スラムで一緒に暮らしていた彼女が勇者になってしまった
秋刀魚
プロローグ
「おい!待て!リリィをどこに連れて行く気だ!」
俺は押さえつけられながらもリリィに手を伸ばすが届かずその手を踏み躙られる。
衛兵は俺の体を押さえつけながら言う
「抵抗するな!彼女は勇者様になったんだ!お前のようなスラムのガキとは次元が違う、勇者の素質が目覚めた以上彼女は救世主になるんだからな!」そう言い暴れていた俺の顔を殴る。
「やめて!イドを離して!」
「わかっていますアイル様が彼と親しかったことは、我々も暴力を振いたいわけではありません。
しかし貴女と彼はもう次元が違うのです、彼のことは忘れた方がよろしいでしょう」
そう言って騎士の男はリリィを引っ張っていってしまった
「ふざけるな!なんで...なんでこんなことに!」
「しつこいぞ!」
俺は頭を殴られ意識を失った
俺は物心ついた時にはここ、リシィア王国のスラムに居た。
親の顔も知らず一人でゴミを漁りなんとか生きていた。
ここでは力のあるもの、知恵のあるものがないものを搾取する。
力のあるものは無いものから暴力によって奪い、知恵のあるものは無いものからなけなしの金や食料を奪っていく。
どっちもなかったガキの俺はひたすら暴力に耐えゴミを漁りなんとか食い繋いだ。
その時の暴力によって俺の体は全身傷跡だらけで骨を折られた左腕は今でも動かしづらくなっている。
しかしずっとそのままなわけにはいかない、ある程度成長した俺は小柄な体と生まれ持ったすばしっこさで盗みを働くようになった。
時には殺しもした。力では勝てないので暗殺で、そうして俺はスラムの生き方を学んでいった。
リリィと出会ったのは俺が10歳になった時、盗みをした帰りに見つけた。
彼女は小さいフードを被りキョロキョロと周りを見回していた。
俺は一瞬でスラムに慣れていない捨てられた子供か、迷子の子供だと思い話しかけた。
「おい、ここは危ないぞ迷子なら早く帰れ、それとも捨てられたのか?」
それを聞いた彼女は涙を溢れさせてこっちを睨みつけながら
「わ、私捨てられてなんか無い!そ、そんなパパとママがそんなこと...グス...ヒック...」
俺はとりあえず彼女を宥め、話を聞くことにした。
彼女は俺と同じ10歳でリリィ・アイルというらしい。厳格な両親の元に育ったらしく、最初は可愛がられていたようだが両親の課題についていけなくなるにつれ彼女への愛情は弟にうつっていったようだ。
そして彼女が夕食を食べた後突然急に眠くなり気づいたら知らない街にいて、わけも分からず彷徨っていたところスラムに入り込んだと。
俺は泣き止んだ彼女に話しかけた。
「なあ、可哀想だがお前は捨てられたんだ、お前はこれから一人で生きていかなきゃならない。
だけど今まで家族のもとで暮らしていたお前が一人で生きていくのは不可能だろう、だから俺と協力しないか」
「協力?」
「俺は今まで一人で盗みをしてきた、でもお前が一緒ならもっと効率よく盗みができると思うんだ」
「ぬ、盗みなんてそんな!駄目だよ!」
「馬鹿!いいか?ここは弱肉強食なんだ、人から奪わずにどうやって生きていくんだ?俺たちみたいなガキじゃ仕事はないし
こんなところじゃ体を売ったところで病気で死ぬだけだ」
「でも...」
「とりあえず場所を移してゆっくり話そう、俺しか知らない秘密基地があるんだついて来い」
彼女はしばらく精神が不安定で落ち着くまで秘密基地にいてもらい、俺の食料を分け与えた。
落ち着いてきてあまり取り乱さなくなってきたら、彼女を連れ盗みに出かけた。すぐに協力はさせずしばらくは俺のやり方を観察させた。
俺の予想以上に飲み込みが早くすぐに俺に協力できるようになった。
盗みだけじゃなく殺しもさせた。最初こそ困惑し取り乱していたが必死に説得してなんとか手伝わせた。
そんな生活を続け1年が経った
俺は捨てられていた新聞を読んでいた。
魔族による侵攻への対抗策として王国は勇者を探しているという内容だった。
勇者は12歳になった時に目覚め、圧倒的な力を持つといったことが書かれていた
「くだらん、勇者が現れたところでこのスラムの環境が良くなるわけでもないし、むしろ魔族に占拠された方がマシなんじゃないか?」
「でも魔族は人間を皆殺しにしようとしてるらしいし侵攻されたら全員殺されちゃうよ」
「どうせ...こんなことしながら、こんな場所でずっと生きていくぐらいなら殺された方が……」
「駄目!私はイドと一緒にいて幸せなんだからそんなこと言わないで!
私イドがいなくなったらと思うと……」
「リリィ……」
俺たちは抱き合い久しぶりに泣いた
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