(読み切り)SM整体師はくこちゃん!

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第1話

「ふぁぁ……よし、いくかぁ……」


 私の名前は新堂 琥珀 (しんどう こはく)、24歳の新人整体師です。


 ……まぁ、かなり訳ありですが。


 話をしましょう、 あれは今から1・・・ いや、1万年と2000年……やっぱり1年前でしたっけ。まあいいでしょう、私にとってはつい昨日の出来事ですから。


「キャハハハハッ!こんなので喜んでるの〜?」


「あぁっ!ありがとうございますぅ!もっと!もっと踏んでくださいぃぃぃぃっ!!」


 実は私の前職はSM嬢で源氏名は『魄戸 (はくこ)』。おじさんを踏んだりしてお金を稼いでいました。容姿やスタイルにはちょーっとだけ自信がある私は前のお店での営業成績は常にトップ。しかし、実はもうひとつ、リピーターが急増する理由があったのです。


〜〜


 ある日、いつものように常連さんがやってきて、こんなことを話してきた。


「いやぁ〜、魄戸ちゃんのプレイのおかげで肩こりと腰痛がなくなったんだよ!」


「……ゑ?」


 初耳です。まさか私のプレイが健康にいいなんて……最初はただの偶然だなと思いました。というか偶然であってほしいです。

 ……でもよく良く考えれば私は生まれつき手より足の方が器用で、何故か足で文字を書いた方が丁寧に書けるタイプの人間です。おそらく、すごく的確にツボを刺激したのではないか……私はそう考えました。


 その後もひたすらにおじさんを踏んだりしていたのですが、なんとみんなコリがほぐれたみたいです。そんな私自身の才能を決定づけたのが、ある人との出会いでした。


「ご、ご指名ありがとうございます、魄戸です!」


 今回のお相手(?)は金髪のイケメン。恋愛には興味の無い私ですが、あまりのカッコ良さに少しだけ言葉を失いました。


「貴女が噂の魄戸ちゃんね……あらあら、そう凝り固まらなくてもいいのよん。アタシは『エクスタシー』ってお店のオーナーをしてる堅凝 ジョン (かたこり ジョン)よん、コリジョンって呼んでね♡」


 あまりにもねっとりとしたオネエ口調で話しかけてきたこのイケメンは、何やらただのお客様ではないと瞬時に気が付きました。しかも、その名前は聞き覚えのある名前で……


「コリジョン……コリジョン……ま、まさか世界整体協会日本支部長のコリジョンさん!?」


「ええそうよん。それで、お話があるんだけど……聞いてくれるかしらん?」


 これでようやくわかりました……この人、スカウトに来たんだ!


「ま、まさか……わわわ私をスカウトに!?」


「あ〜ら、随分と勘のいい子猫ちゃんじゃな〜いの。アタシ、勘のいいかわい子ちゃんは大好きよん♡」


 そう言ってウインクするコリジョンさん。オネエ口調なのにイケメンだから絵になるのずるい。オネエ口調なのに……!


「お気持ちは嬉しいのですが、これは私1人で決められることではありません。」


 そう言ってオーナーを呼ぼうとしたのだが……


「大丈夫大丈夫!オーナーには話をつけてあるわよ♪」


「ゑ」


 なんとオーナーには既に話をつけてあるというのです。流石世界整体協会日本支部長、仕事が早い。


「え、ちょっ、まっ……」


「魄戸ちゃんにはアタシの経営する整体で働いて貰うわ。……あ、もちろん資格は取ってもらうわよ?」


 改めてオーナーに連絡した私に帰ってきたのは、『君みたいな原石がこんなところにいるのはもったいない!資格の費用は儂が出すから巣立っていきなさい!』とのことでした。


「四面楚歌……」


 こうして、私の仕事と勉強を両立する日々が始まりました。


 朝起きて、朝はコンビニのバイト。昼休みに勉強、そして夜はSM嬢。


「朝はコンビニの床を踏んでー、夜はお客様を踏んでー……結局踏むのは場数のみー……ねむい」


 そうして激務が続いた私の体は……


「こ……こしが……」


 体がバッキバキになりました☆


「体が動かない……そうだ、確かきゅーちゃん整体師やってるって言ってたから……言ってみるか……」


 ある日の休日、私は幼なじみの『焼石 九 (やけいし ここの)』こときゅーちゃんのやってる整体に電話をしてみました。


 焼石九。彼女は琥珀の幼なじみにして、現在は整体師をしています。


 そんな彼女は6人姉妹の長女で、親が早くに亡くなったためか大学を中退しかつては昼はコンビニバイト、夜は水商売、さらに早朝は交通誘導までして弟や妹を育ててきた超肝っ玉レディなのです。


 ……なのですが。


 なんと現在彼女は業界トップクラスのSM整体師『お灸夫人』と呼ばれているとの噂をどこかで聞いたのです。

〜〜


「整体院『エクスタシー』……確かここって……」


 琥珀が向かった先にあった整体院。その名前と雰囲気に、彼女は何か思い当たる節があった。そしてポケットにおネエイケメンことコリジョンさんの名刺を入れたままだということを思い出し、手に取ると……


「嘘……でしょ……?」


 どうやらあの人、ここのオーナーらしい……


〜〜


 早速受付に来ました。

……来たのはいいんですが。


「い……いらっしゃい……ませ……お、お客様……と、当店は初めて……でしょうか……?」


 カタコトの日本語で受付を行っていたのはまだ幼げの残るメイド服を来た女の子……

いえ、私の長年のカンからして、この子は


……おとこの娘、でしょうか。なので私は(普段はあまり使わない)優しい口調でこう言いました。


「ぼく、可愛いね。ここの受付さん?」


 するとおとこの娘はもじもじしながら、


「は、はい!ボクはトム・シックスパックって言います……立派な整体師になるために、アメリカからムシャシュギョーに来ました!」


 と、答えてくれました。うん、可愛い。控えめに言って可愛い。

……ではなく!


「えっと、じゃあ……この『お灸夫人』をご指名で」


「わ、わかりました。お客様、料金は前払いとなっておりますので……」


〜〜


 こうして料金を支払い、お灸夫人の待つ部屋に向かった私。


「失礼しまーす……」


「あら、今日も冴えない子豚ちゃんが来ましたわn……待ってその声、琥珀!?」


「九先輩、お久しぶりですー……いえ、今はお灸夫人と言った方がよろしくて?」


 いかにもな服装といかにもな仮面を着け、さらに鞭まで持っていましたが私にはわかります。この人絶対九先輩だと。


「……じ、じゃあ始めるわね。とりあえずうつ伏せに寝なさい、これは命令よ子豚ちゃん」


 動揺しながらも仕事モードに切り替えれるのは素直にすごいなと思いました。そして彼女がまず取り出したものを見て、私の体は凍りつきました。


「まずは……っ!」


「!?」


 そう、先輩が取り出してきたのは先程登場した鞭だったのです!


「え、待って!?まさか先輩、鞭でマッサージをするとかそんなバカな真似するんじゃあないでしょうね!?」


「落ち着いて琥珀、この鞭は『ナガイカ』って言って、主にロシアのマッサージでちゃんと使われてるものなのよ」


「そ、そうなんですか!?」


 意外!それは実在するマッサージ法!じゃあ大丈夫ですね!

……と思いたいのですが。


「私には決心がつきません。もしまた筋肉痛になるようなことがあれば、先人達を見習うべきなのでしょうか…」


 すると先輩は諭すように、


「だったら一つだけ忠告があるわ」


 鞭を振り上げ……え、振り上げ?


「ん?」


「死ぬほど……痛いわよっ!!!」


 パシィンッ!!


「ぎゃあぁぁぁぁっ!!!!!??……あれ、でもなんか体がじんわりあったかい……」


 確かに痛みはありますが、同時になんだか感じてしまい……あれ、私ってマゾの素質があるのかな?


「はいはい、感じてるとこ悪いけど続けてさせてもらうね。……琥珀、何故私が『お灸夫人』と呼ばれてるかご存知で?」


 ふと、こんな質問をする先輩。


「そりゃあやはり名前が『九』だから……?」


 この時まだ私は、お『九』夫人と盛大に勘違いをしていたことに気づいていなかったのです……


「否!」


 一喝するせんぱ……お灸夫人。そんな彼女が取り出したのは……


「こういうことです。さぁ、お灸を据えさせてあげますわ!」


「お"っ……お灸……!?圧倒的お灸……!?」


 そっちの『灸』だなんて誰が思いつk……なんでしょう、あの人なら思いつきかねないと謎の納得感があります。


「えっ、ちょっ、まっ」


「問答無用!」


「どろっくちぇすたー!?」


 覚悟の決まらない私に対し、夫人はアツアツのお灸を乗せて来ました。


「あつっ、あっつ!?燃え尽きる!ヒート!!」


「いい声で鳴きますわね」


 お忘れかと思いますが、これ施術です。こういう施術なんです。信じてください……!


〜数時間後〜


「これでよし、ですわ♪」


 こうして施術 (という名のプレイ)が終わった頃には、身体の調子も良くなっていました。にわかには信じがたいが、結果が出てる以上……


「ありがとうございました」


「いいのいいの。後輩の手助けは先輩の仕事って言うし」


 流石先輩、いい事言う!……ん?後輩……?まぁ今はそんなこと考えてる暇はないか……


 その後もひたすらに勉強を続け、試験当日も私は全力を出し切った……そう思っています。


〜数日後〜


 今日くらいに合否の通知が来ます……控えめに言って寝れませんでした。


「はぁ……」


「琥珀のことだから大丈夫だと思うけど……」


 九先輩もその日はオフだったので家に来てもらい、一緒に結果を見てもらうことに。


「怖い……私、もし受かってなかったら……」


 ブロロロロロ……


「!このバイクの音……まさか……」


 合否の手紙を持ってくるバイクの音………今でも鮮明に覚えています。


「『新堂 琥珀様』……この中に……結果が……」


「開けてみなよ」


 恐る恐る開封し、結果を確認。すると中には……


「合……格……!」


 でかでかと『合格』の2文字が。


「先輩……私、やれました……!やりきりました……!!」


「おめでと琥珀。でも、これがゴールじゃなくてスタートってこと……忘れないでよね」


「はい!」


 先輩とも抱き合い、そして先輩の言葉で私は前を向く。ここからがスタートライン。整体師として、頑張らなきゃ!


 ……頑張ら……なきゃ……


「……私の職場って……後輩って……まさか……」


「そういうことよ」


「ようこそ、『魄戸』ちゃん♪」


 整体院『エクスタシー』……どうやらここが私の職場になるそうです……


「骨折り損……ってわけでもないけど、なんでよりによってぇぇぇぇ……!」


つづく?

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