TVドラマ脚本「龍の時代」

海石榴

第1話 禁裏紫宸殿

○禁裏紫宸殿・元日節会

 ◎テロップ 弘治四年(1558)正月、御所・紫宸殿


ナレーション「時は弘治四年、朝廷での元日節会に多くの公卿が参集した。正親町天皇の御代になって既に一年が経過していたが、朝廷は資金難で即位の礼を挙行できずにいた。一方、三好長慶との戦いに敗れた将軍・足利義輝は近江朽木谷に逃亡しも近江での逼塞は早五年にも及ぼうとしていた」


公卿A「義輝どのが近江へ落ちて、すでに五年であるが、いったい草深い朽木谷で何をいたしておるのか」


公卿B「聞いた話では、棒を狂人のごとく振り回しておられるとか」


公卿C「ほう、棒とは?」


公卿B「木剣でおじゃるよ。剣術の稽古とか。天下の征夷大将軍ともあろう者が、匹夫、端武者の真似事をするとは、あーあ、情けない、情けない」


公卿D「その話は麿も耳にしてござる。塚原卜伝とか申す卑しい兵法者に、新当流なる剣技を学んでおるとのこと。将軍でありながら、木っ端を振り回して遊んでおじゃるとは、世も末と申すべきか」


公卿A「それはともかく、この五年の政治的空白はいかがなものか。義輝どのは天下のまつりごとを怠り、禁裏へのご奉仕も懈怠しておる。これで将軍といえようか。いっそ、三好長慶どのを将軍並として遇し、天下のまつりごとを任せるべきではあるまいか。長慶どのは朝廷への尊崇の念強く、まことに殊勝であられる。この儀、いかが」


 公卿Bが「いかにも、仰せのとおり」と首肯するや、その場の全員が賛同の意を顔 にあらわす。


公卿C「ときに、今上の正親町天皇が皇位を継承されたとはいえ、資金難のゆえ、いまだ即位式を挙行できておらぬ。おいたわしくも、嘆かわしいことでおじゃる」


公卿A「なれど、御代が代わったのであるからして、改元せねばならぬ。その改元のこと、即位式挙行のこと、はたまたその警護など問題山積というに、義輝ど のがあれでは話にならぬ。ここは、やはり、三好どのを将軍並、すなわち義 輝どのの代わりとし、まつりごとを任すべきと心得る。その方針でよろしゅうおじゃるか」


公卿B「うむ、やむを得ぬことと存ずる」



公卿C以下、その場の全員「ごもっとも」とうなずく。



●つづく

 次回、近江朽木谷の義輝のシーンに場面展開。

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