ソロモニア・コード〜ギャルと少女とおともだち〜

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1話 はじめてのともだち

〜プロローグ〜


これは、心に深い傷を負った幼い少女と


異世界転生を果たした女子高生が


72の『ともだち』を探す物語である。


〜〜


 私達人間が暮らす世界とはまた違った場所にあるとある世界の小さな国『ソロモニア王国』。


 そこでは魔法と科学が同居しており、国土は小さいながらも多くの住人が毎日を楽しく暮らしていた。特に近年ではプログラムされた魔法『マジックコード』が普及され、幼子でも気軽に魔法が使えるようになった事で国民の数は上昇傾向にあるという、この世界の中で今1番熱い(?)国家と言えるだろう。


 ……だが、繁栄の裏には影はつきもの。

マジックコードの生みの親でありソロモニア王国の初代国王、ジャバイソ・ソロモニアは秘密裏にそのプロトタイプと言える危険極まりない72の悪魔を封じたマジックコード……


ソロモニア・コードを開発していたのだ。


〜〜


「あなたという子は!どうして私の許可なく部屋を出たの!」


「うぅ……ごめんなさい……」


 アレナ・スタークロウ。彼女は僧侶の家系に生まれた子なのだが、彼女はある理由で村中から虐げられていた。そして今も、『部屋から出た』という理由だけで実の親に理不尽な説教を受けていたのである。


 この子、まだ7歳である。


「まったく……この子は『悪魔の子』だよ……」


 何故ここまで虐げられているのか、その理由は単純であった。彼女はスタークロウ家では不吉の象徴とされていたオッドアイの持ち主だったのだ。

 

一通り怒鳴り散らして満足した母親は、ズカズカと重い音を立てながらキッチンに戻っていった。


「ライオンさん……蜘蛛さん……サメさん……」


 家どころか、国のどこにも居場所の無い彼女の唯一の楽しみ。それが1人で絵を描きながら、絵の動物とおしゃべりをするというものである。特にライオンの絵を気に入っており、毎日のように話しかけていた。


 ……そんなある日、事件は起こる。


〜〜


 アレナの家……つまり、スタークロウ教会で火事が発生したのだ。


「火事だ!火事だぞ!スタークロウ教会で火事が発生した!」


「なんやて!?確かあそこって小さい子おったよな!助けに行かなあかんやん!」


 野次馬が集まる中、今どきの服装をした猫耳の少女……アグリア・クローネがこう言ったのだ。


「あの『忌み子』はほっとけ!下手すりゃアンタが死ぬぞ!」


「んなこと言われてもなぁ!ウチは放っておけへんで!」


 アグリアは野次馬の言葉を無視し、教会へ走る。


〜〜


「あつい……あついよ……だれか……


……ごめんなさい……ごめんなさい……!!」


 瓦礫に挟まれ焼ききれた右腕の痛みに泣き叫ぶアレナの声は誰にも届かなかった。唯一不幸中の幸いと言えるのは、傷が即座に炙られて止血されたということだろう。

そして、彼女が意識を失いかけたその時……


「ウチの手ぇ取りな!」


 あの猫耳の少女……アグリアが汗とでドロドロになった顔で助けに来た。


「…ほな、おぶってくで」


 突入と同時にアレナの意識が無いことを察したアグリアは、彼女をおぶって離脱した

……怒りを噛み締めながら。


〜〜


「これで大丈夫、とは言い難いで……確か一酸化炭素を吸ってるだろうし……

(いや、ウチも……か……でも、踏ん張らなアカン……!

ナニワの乙女は、2度も同じ轍は踏まないんや!)

ここでも死んで、たまるかぁぁぁ……!!」


 アグリアは踏ん張った。踏ん張ったから、アレナも、自分も、脱出できた。


「……やったで……今度は、助けれた……」


 2人が安全な所に来た頃には、既にアレナの両親は救助されていた。


「神父様!お怪我はございませんか!?」


「あぁ、儂も妻も大丈夫だ……


……ところで、何故アレナが助かっている?」


 神父であるアレナの父は、アレナと少女を睨む。だがアグリアは怖気つかずに反論した。


「あの子を助けたのはウチ、アグリア・クローネや。ところでアンタも親やろ?親ならまずは自分の子どもを助けんかい!

助けに行けなかったとしても、無事を喜ぶことだってできるはずや!」


 この村では最高権力者と言っても過言では無いアレナの父に一喝、それを聞いたアレナの父は激昂し、護衛と思わしき男……王宮騎士を差し向ける。


「者共!悪魔に加担する魔女を殺せ!」


 鎧を着込み、メイスと盾を持った屈強な男が3人、少女に迫る。


「3対1……流石に多勢に無勢ちゃうか……?死ぬ前にオカンに親孝行しとくべきやったな……って、ここで死んだら二度死にやないかい……!」


 口ではこういいながらも恐怖の感情が無いわけではない。1歩1歩護衛が迫ると同時に、少女の足はガクガクと震えていく。だが、後退りはしない。ここで逃げれば、せっかく助けた幼い少女が死んでしまうかもしれないからだ。


「死ねぇ!」


 メイスが振り上げられたその時。


「ソロモニア・コードNo.05承認、 『紅蓮の獅子王マルバス』、召喚シマス」


「!?」


「なんや今の声!?」


 その場にいた者は皆驚いた。どこからともなく機械的な音声が聞こえてきたからだ。そして失ったはずのアレナの腕から義手のような物が現れ、その掌からは魔法陣が描かれていた。


「あの形……ライオンさんの絵についたと同じ……!」


 アレナの描いたライオンの絵は火事の影響でが付着してしまった。だがその形は、まるで悪魔を呼ぶ魔法陣のようだった。魔法陣はどんどん大きくなり、やがてアレナの何倍も巨大なサイズへと変貌する。


「……先に悪魔を殺s」


 言い切る前に熱風が吹き荒れ、止む頃には護衛の1人が細切れと化していた。


……そう。魔法陣から現れたのは炎を纏った獅子、

ソロモン72柱の序列5番、悪魔マルバスだったのだ。


「……チッ、500年ぶりの人間界だが…久々に食う肉が下衆の肉とはな……」


 その悪魔は独り言を吐きながら、アレナに近づく。


「……おい小娘、俺を召喚したのはお前か?」


「あなた、ライオンさん?」


 マルバスはアレナに問いかけるが、彼女は全く驚かず無垢な反応を示す。


「……?(どういうことだ……?この人間、俺を見ても驚かないだと……?)」


 自身を見ても全く驚かない少女を不思議に思いながらも、彼女を見る。そして、アレナの腕につけられた物を見て、彼はこう言った。


「……どうやら俺を召喚したのはお前のようだな……」


「しょうかん……?」


「そのガジェットは『悪魔ノ糧(ゴエティア)』……俺達ソロモニア・コードを召喚、使役できるアイテムだ。

……お前でも分かるように言うなら……コレを使うとおともだちが助けに来てくれる、ってところか?」


「おともだち!?」


 悪魔の前であるにも関わらず、目を輝かせるアレナ。それを見ていた父は当然、彼女に対し嫌悪感を示していた……


「やはりあんな奴、儂の子では無い……殺せ!殺せ!!」


「こうなりゃ俺が……悪魔退治で名を上げてやる!」


「よせ、シェム!」


 シェムと呼ばれた護衛がマルバスに向けてメイスを向ける。さらにメイスはガチャガチャと音を立てて変形し、中から宝石が露出した。


「食らえ、マジックコード『プラズマショット』!」


 宝石から雷の球体を放ち、マルバスを攻撃する。着弾と同時に爆発が起こり、辺りは砂煙に包まれた。


「……ふむ……なかなかだな」


 煙が晴れたが、そこにいたのは少ししかダメージを負っていないマルバス。


「ライオンさん……」


「……どうする?コイツ殺すか?」


 無慈悲にも迫る死の恐怖に、シェムは腰を抜かす。


「……殺すか……」


 マルバスが腕を振り上げたその時。


「お前は……逃げろ……!」


「た、隊長!?」


 シェムを庇い、護衛の隊長が細切れになったのだ。


「……つまらん……」


 それを見たマルバスは、興醒めしたのかゴエティアの中に入っていった。


〜〜


 あれ以来ゴエティアはうんともすんとも言わなくなり、1種の夢と錯覚した人もいてもおかしくないだろう。だが既に2名死者が出ている以上、これは現実である。


「でっかいライオンやったなぁ……嬢ちゃん大丈夫?怪我無いか?」


「ありがと、お姉ちゃん……なんでお姉ちゃんは、わたしに優しいの?」


「なんでって……まぁ……せやな、どんな人にでも優しくするべきっておばあちゃんに教えてもらったから……かな?ところで、嬢ちゃん名前はなんて言うん?」


「……アレナ……アレナ・スタークロウ。」


 アレナは不思議に感じていた。この少女は、今まで見てきた人間と違うと。


「ウチはアグリア・クローネ。大阪生まれ大阪育ち、ノリええ奴はだいたい友達や!」


 そして彼女の口からは『オオサカ』という聞きなれないワードが飛び出した。


「……もしかしてお姉ちゃん、ここじゃないところから来た?」


「……よう分かったな……」


 アグリア・クローネ。この女、異世界転生者である。


「……と、ととととりあえず、ウチが友達になったげるで。というかこんな可愛い子、むしろウチが妹に欲しいくらいやわぁ…」


「……お姉ちゃん、わたしとともだちになってくれるの?」


 少しおかしなテンションだが、アグリアはアレナの事が放っておけなくなった。


「もちろんや!これからよろしゅうな!」


 こうして、アレナ・スタークロウは初めて友達が出来たのであった。


「…ライオンさんやアグリアさんみたいなおともだち、もっともーっと…作りたいな……!」


続く

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