


「すまないな、Noa-Tun」


完成から四年連れ添った自分の居城、Noa-Tun。

しかしそれは、今や大きく傷ついている。

シールド、アーマー、HPと三重の耐久力を持つ構造物だが、今はシールド0%、アーマー0%、HP40%といった状況であった。

ここから覆す手段はない。


「お前といれて、楽しかったよ」


新輝はチャットに「全艦隊解散、別星系のホールドスターに集結して続報を待て。当ストラクチャはもうじき崩壊する」と書き込み、チャット欄を閉じた。

救援は来ない。

残念だが、この星系はもう終わりだ、次の星系に拠点を移し、反撃の準備を整える。

.........そう割り切らなければならなかった。

新輝も、ストラクチャを所有するグループの纏め役。

個人の感情だけで他のプレイヤーを危険に晒すわけには行かない。


「............」


新輝はヘッドフォンを外し、目を閉じた。

愛する城が爆発するその瞬間を、目に入れたくなかったからだ。

そして.....................




「あれ?」


俺は目を開けた。

暗い部屋でゲームをしていたのに、急に周囲が明るくなったような気がしたからだ。


「...どこだ、ここ」


周囲は、完全に様変わりしていた。

まず、目の前の机はpcではなく、無数の計器と化していた。

そして、狭く薄暗い部屋は、明るく照らされた広大な部屋へと変わっていた。

俺がいるのは、他より数段高くなった場所にある席だ。

訳がわからない。


「おまけに.........これ...」


上を見上げると、ヒビが入ったモニターが目に入る。

そのモニターに映し出されているのは、俺たちの...Noa-Tunを建造したグループ、『Looters Phantom』のロゴが映し出されていた。


「...なんで、LPのロゴが...とっくの昔に解散したのに...!」


そう、『Looters Phantom』は確かにNoa-Tunの建造に関わった。

俺の、もっとも楽しかった時代の話だ。

でも今は、解散して別のグループに名を変えたはずだ。

今になって、どうして...


『おはようございます、シン艦隊総司令』


その時、背後から声が聞こえた。

振り向くと、半透明の女の子がこちらを見ていた。


「なんなんだよ...一体、何なんだよ! うわああああああああああああああああ!」


俺は訳も分からず、叫んだのであった。

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