第12話 カラオケ

バイトが終わり家に帰ると伊吹さんから「何考え事してるの?」と何回か聞かれたが「何も考えてない」言って誤魔化した。

本当に何をお礼にすればいいのか分からない。

そんな悩みを抱えながら眠りについた。



学年末試験が終了して、1年生も終わりに近づき春休みになろうとしていた。

授業も短く3時間で終わるようにもなっていた。


「もうこのクラスも終わりかー!悲しいよー」


最後の授業が終わり、帰りのSTを待つだけの時間、桜井が大きな声で叫ぶ。

そんな大きな声で叫ばなくても聞こえてるわ。


「確かにな。この学校クラス多いから同じクラスになれない人も多いだろうし」


和真がそう答えると「本当にそんなんだよ」とまた大きな声で話す。

伊吹さんとも離れるのかな…

そんな不確定な疑問を頭の中に浮かべていると肩をいきなり叩かれた。


「彩斗聞いてないのか?」


意識をすると耳元で桜井の声が響いて耳が痛い。


「悪い。聞いてなかったわ」


「この声のデカさが聞こえないのは問題だぞ」


和真が正論を言うがスルーして桜井に聞く。


「で?なんだった?桜井」


「本当に聞いてなかったのかよー。明日終業式だろ。だから彩斗もカラオケ来てくれよ」


こいつカラオケ大好きだな。


「うーん。まぁ暇だから行こうかな」


「まじ!久しぶりに彩斗の歌聞けるぜー」


露骨にテンションの上がる桜井。

いや元々テンション高いから変わらないか。

てかそんなにハードル上げないでくれ。


「和真は明日来るの?」


「俺は無理かな。春休み中に大会があるから最近練習ばっかりだし」


「そうなのか」


そんな会話をしていると近藤先生が来て皆んな席に座った。



家に帰宅する途中、もう1年も終わりかと、短くも中々に楽しい日々だったと振り返る。

帰る前にクラスの何人かと昼飯を食ったので伊吹さんは昼からは来ない。


 

家に着くと特にやることも無かった。

暇だし勉強でもするか。

最近はこういう暇な時間に勉強をしたりもしている。

大抵漫画を読んだり動画を見てしまって勉強はあまり進まないのだが。



勉強をしていたはずだが、気づいたら漫画を読んでしまっていた。

だがそろそろ伊吹さんが来る時間なので勉強をやってますよー感を出す。

案の定10分後にインターホンが鳴り、家に入って来る。

完璧なタイミングだ。

これで少しは伊吹さんも見直してくれるかもな。

そんなゲスな考えをしていると、伊吹さんはリビングのドアの前で俺の居るソファー付近を見渡して「漫画でも読んでたんでしょ」とボソッと呟く。

なぜバレた。

しかし理由は明白だった。

しまい忘れた漫画が机に残っていた。

俺は特に反応もしないで勉強をした。



ご飯を食べ終わり、洗い物を終えると伊吹さんがソファーに座っていた。

珍しい。まだ帰らないんだ。


「明日池田くんもカラオケ来るんだよね」


唐突に伊吹さんが聞いてくる。


「え?そのつもりだけど」


俺がそう答えると、伊吹さんは少しだけ良くない笑を浮かべた。


「ふーん楽しみだな。池田くんの上手な歌」


「…そんなに期待されると嫌なんだけど」


「でもねー桜井くんの感じ聞いてるとね」


「勝手に期待して、大したことないとか言うなよ」


 

その後少しだけ伊吹さんと会話をしていると「そろそろ帰るね」と言われたので玄関まで送る。


「じゃあまた明日」


伊吹さんがそう言うと「ちょっと待って」と俺が呼び止める。


「どうしたの?」


「明日夜ご飯外に食べに行かない?」


俺がいきなりを誘うと伊吹さんは「いきなりどうしたの?」と聞いてくる。


「毎日のご飯とか、今回のテストの勉強とか、助けて貰ったてばかりでお礼したいなと思って」


俺は正直に答える。

女子をご飯に誘うとかした事がなかったので内心結構ドキドキしている。


「別に好きでやってる事だから、お礼とか見返り求めて無いけど…たまにはいいかも」


「それは行ってくれるって事でいいですか?」


「なんでいきなり敬語?じゃあまた明日ね。楽しみにしてるね」


それだけ言って伊吹さんは帰って行った。

これはOKって事だよな。


「あーー。緊張したー」


 


何で学校の終業式ってこんなに話が長いのかと思いながらボーッとしている。

特に中身の無い話が終わると法律だけは守れよと簡単な指導担当の先生が話して終業式が終わる。

体感1時間だわ。


教室に戻るともう完璧に皆春休み気分だ。

クラス中がウキウキしている。

このクラスでの最後のSTが終わりカラオケに行く人が集まった。

カラオケは学校の近くに有り徒歩で行ける。



カラオケに着くと人数が多く、大きな部屋を2つ借りた。

昨日伊吹さんに煽られたので、違う部屋になってくれと願ったが、願い届かず伊吹さんと同じ部屋になった。

2部屋に分けても、中々の人数が居るので1人あたりの歌える曲は、そんなに多くないと思う。


最初は桜井などのThe陽キャみたいな人から歌っていった。

桜井の歌はまあまあだが、声量はピカイチで上手いとは別で盛り上がる歌い方だった。

桜井達に続く形で女子組が歌い伊吹さんも歌った。

伊吹さんの歌は音程が安定していて、聴きやすい声で点数は90点と高得点だった。


「伊吹さん上手い!」


「前より上手くなってない?」


「もう1回聞きたい」


などと今日1番盛り上がっていた。


「じゃあ次、彩斗歌ってよ」


桜井がそう言うと伊吹さんが俺にマイクを渡してきた。

こんな盛り上がった後に歌うのは少し嫌だ。

伊吹さんからマイクを受け取る時小声で「期待してるよ」と言われて余計緊張した。



今日は人数も多く、あまり多くは歌わない事もあり、得意で皆が知ってそうな曲を入れた。

イントロが流れた瞬間に皆が知っている有名曲な事もあり掴みは良い。

そして歌い出しに力を込めて歌うと一気に静かになる。

だがそんなことを気にする余裕は無く。

力いっぱい歌う。



俺が歌い終わると皆見とれているような顔をしている。

俺は自分の歌が下手では無く、割と上手いということは分かっていたが、この反応は少し動揺する。

数秒間静かな時間が続き、俺はどうすればいいか分からなくなってると、いきなり皆が大きな拍手をして俺の事を褒めまくる。


「上手すぎるだろ!」


「やばくね!?」


「意味が分からない」


「毎日聴いていたい」


「98点はエグい」

 


少し引いてるような発言もあったような気がするが、恥ずかしくて何を言われたかあまり覚えていない。

たがその後、皆の3倍以上歌わせられたのは、はっきりと覚えている。

 





 


 


 










 









 

 














 


 

 






 

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