第21話 図書館での出来事
今日は土曜日。学校が休みでしかも晴天。こんな日には散歩でもしたい。
そんな考えて至って、快斗は買い物ついでにそこら辺を散策していた。
スーパーはやや遠い。徒歩で行くなら30分ほどかかるため、どうせ時間がかかるならと、なんとなしに寄り道してみた。
少し道を外れると、稲荷神社がある曲がり角があり、その隣にある小さな道を抜けると図書館があった。
その中はまだ少し肌寒い外の空気に反発するようにガンガンの暖房がついており、中にいる近所のご老体達は心地良さそうだが、快斗は少し暑かった。
陳列された本棚を横目に階段を上り、2階に行くとそこには子供用の絵本や小説が並んでいるキッズルームのような場所があった。
その中に、周りの小学生と比べて明らかに図体のでかい男がかがんで小説を見ていた。
「何してるんだ?」
見たことのある姿に近づいて声をかけると、その男は立ち上がり笑顔を見せた。
「あれ?快斗さんじゃん。何してるのこんな所で」
それは軽音部の部員の一人である森端虎太郎だった。深く被った帽子のせいで顔が良く見えず、それでいて巨大な筋骨隆々な肉体を持っているせいで、怪物のように見えてしまう。
快斗よりも背が高く、見上げる形になるが、その笑顔は子供っぽかった。
「俺は散歩でここに来てみただけだが……」
「へーいいじゃん。俺はね、ネタ探し。」
「ネタ?」
「うん。俺趣味で漫画とか小説書いたりするだけど、今年の文化祭でオリ曲やろうってなってさ。で、曲の作詞役を任されたわけ。だからそのネタもちょっと探したみよっかなって」
「それで、子供用の絵本を?」
「そうそう。大体こういうのって教訓系じゃん?いい感じのフレーズあるかなって」
そう言って見せてきたのは、ドラゴンの絵が表紙に描かれたファンタジー小説。内容は子供用ということもあり、伏線などは特になかったが、それでも面白さはある。
「フレーズ探しにこれを?」
「いや、これは前々から面白くて読んでたんだけど、続きがなくてさ……多分誰かが借りてるんだろうけど」
虎太郎が持っている巻は、主人公の炎の騎士がドラゴンに敗北して逃げる所で終わっている。
それでも今までの流れから見るに、再び挑んで気合いで勝つのだろうとは予想できる。
王道中の王道作品だが、見る価値はありそうだ。
「次はどんな表紙なんだ?」
「前に見た時は、表紙に主人公が描いてあったかな。多分それが最終巻だった気がする」
「探したらあるんじゃないか?」
「そう思って探してるんだけど、最終巻は何故かいつもないんだよね」
なんて虎太郎がお手上げというポーズをとった。ないなら誰かが借りているのだろうが、前からずっとないのなら、落丁や破損の関係で新しいを取り寄せ中なのかもしれない。
どちらにせよ、この図書館にはなさそうなので、この場は諦めるしかない。
そう快斗が考えた時、不意に階段を上る足音が聞こえたので振り返った。
キッズルームに入ってきたのは、黒髪のロングヘアにインナーカラーを赤色に染めている女性だった。右手にだけはめている黒い手袋が奇妙だった。
快斗より年上、大学生くらいに見えるその女性は、キッズルームの店員に一冊の本を差し出した。
「あ!!あなたこれ、ずっと返していなかったやつですよね!!」
「すいません……ちょっと色々用事がありまして……」
「もう、次遅れたら、貸出はしませんからね」
「気をつけます」
申し訳なさそうに謝るその女性が借りていて返していなかった本。それこそが、虎太郎が探し回っている本だった。
「虎太郎、あれじゃないか?」
「え?あ!!本当じゃんあれじゃん、すいませーん」
虎太郎が小走りで店員の元へ向かう。すれ違う女性が虎太郎の後ろ姿を見つめたあと、一緒にいた快斗に振り返って、
「私が遅れた本、待ってました?」
「みたいですよ」
「あぁ、申し訳ない。彼に伝えといてください」
「そこは自分で……て、行っちまった……」
女性は少し急いだ様子でその場から去っていった。
「なんだったんだ」
「快斗さん、借りれたよ。これでようやく結末が読める」
「そうか、良かったな」
この日はそんな不思議な出会いをして終わる。しかし、その本に興味が湧き、全部で15巻あるうち1巻と2巻を快斗も借りたというのは、また別の話である。
「なんだ、こんな本が好みなのか快斗」
「友人が面白いって言ってたんでね」
「へぇ、私とどっちが好みだ?」
「あんた何と張り合ってるんですか」
買い物も済ませて家に帰った時、茨城先生とそんな馬鹿馬鹿しい会話をした。
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