学園都市・サーガ!

kenken

第1話 選ばれしもの!


「ああ、退屈な日常だな」

 とびらを開けて、男が入って来た。その男は、黒のサングラスに黒のスーツというとこだった。「きみは、健斗けんと君か?」

「そ、そうですけど」

 男は腕をつかむと言った。「ついて来てくれ」

 健斗は抵抗した。「ちょっと、どういう事ですか!? 人の部屋に勝手に上がって来て、こんな真似して。犯罪ですよ!」

 とびらの外では、両親が神妙な面持ちで立っている。

「母さん?」健斗は言った。

「ごめんなさい。止められなくて」

「どうして」

 男は説明した。「我々は政府の者です」

 バッチを見せられた。それには確かに政府の紋章が入っていた。健斗はドキドキした。一体どいうことなのだろう。政府の人間が突然やって来て、人のいえに無断で侵入するあり得ないことだ。それに、母と父が一切、抵抗しようとしないこの状況は異常だと言えた。

 そこでようやく男が説明した。説明によると、男は政府の人間で、数年前から実施されている学園都市に、健斗が輸送されるとのことだった。

「学園都市に!?」健斗は驚いた。

「そうです。あなたは選ばれたのです」

「どういう事?」

 男は説明した。「通常、学園都市に選ばれる人間は前もって知らされるはずなのですが、あなたは特殊な存在らしく、しばらく前に能力を覚醒されたらしいのです」

「らしいって?」健斗はねめつけた。

「すみません。我々も詳しいことは知らされておりませんので」男は、強引にケントの手を引っ張って、車まで移動した。

「父さん……母さん」健斗は車に押し込まれながらつぶやいた。

 両親が、泣きながら見送る。やがて、車のドアが閉ざされ、車が発車した。車の中では男の向き合うように座った。

「やあ、少年」サングラスの男が言った。

「あなたは?」健斗は言った。

「私の名前を覚える必要はない」

「なぜ?」

「今後二度と会うことはないだろうからな。それより」男は言った。「契約書にサインをしてくれたまえ」

 契約書を見た。難しい漢字が並べられ、難しい言葉が並んでいる。どうにか理解できたのは、『調査団への入団』という文字だった。「何に入団するんですか?」

「黙ってサインしろ!」男は静かに言った。

「でも」首をふった。「いいか。なぜ、お前がここに居ると思う」

「それは」健斗は答えを見つけられなかった。

「お前の父親と、母親が了承したからだ。なぜだと思う?」

「それは」

 男はなおも言った。「この契約書にサインすれば、お前の未来が約束させられるからだ。この契約書は簡単に言えば、お前の未来が約束されるうえに、特別待遇受けて一生楽して暮らせるという特別な書類なんだ」

「そんなすごい書類なの!?」健斗は驚いた。

「そうだ。これにサインさえすれば、おまえはバラ色の将来が約束される。それに、お前を預かるという名目で、両親にも給料が支払われる。両親にとって、大切な息子を取り上げるのだから、それぐらい当然だろう」

「き、期間は?」健斗は言った。

「お前が、大人になるまでだ」

 簡単に計算した。十八歳だと捉えれば、十一歳になったばかりの健斗からすれば、七年。ニ十歳だと仮定すれば、九年間両親に給料が支払われることにある。これは、一般人にとってはかなりの好待遇だと言えた。

「だけど、なんのリスクもなく?」

「そうだ。リスクなどない。お前がこれから行くのは、政府主導で運営されている学園都市だ。つまり、最新鋭の都市に無償で、居住できるのだ。もちろん安全だし、危険は一切ない!」

「素晴らしいじゃないか」

「行かない手はないだろ」

 健斗は契約書を脇に机に置くと、親指に朱肉をおした。

「そうだ。それを押すのだ」

 緊張した。これを押すことで、バラ色の将来が約束される。そう思うと、身体が内側から震えた。だけど、なぜか不安がよぎった。「一つだけ質問してもいい?」

「はぁ、何だ」男は言った。

「なぜ、僕が選ばれたの?」

「それは、さっき聞かなかったの?」

「聞いたかもしれないけど、詳しく聞かせてもらっていなくて」

 男は言った。「つまり、お前は選ばれたのだよ。いいか。簡単に説明してやるからよく聞けよ」

 健斗は頷いた。

「つまり、学園都市とは、特別な人間だけを集めた学校なのだ」

「特別?」健斗は首をひねった。

「そうだ」男は頷いた。「未知なる能力を持った子、特別な力を持った者たちを集めた学校が、学園都市とい訳さ」

「学園都市では、具体的何をするの?」

「それは、学校なんだから勉強だろ」

「おじさん知らないの?」

 男は肩をすくめた。「すべてを知っている訳ではないし、知っていたとしてもすべてを話せるわけでもないんだよ」

 頷いた。「なら、ぼくは、そのとくべつな力を持っているから、選ばれて、そのとくべつな学校に行けるって訳なの?」

「そうだ。だから、手厚く保証して、面倒を見てやるって言うのが、今の状況だ」

 健斗は納得した。そして、朱肉を付けた親指を契約書に押し付けた。

「いいぞ」

 健斗は契約書を男にわたした。

「これで、君の将来は約束された」

 男はなぜか、ニヤリと笑ったのだった。

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