第1話
ここは……俺はどうなって…そうだ!騎士と衛兵が来てリリィを……ここはスラムの中か…
あいつらリリィは勇者になったとか言ってたが、そんなわけ…だって兆候なんてなかったし…なんで……
いや!それよりもリリィを取り戻さないと!騎士に連れ去られたってことは騎士団本部にいるのか?
駄目だ…情報が足りなすぎる、あいつらも勇者様とか言ってたしリリィに手酷いことはしないだろう。ひとまず新聞か何かで情報を集めないと…
そうして俺は悔しさや悶々とした気持ちを抱えながら眠りについた。
次の日俺は金をかき集め街へ出て新聞を買いに行った。道行く人々からの侮蔑の視線、さっさと死んでくれと言いたげな人々の目に俺は下を向き小走りになりながら街を駆けた。
そして前をよく見ていなかったせいで道を歩いていた人とぶつかってしまいお互い尻餅をついた。
俺が前を向くと目の前には金色の髪をした美しい少女がいた、フードで顔を隠していたがぶつかった拍子で脱げていた。
その姿を見た瞬間俺は強い恐怖と焦りに駆られた、金色の髪は貴族に多い、そしてその美しい顔からは栄養不足の影はない。
どこかの貴族の娘かもしれない、もしそうだったら俺は捕まるか横暴な貴族なら殺されるかもしれない。
俺が平民ならともかくスラムのガキ、死んでも誰も怒らない、それどころか殺したことを賞賛されるかも。
恐怖に駆られた俺は急いで立ち上がり駆け出した、背後から「待ってください!」と声をかけられたが恐怖に取り憑かれた俺には立ち止まる選択肢はなかった。
その後は特にこれといったことはなかった、ゴミを見る目で見られたものの無事新聞を買いスラムに戻った。
新聞には聖女様が勇者様を発見し騎士によって保護され、現在は騎士団本部に居る、そして勇者様はこれから騎士による指導を受け魔族ひいては魔王を倒すための特訓を受けるだろうということ、勇者様はまだ若く戦いの経験もないが、いずれ世界を救う救世主になるかもしれないとも書いてあった。
俺はどうすればいいのか分からなくなった、最初こそ騎士団本部に行きリリィを取り戻してやると息巻いたが、久しぶりに外に出て自分がスラムの外ではどんな存在なのかを実感した。
俺は所詮小狡いガキだ、盗みや殺しをして手も汚れている。スラムにいて常識が歪んでいたが普通に街で暮らしている人々は真面目に働いて毎日を生きているのだろう、そういった人から見れば俺は悪で死ぬべき人間なのだ。
俺が見逃されているのはあくまでスラムの中で悪事を行っているだけだということ、スラムの人間如きに手を汚しては勿体無いといった感情で、侮蔑の視線で見られただけでマシなのだろう。
俺の心は折れリリィを助けにいく気持ちは完全に消えた。
むしろ彼女が騎士団に保護されて良かった、こんなスラムで俺と一緒に手を汚し続けて生きるより魔族を殺して救世主になった方がいいに決まってる。祝福してあげるべきだ、そう何度も考え俺は自分を納得させようとした、でもどうしても無理だった。
彼女は俺の唯一の希望だった、この腐ったクソな俺の人生で唯一の味方であり友であり家族だ。光だ。
リリィを諦められない、でも俺には助けられない。力もない俺が騎士団本部に乗り込んで行って何ができる?
力もない伝手やコネもないスラムのガキが行ったところで殺されて終わりだ。
俺には何もできない。
ただ無力感を感じながら泣くことしかできなかった。
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