第22話 新しい友達

桜井を含めた同じクラスの奴らと学校を出ると、普段とは逆の電車に乗り込み住宅街とは真逆の繁華街に向かう。

その桜井が俺が歌が上手いやつと言いまくってるせいでほぼ初対面の奴らに軽くいじられる。

まぁこれは俺が馴染みやすくなるようにしてくれる優しさだとは思うけど。

桜井は余計な一言で「モテモテになるかもな!」とか言ってるから許さないけど。


 

駅から出てすぐのカラオケではなく少し歩いて人数が多いほど値段が安くなるカラオケに向かう。

部屋は桜井にこっちこっちと呼ばれたのでその部屋に入る。

部屋の中には顔もあまり見た事ない人が多く、中々に緊張していた。

何か俺浮いてる気が…

そんな不安に襲われるくらいに緊張していた。

やっぱり帰った方が良かった。

と心の中で思っていると歌の予約を入れる機械。デンモクだっけ?が回って来た。


こういった多くの人がいる時俺は、出来るだけメジャーな曲を入れることにしている。

すげえマイナーな曲入れて空気台無しにするの怖いし。

最近ネットでも話題の曲を無難に入れた。

そのタイミングで1人目が歌いだす。


歌い出すと元気よく歌うやつ、歌が上手いやつ、恥ずかしそうに歌うやつと見ているだけで少し緊張が和らいだ。


そんな感じで、自分の番を待っていると、隣の綾川さんがマイクを握った。

次俺か。と少し緊張が増す。

綾川さんの歌はあまり耳に入らず「はい。マイク」と綾川にマイクを渡された。

マイクを渡されると、机を挟んだ正面に座ってる桜井がニヤニヤした顔でこちらを見てくる。

なんなんだアイツは。



正直俺は歌が上手いと自覚している。

が、桜井がその事を言いふらしてるからか、周りの人から期待の視線がすごい。

だから今回はいつものように歌えるかが分からず緊張していた。

そして前奏が流れ始め耳に音が入ってきて周りの音が聞こえなくなる。

歌い始めるとさっきまでのネガティブな思考を忘れて歌に集中する。


 

4分半くらいだろうか?

歌い終わると隣の細川にマイクを渡す。

だけど何か固まってる。


「おーい細川。お前の歌始まるぞ」


「……」


細川にそう呼びかけても反応が無い。

と思ったら陽キャ特有の距離感でいきなり肩を組んできた。


「彩斗お前歌うますぎるだろ!」


「あ、ありがとう」


褒められたので素直にありがとうと言う。

だが細川をきっかけとしてこの部屋に居るやつの殆どが俺に賛辞を言ってくる。

流石にこんなにも褒められると反応に困る。


「マジで上手い」


「テレビ出れるよ」


「聞き入っちゃった」


などと言った賛辞が止まらず何とも居た堪れない気持ちになった。




この部屋に居るやつが全員歌い終わると、また順番に歌うことになったが、俺だけ2回歌う事になり思ったより疲労感が多かった。

でも結構楽しい時間だった。




次の日は普通に学校に行くと昨日席が近かった事もあり仲良くなった細川と綾川さんが「見てみてすごい伸びでる!」と俺に言ってくる。

だがなんの事か分からず「何が?」と聞く。


「昨日さ彩斗くんの歌をショート動画に載せて良いって言ったじゃん。それが凄く伸びてるの」


ショートカットで足が長くスタイル抜群の綾川さんが携帯を近ずけて見せてくる。

綾川さんの動画を見ると8万イイネとえげつないバズり方してた。


「彩斗。これはやばくね」


細川も驚いた表情で言ってくる。


「ちょっと怖いかも」


「なんだよそれ」


流石にこんなバズり方すると思ってなかったので現実を受け入れられずに自分席に向かった。



新学期も始まってから1週間が経過しある程度クラスにも馴染むことができた。

最初は和真が同じクラスじゃなくて心配していたが、初日のカラオケに行ってある程度話せるやつが出来たのが大きかった。

基本的には細川、桜井と同じグループで行動してる。

たまに綾川さん達のグループと混ざることはあるが基本ことの3人だ。

伊吹さんは基本菜々美と一緒に居ることが多いが色々な人から話しかけられている。

それはそれで大変そうだ。


授業が終わり休み時間になると逃げるように自分の席から離れる。


「細川。ヘルプー」


「彩斗速攻でこっち来るじゃん」


笑いながら細川が言う。

休み時間が始まるとすぐに細川たちの席に向かう。


「いや流石に人が多すぎるだろ」


俺は自分の席の後ろを見ながらそう言う。


「確かにあれはやべえ」


休み時間になると伊吹さんの席は人でいっぱいになる。

もう1週間経つのに収まる気配がまるで無い。


「全員伊吹と仲良くなりたいんだろな」


「そりゃーあれだけ可愛いとな」


桜井がそう呟くと細川がニヤニヤした顔で桜井を見る。


「お!?桜井は伊吹狙いか?」


「は!違ぇよ」


「速攻で否定するなんて怪しいな」


「彩斗までそっち側に着くのかよ!」


俺が適当に細川に合わせると桜井が「絶対に無い」と否定する。


「信じられるか彩斗」


「いやー。信じられないよな細川?」


「何なんだよ2人とも!俺はなもっとお淑やかで小柄な子がタイプだ!」


早口で桜井がそう弁明する。


「お前のタイプまで聞いてねぇよ」


「意外だな桜井はそう言うタイプが好みなのか」


俺と細川がそんなリアクションをすると桜井が「元々そんな話じゃなかったのにー!」と叫んでいた。






 






 








 

 

 


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