第19話 貴石の影_2
そうこうしているうちに馬車は進み、丘に隠れていた大聖堂の
雫のような
それらを
貴石教会は、それが
「―――相変わらず、派手な様式ですね」
派手だが不審な動きは見えない大聖堂を前に、メナが呆れ混じりに言う。
それに対し、ギノーはキラキラとした目で言い返した。
「私は良いと思いますわ。神がおわしますのなら、喜ばれると思いますもの」
メナは彼女が貴石教に対して
それは別に珍しいことでもないが、彼女はあまりに純粋だ。
だからこそメナは彼女の言葉から、自分がいまだに政治的な事柄に
「―――そうとも言えるかも知れませんね」
メナはそれほど熱心な信徒とは言えなかった。
それでも、「貴石の教え」それ自体に対して疑問を抱くことはない。
それほど、貴石教はこの地に暮らす民の精神と深く結びつく、歴史の長い教えだった。
それは古くはアタナティス王国の成立前、水の民と石の民のそれぞれに交流がなかった時代にまで
石の民を取り込んでアタナティス王国となった際、その元となった信仰が名前を変えたもの、それが貴石教だ。
特に貴石の教えの基盤である「
その力を借りて、アタナティス王国は多くの民を治めていた。
貴石教があってこそのアタナティス。
だがそれは、逆もまた然りのはずだ。
(教会は、王宮での出来事を掴んでいるのでしょうか)
もし掴んでいないのだとしたら、彼らは彼女の襲来にどのように対応するだろうか。
敵がカゥコイ家とイカコ家であると知った時、特に教徒の少ないイカコ家に対してはどのように出るのか。
メナはボンヤリと考える。
あるいは大きな戦いが起こるかも知れない。
教会はイカコの領と面している。
ゆえにこの機に乗じてそれを打破するために動く、ということも考えられた。
そうなれば、メナたちにとっては大きな助けにはなる。
「……」
メナは眉間に手を添えて目を
余計な仮定を立てすぎていると思った。
仮にそうでなくとも、彼女たちが教会領に来ることを選んだ以上、助けを期待する他ない。
大聖堂は人々に恵みをもたらす、教会の総本山。
人としての生き方を説く教えの
道理としては助けを得られぬ
(―――いずれにせよ、彼らが知らぬはずがありませんね)
メナは教会の情報源について思い出し、苦笑する。
その苦笑に気づいたギノーが目で問い掛けてきて、メナは軽く首を振って微笑む。
「教会に着くのが待ち遠しいな、と」
ギノーは「えぇ」とメナに微笑み返し、前を向く。
「―――もう少しでございますわね」
ギノーがほっとしたように呟き、メナも道の先を見る。
馬車は今、教会へと続く道の脇にある、ひときわ大きな丘の横を
確かにもうすぐだ。
メナはギノーに同意を示そうと口を開いた。
その時だった。
抗議の声を上げて馬が動きを止める。
そして、そのいななきの隙間から、ドゥカイの緊張した声がメナに届いた。
「―――引き返します。掴まっていてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます