第13話 引きこもっていた力!


 目を開けると、そこには扉があった。

「やっと目を覚ましたか」男は言った。

 健斗は男に尋ねた。

「あなたは?」

「今は、それはお問題ではない」男は腕を伸ばした。すると、そこには窓が現れ、倒れ込んだ自分の映像と、心配げに見つめる仲間の姿があった。田中、鈴木、ゆずが涙をぬぐいながら何かを叫んでいる。

「ぼく、死んだの?」

「まだだ」男は言った。「今のところはな」

「今のところ」

「ここは、生と死の狭間の世界と言ったら分かりやすい」

 健斗は生きていた十年間を思い出した。楽しかった。それに、幸せだった。でも、何かこう、ぱっとしない人生だった。

「まだ死にたくないか?」

「もう少し生きていたい!」

 男は言った。「一つだけ、助かる道がある」

「どうすれば!?」健斗は驚いた。

「そこにある扉を開けて見せよ。さすれば、お前はよみがえり、新たな力を手に入れることになるだろう!」

「新たな力?」健斗は尋ねた。

「そうだ。ここは、生死と死の狭間だとも言ったが、いわゆる精神世界でもあるのだ。お前が、あの扉をこじ開け、新たな力を手にすることで、復活できるのだ」

 健斗は扉を見た。それは、赤黒く、ひどくさびびついた扉だった。ちょっとやそっと、押しただけじゃ開きそうになかった。ためしに、何度か試してみた。だが、全然開く気配はなかった。

「無理だよ」

 男は笑った。「もうしばらく座っていろ。そうすれば、自動的にお前が、よみがえる為のタイムリミットも消失し、あの世へ旅立てるだろう」

 健斗は立ち尽くしたまま、仲間たちの姿見た。仲間たちは涙を流しながら、身体を前に座り、身体を揺さぶっている。その間も、霧は包囲網ほういもうを狭めていった。

「時間がない。おまえも、仲間たちが助かるための時間も残りわずかだ」

 健斗は気づいた。自分が復活し、力を手からを手に入れなければ、仲間を助けられない。逆に考えれば、力を手に入れて復活すれば、仲間たちを助けられる。何度か、扉を開こうと試行錯誤した。だが、一向にとびらは開かなかった。

「どうして」

 男は厳かに言った。「力で開けようとするな」

「でも、力で開けなかったら」 

「最後のヒントだ。力で開けようとするのではない。おのれの信念が、この扉を開く突破口になるだろう!」

 男は煙のように消えていった。その場には、仲間たちの様子がみえる窓だけが残された。健斗はしばらく立ち尽くし、男が消えて言った場所を眺めていた。それから、仲間たちの追い詰められう様子に息をんだ。だが、何度挑戦しても、錆びついた巨大な扉は開くことが出来なかった。どうして、どうすれば。

 そして、気づいた。力で開けるな、その意味のヒントは男の会話にあった。

 ここは、精神世界であり、生と死の狭間だ。ここに肉体はない。だとすれば、今ここに居る自分に肉体はない。

 つまり、この今いる自分すらも、自分自身ですらない。そんな残像が、いくら触れようともう、とびらを開けられることはない。

 では、どうやって開くのか。

 あの男は言った。「最後のヒントだ。力で開けようとするな。己の信念が、この扉を開く、突破口になるだろう」

 健斗は考えた。おのれの信念とは?

 まだ、小さかった頃の記憶がよみがえった。それは、まだ小学生低学年か、幼稚園の年長の頃、そのとき思ったことがあった。

 子どもながらに、知ってしまった。サンタさんは居ない。

 子ども心に、現実を知ってしまった瞬間だった。だが、それがひどく寂しくて、悲しくて、いつしか、子どもながらに、夢を思い描くことを忘れ去った。

 そう、自分の心のカギをかけた瞬間だった。

 だが、今そのロックが解錠され始めた。

 とびらの内側から、強烈な地響きが轟いた。とびらが破裂しそうなほど、膨れ上がって、出てこようと衝撃が走った。

 まるで、みずから扉こじ開けようとするかのごとく。

 健斗は眠っていた、自分の力を思い出した。自分の力は、思い描くこと。その瞬間叫んでいた。「イマジン・ブレイク!」

 その瞬間、とびらが開け放たれ、中から光が飛び出してきた。健斗は、優しく触れると、それはふわふわ漂って、胸の中に戻って行った。




 目を覚ました。そこは、現実世界だった。仲間が涙を流しながら、座り込んでいた。鈴木が、田中が、そしてゆずが。

 弱りはてた体で、ユナが目を覚ました。「ごめんなさい。わたしのせいで……」

 健斗は首をふった。

「君は悪くないよ」

 仲間たちは驚き、涙を流した。その周りを霧の化け物が包囲をせばめた。絶体絶命の状況だった。

「もう、私たち逃げられないわ」

 ユナは観念したようにつぶやいた。「本当にごめんなさい」

 田中が、鈴木が、天を仰いだ。

 ゆずは泣きながら大粒の雨を降らせた。

 健斗は弱り切った体で起き上がった。「大丈夫。まだ、希望はある」

「もう、無理よ。諦めなさい」ユナは諭すように告げた。

「いや、まだだ」健斗は両腕を胸の前で掲げた。

「何をするつもりなんだよ」田中が言った。

 健斗は、目をつぶり思い描いた。強い光を。その瞬間、渦を巻くように光が、集まり始めた。

「おい、何なんだよ」田中は狼狽えた。

「ひぇ、光が集まっているですぅ」ゆずは大きな瞳を見開いた。

「け、けんと、あなたの何を!?」ユナは横になったまま驚嘆の声を上げた。

 健斗は集中したまま、光を呼び寄せた。その間も、黒い霧は包囲網を狭め、すべての人間を飲み込もうと、輪をせばめためた。やがて、光の収束が早まった。健斗の手のひらに光が集まって、かがやき始めた。

 霧の化け物は、驚き、震えてから、巨大な腕に変身させると、襲いかかった。

 ズドン!

 化け物は、一行を押しつぶそうと、両腕を振りおろした。

 一行は、押しつぶされた。

 押しつぶされたかのように見えた。

 だが、田中、鈴木が、健斗を、そして、身動き取れない仲間を守った。

「ありがとう」

 次の瞬間、健斗の腕の中に一筋の、強力な光が光が集まった。

 健斗は、それを解放した。しかし、うまく行かなかった。すぐに理由に気づいた。健斗のこの力は、信じる心が奇跡を起こす力だった。

 現在、田中と鈴木は、両腕で化け物の一撃を支えている状態だった。

 霧は一度態勢を立て直そうと、もう一度、腕を振り上げた。

「力を貸して」健斗は叫んだ。そして、告げた。「信じる心をぼくに頂戴!」

 仲間が、健斗の手を握った。田中、そして、鈴木。だが、足りない。ユナと、ゆずは座ったまま状況で動けずにいた。

 三人は無防備の状態で座り込むと、二人の手を握った。

 次の瞬間、健斗の中に眠っていた能力が完全に開放された。それは、健斗が子供の頃、失った奇跡の力だった。それは、信じる心。それは、奇跡を呼び起こす力だった。それが、健斗の心の中にあるとびらを完全にこじ開け、熱いマグマとなってき出した。

 それは、圧倒的な光となって、押し寄せていた霧を蒸発させた。

 その力は、それだけにとどまらず、学園の外に向かって、光の十字を起こした。眠っていた者たちが、次々起き出した。

 学園都市内に、うわさを巻き起こした。

 健斗を含め、一行はその場に座り込んだ。何が起こったか分からない状態だった。でも、差し迫っていた脅威は退しりぞけられた。

「俺たち、助かったのか?」田中はかをおあげた。

「た、助かったみたいです」

 鈴木は、立ち上がって、大きく息をすった。

 そして、ずっと動けなくなっていたユナが目を覚ました。「あれ、わたし何ともないわ!」

 健斗の奇跡の力がユナの身体を完全に復活させていた。

「あれ、そう言えば、僕の体の傷も治っているみたい」

 全員そろって立ち上がると、そこには、金色に輝く、カギが地面に転がっていた。

 健斗はそれを手に取った。

「それもしかして」ユナが受け取った。

「もしかしてら、僕たちが探してみたのものかもしれない」

「でも、どうしてこんな場所に?」

 田中が笑った。「もう、そんなのどうでもいいよ。それより、今の騒ぎで騒ぎになっているころだ。今のうちに、退散してしまうぜ」

 一行は、出口を見つけると、秘密の地下室から脱出を果たしたのだった。

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