第31話 奇襲
異世界での話、そして小春や道世の持つマジックアイテムのことも話す。途中で、俺や道世の攻撃魔法を発動させてみせたので、変に疑われることはなかった。
それどころか「すげーよ、ふせっち」と賞賛してくる。うーん、これでいいのか?
「結局さ、そのグールの人攫いの目的ってなんなんだ? 食べるためなら、その場で殺して食うだろ?」
素朴な疑問だ。
「彼らが恐ろしいのは、人間を家畜化するんだよ。攫ってきた人間をまず感染させる。すると、人間はゾンビ化して意識を失っておとなしくなる。殺すわけじゃないから、身体の肉は新鮮なままで保存できることになる」
まさかそんな方法で人間を家畜化するなんて。
「ゾンビはグールに襲いかからないのか?」
「不思議なことに、奴らと一緒にいるゾンビはおとなしい」
「何か特殊な能力でそれを抑えているのか……」
そもそも、人間として見ていないから襲わないのか。
「むっちゃん。場所はだいたいわかるっていったけど、敵の規模はわからないだろ?」
「そうだな。でも、グールの拠点はすごくわかりやすいから、事前に遠くから調べられる。ほら、シェルターから借りてきたこれでバッチリだ」
むっちゃんがポケットから取りだしたのは小型の双眼鏡だ。たしかに遠くから奴らの拠点の中を覗くには最適だろう。
「先輩。上空のグリちゃんがこの先でグールらしい集団を見つけたらしいです。白い髪に紅い瞳っていう特徴に合致してますね。あと、ゾンビの集団も何体かいるそうです」
小春がそう報告してくる。
「場所は?」
「次の交差点を右に行ったところです」
それに対して現喜が反応する。
「略奪部隊かもしれない。見つかったら攻撃を仕掛けてくるぞ」
現喜は、そう注意喚起した。
「主。指示を」
道世がこちらを見る。ここで戦闘を仕掛けるか、スルーするかで今後の作戦は変わってくる。
安全と確実さを優先して、ここでは戦わずに無傷で救出作戦を行うか。
それとも、グールたちと戦うことで奴らの動きや弱点を知り、救出作戦の成功率を上げるか。
「そうだな。俺たちはグールと戦うのは初めてだ。攻撃がどの程度通用するのか見たいし、むっちゃんのアイテムも試してみたい」
「そうですね。先輩のホーリーライトが一発で効くなら、救出作戦は簡単に終わりますし」
そういうことだ。
「なるほど。グールがアンデッドのカテゴリに入るなら神聖魔法の手数の多い主が有利ということデスね」
道世がそう言って納得する。
物陰に隠れながら近づき、まずは最初の魔法を発動させる。
「
俺を中心に聖なる光が辺りを照らすが、グールは全く反応しない。光輝くといっても、それを忌避するアンデッドにしか見えない光だ。なので、奴らに気付かれることもなかった。
「主。神聖魔法はダメみたいですね」
道世が残念そうに呟く。
「いや、使える魔法は試してみるべきだろう。
光の槍は一人のグールへと飛んで行き、その身体の中心を貫く。と、そいつは粒子化してボロボロと崩れて灰と化す。ほぼ一瞬で灰になったので、まだ周りにいるグールたちは気付いていない。
「効いてますね。先輩」
どういうことだ? アンデッドなら
「ふせっち。その魔法すげえな! 一瞬であいつらを葬れるなんて」
「すごいと言われてもな。これは神聖魔法にカテゴライズされる魔法で、本来ならアンデッドにしか効かないんだ。人間相手に放っても意味のない魔法なんだぞ」
「うーん。なら、ちょっと実験してもらっていいか?」
むっちゃんがそんなことを告げる。
「実験?」
まあ、今も実験の最中なんだが。
「そうだな。頭とか腕とか足とか、そういう部分的な所に狙いを定めるのは可能か?」
「可能だ。といっても、俺はもともと
さっきだって、外さないようにするために身体の中心を狙ったのだから。銃を撃つ初心者がヘッドショットではなく、身体の中心を狙えというのと一緒だ。確実性のための照準なのだから。
「外しても奴らにバレることはないだろ? だったらやってみろよ」
そうは言われても、
「
再び光の槍を放つ。狙うは頭部。ヘッドショットはそんなに上手くはないが、今回は外しても問題はない。
だが、槍の軌跡は目標の頭部を貫いた。
「お!」
思わず声が出てしまう。だが、貫かれたグールは、倒れることも粒子化することもなく平気で立っている。
「なるほど。おまえのその魔法は、奴らの核には効果があるんだな」
「核?」
「言っただろ? 奴らは頭を潰されてもすぐに回復する能力を持っているって。でも、心臓の部分にある核をぶっ潰せば、回復能力は停止するんだ」
それで
「先輩。ホーリーライトってアンデッドが忌避する光なんですよね。グールはそれを感じることができないから逃げなかったって事なんですよね」
小春がそんな風に俺の考えていたことをまとめてくれた。
「奴らの魔物的な要素である核こそが、アンデッド扱いになっているのが面白いな」
「え? どういうことですか主?」
話についていけない道世がそんな風に問う。
「やつらはキメラなんだよ。超回復を持つアンデッドの細胞と、人間の細胞の混合体だ」
「なるほど、同一個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっているってことですか」
アンデッドと非アンデッドが同一の身体を持っているといった方がいいだろう。一見矛盾していそうだが、キメラという言葉でそれは成り立ってしまう。
「それぞれ独立していながら、実は連携もとれるってこと。そして、核の部分はアンデッドだから神聖魔法は通じるが、それ以外の部分は別の細胞なので効かないって仕組みなんだろう」
わりと複雑な構造をしているが、敵としての対処方法は単純だ。
「ふせっち。とにかく核を潰すってやり方は変わらないんだろ?」
「そういうことだ」
「俺の、この『ナックルダスター』はどう使えばいいんだ?」
装着されたそれを不思議そうに見つめるむっちゃん。
「それは攻撃力がかなりアップするアイテムだから、単純に殴ればいいよ。その形状なのに、スレッジハンマー並の威力があるから」
ただのナックルダスターだっていうのに、魔物を言葉通り「ぶっ飛ばす」ことができる近接武器でもあるからな。
「なるほど、力技で攻めるにはぴったりの武器ってことか」
「防御魔法もかけてやるから、脳筋で暴れても大抵のことではやられないだろう」
右手に装着されたナックルダスターを、むっちゃんは真剣に見つめる。
「ふせっちは嘘を吐くようなタイプじゃないから信用してるけど、でも、実際に自分の目で見ないと不安なところはあるよ」
見た目はただの鉄製の装着具なので、小春や道世のマジックアイテムのように効果がわかりにくいだろう。
「だったら、チカホさんを助ける前に、お試しの戦闘ができるんじゃないか。まあ、練習みたいなものと思って気楽に行こうぜ」
「お、おう!」
道を進んでいき、角を曲がるとグールの集団が見えてきた。
「道世。先制攻撃だ。派手に行け!」
「御意! インフェルノ」
呪文1つで、同時に2つの火球が飛んで行く。この間の魔力共有のときに魔法のコツを掴んだといっていたが、こういうことか。
不意打ちの攻撃にグールたちは驚いている。
「何があった?」
「どこからの攻撃だ」
「グレネードなのか?」
よし、敵が混乱している間に攻撃を仕掛けるか。
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