異世界からの帰還者は荒廃した日本を無双して歩く ~ スローライフを求めるクレリックは仲間を集めて最強となる
オカノヒカル
第1話 異世界からの帰還
「世話になったな、リリア姫。それから
目の前にいる二人にそう告げる。考えに考えて出した結論だった。
俺は
「サトミさま。お考えは変わらないのですね」
悲しそうな顔でそう訴えるのは、ラミネ王国の第一王女リリア。一緒に魔王を倒した仲間の一人である。
出会った頃より大人になり、その美しさには磨きがかかった。
金糸のような艶やかな髪と大きくて澄んだエメラルドグリーンの瞳は、今でも俺の心を掴んで離さない。
彼女は俺の片思いの相手でもあった。
リリアの隣にいた勇者の
「サトミ君も僕と同じで、元の世界に未練はないと言ってなかったか? 僕はまた、キミと冒険をしたいよ」
英雄も俺と同じく、この異世界へと召喚された一人。勇者として魔王討伐に参加していた。
悪い奴じゃない。
ただ、リリアと恋仲になり、俺の片思いを終わらせた張本人でもある。まあ、恨んではいないが。
たしかに
けど……。
「いや、元の世界に残してきた家族も気になるしな」
それは嘘だ。
母親は俺が幼い頃に亡くなっているし、父親は海外勤務がほとんどで物心ついてからは接点はない。
唯一、世話をしてくれた祖母は、口うるさい古臭い人間だった。
今さら、身内に再会したいとは微塵も思わない。いや、何も言えずにこちらの世界に来てしまったことに多少の後悔はある。せめて、別れの言葉は告げたかった。
それでも俺は、この世界に残りたいと考えてしまう。
けれど、それではリリアに対する未練が残ってしまうのだ。だから、魔王討伐が終わり、元の世界へと戻れると聞いて安堵した。
これで想いを断ち切れるのだと。
「わかりました、サトミさま。では、魔法樹の元へ参りましょう」
俺は、これからリリアの帰還魔法にて、召喚前にいた世界に戻ろうとしている。
そのために、大魔法を発動しやすい魔法樹の近くへと行くのだ。
魔法樹というのは、王都の中心部にある巨大な木である。樹高300メートルで幹周は40メートル近くあると言われていた。
普通の植物と違い、全体が黄金色に輝く。紅葉の季節に銀杏の木が黄色の葉を付けるのとはまったく違う。これは言葉の通りの黄金であり、金細工で出来ているような錯覚を覚えるのだ。
とはいえ、伝説的な世界樹のように、世界に一本しかないわけではない。
「しかしまあ、こんなでかい木が世界中にあるってのも、召喚された当時は驚いていたもんだよなぁ」
「ああ、そうだな」
歩きながら隣にいる英雄に話しかける。
魔法樹は、都市ごとに一本生えている。というか。魔法樹の周りに都市ができて発展したといった方がいいだろう。
俺の言葉に、リリアが補足するように改めて説明する。
「魔法樹はこの世界でも七不思議の一つに数えられる存在ですよ。でも、この樹があるからこそ、わたしたちは魔法が使えるのです」
魔法樹はその名の通り、魔法の発動に必要な魔力を常に大気に放出している。
そして、この樹の特殊な能力により、人間の中に魔力回路が開き、魔力を溜め込むことができるようになるのだ。
「この木のおかげで魔法が使えることは理解しているよ。ということは、俺が元の世界に帰ったとき、魔法が使えないただの人間に戻ってしまうのか?」
元の世界でも魔法が使えれば楽しいのだが、魔法樹がなければ魔力自体が存在しなくなってしまう。
いくら魔法使う方法を知っていても、魔力がなければ何も発動しないのだ。
「ええ、その通りですね」
とはいえ、魔法なんてチートは現代社会ではトラブルを呼び込むことになりそうだ。ただの人間に戻るほうが平和だろう。
「そもそも、僕たちがいた世界は『魔法』なんかなかったじゃないか。それよりも便利な『科学』があるんだから、困りはしないだろう?」
英雄がそんなことを言う。こいつは帰る気はないのだから気楽なものだ。
とはいえ、リリアの夫として次期国王となるのだから、それはそれで大変なのかもしれない。
「まあ、そうだな。おまえも頑張れよ」
「そういや、僕が初めて魔法樹を見た時、『世界樹』だって勘違いして、感動したのを思い出した」
英雄のその発言に、リリア姫がくすりと笑う。
「世界樹は、本当に神話の世界のお伽噺ですよ。魔法樹はしょせん、人間が品種改良した植物でしかありません」
でも疑問に思うことはある。
「でも、昔は魔法なんてなかったんだろ?」
ニワトリが先か卵が先かの問題だ。魔力を放出する木があったから魔法を使い始めたのか、それとも魔法を使うために、この木を品種改良までして作り上げたのか?
「そうですね。詳しい文献は残っていないので、どうやって作り出されたかはわかりませんが、原木じたいは伝承によれば神から送られたものと言われていますね」
「神から?」
「天から授けられたと」
リリアは指先を空へと向ける。
「なるほど。ということは、宇宙から来たっていう可能性もあるんだな」
「きみって、そういう所は現実的に考えるんだよな。ある意味、賢者シカガと気が合いそうだ」
英雄がそう言って茶化してくる。賢者シカガは3度しか会ったことがないが、癖の強い奴だった。
「俺としては、自分と性格が似ている奴は嫌いだよ」
賢者シカガは、魔王討伐に協力してくれた陰の功労者だ。
力技で攻める
「そろそろ着きますよ」
リリアが目の前の門を見上げる。大きさが2メートルはある金色の門だ。これをくぐれば、魔法樹に辿り着く。
樹の回りは特殊な柵で囲われており、一般的な市民は樹に触れるどころか、近くで見ることもできない。それだけ厳重に扱われていた。
中に入ると、大きな魔法陣が書かれている広場が見える。
ここは、俺と英雄が12年前に召喚された場所でもあった。
すべてはこの場所から始まったのだ。
「特異帰還の魔法を唱えます」
神妙な顔でリリア姫が告げる。
「お願いします。リリア姫」
「元の世界の戻る場所は、こちらへの召喚された時と同じ場所です。時間軸も数ヶ月のズレはありますが、最大で1年程度となりましょう」
「そういや、あれから12年も経っているが、俺の身体はどうなるんだ?」
高校生の時に召喚され、こちらで12年もの月日を過ごした。体つきも変わって、今はアラサーのおっさんになってしまっている。
身内や知り合いが、俺を俺だと認めてくれるかどうかが怪しい。
「帰還するさいは肉体と記憶のみ転移し、その時間軸での身体に合わせられます。つまり、18歳のサトミさまの姿に変化するでしょう」
「ならば問題ないな。いや、もうおっさんなのに高校生の姿に戻るのは、少し違和感があるけど」
昔の身体では筋力も違うから、慣れるまでに時間がかかりそうである。
「申し訳ありません。世界を
「ああ、構わないよ。ということは、今着ている服も装備も持っていけないのかな?」
肉体と記憶のみの転移だったか。
「ええ、申し訳ないですが、こちらの世界の物は持ち出せないことになっています」
「服や防具はいいとしても、装備品にはいろいろ想い出があるんだけどな」
マジックアイテムと呼ばれる数々の装備は、様々な人との出会い譲渡されたものだ。中には想い出深い品もある。
「サトミ君。魔力のない世界では、あのマジックアイテムは動作しない。それに、こちらの服は昔のキミにはダボダボだろう?」
ヒデオが冗談っぽい口調でそう言った。
まあ、昔はヒョロガリだったので、服のサイズは合わないだろう。
「身長はそれほど伸びていないが、かなり筋肉はついたからな」
胸板はかなり厚くなったし、腕や足もがっちりしている。こちらでの戦いで、だいぶ鍛えられたからだろう。
「かといって、異世界の服を着ていたらコスプレの間違えられるかもしれないね」
今着ているのは、この異世界での盛装だ。といっても、中世の貴族が着るようなコート、ウエストコート、ブリーチズで構成されたものである。
「たしかにこのまま元の世界に戻ったら、ただのコスプレイヤーだな」
「ははは、悪い。想像してしまった」
英雄は笑うが、リリア姫は元の世界がどんなところかわからないためピンときていないという顔である。
「まあ、某映画のように真っ裸で転送される方が不安だが」
下手をすれば警察沙汰だっての。
「ははは……まあ、気をつけて家に戻ってくれ」
「言われなくてもそうするって!」
悲しい別れの場だというのに、なぜか心が和む。
そもそも、俺に勇気がなかったから、リリアに『想い』を伝えられなかっただけである。
「サトミさま。魔法を発動させます。魔力共有のご協力を」
「そうか。異世界への帰還魔法は、一人の魔法使いの魔力じゃ全然足らないんだったな」
リリアと両手を繋ぐかたちになる。
魔力共有とは読んで字のごとく、己の足りない魔力を他者と共有することで補うものだ。
大魔力を使うことで、通常の魔法をかなりパワーアップさせることもできる。
彼女が使うのは帰還魔法。言葉通り元の世界へと帰還するための魔法。召喚とは逆のことをするのだ。
そんな異次元への帰還の扉を開けるのだから、相当な魔力が必要なのだろう。
「魔力共有を確認しました」
まるで心を1つに共有したかのように、リリアの記憶の欠片が俺の頭に混じり始める。
そのタイミングでリリア姫は、帰還呪文を唱え始めた。
「世界の理を超え、我が召喚に答えし勇者よ。願望の器は満ちた。安住の地である郷里への道を開きたまえ」
後ろから何か懐かしい香りが漂ってきた。思わず振り返ると、そこには10年ぶりに見る我が家の玄関ドアがあった。
そういえばあの時、出かけようと思って家の扉を開けたら異世界だったっけ……。
「もう魔法は発動しました。手を離されて大丈夫ですよ」
リリア姫からそう言われて、名残惜しさを感じながらもその手を離す。本当に未練がましいな俺は。
そんな想いを切り捨てるかのように、故郷の匂いに感情を載せる。
「本当に帰れるんだ」
それほど待ち望んだことでもない。でも、俺にとってはそれが一番いいのかもしれない。
「向こうでも元気でな」
「お身体にお気を付けください。サトミさまのお幸せをお祈りしております」
リリアの方は、少し涙が潤んでいる。俺との別れのために泣いてくれたことは嬉しい。それだけでも、この世界に来た意味はあったのではないかと、自己満足。
「ああ、二人とも幸せにな」
俺は二人に背を向けてそう言うと、片手を上げて後方の二人に手を振った。そして前へと進み、扉に手をかける。
さあ、これで異世界には、さよならだ。
元の世界で俺は、人生をやり直すことができる。
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