30 ~side ムンナ~
ルルちゃんというクラスメイトがいる。
髪が真っ黒で、背が小さい。そのうえ、魔力が極少量しかないらしい。
実を言うと、アタシはルルちゃんのことはそんなに嫌いじゃない。クラスで浮きたくないから、いつもは言わないけど。
ただ不思議には思っている。
あの子はどうやって、この学園に入学したのだろう?
入学の際に、試験として魔術の精度を見られるはずなんだけど、ルルちゃんの魔力量では通過できる訳がない。
噂では、裏口入学とか言われているけど、あの子の実家での冷遇っぷりは貴族の間では有名。彼女のためにお金を積むようなことを絶対にしないことは、少し考えれば分かる。そんな噂を信じるのは、世間の事情に疎い馬鹿だけ。
さらに、最近になってルルちゃんに抱いている不思議は増えた。
初めて、召喚魔術で使い魔を召喚した日。
アタシは魔狼の灰筒と出会った。
これが、モフモフでちょーかわいいのっ!!!
んんっ……その場で飛び跳ねそうになるほど、嬉しかったのを鮮明に覚えている。
でも、問題はアタシの次に召喚を行ったルルちゃん。
実は、クラスメイトたちは、裏でルルちゃんが魔物を召喚できるかで賭けを行っていた。
ただ殆どが、できない方に賭けられており、ギャンブルとして成立していない有様だったので、アタシはできるに賭けた。
結果として、アタシは賭けに勝った。
ルルちゃんは召喚は見事に成功。
ただ、召喚した魔物が異質だった。
見ているこっちが、泣きたくなるような悲し気な表情をしたゾンビ。それが、あまりにも人間臭く感じられた。
でも、腕に抱いていた灰筒は、アタシとは正反対の印象を抱いたらしい。
丸まって、怯えていた。まだ出会たばかりのアタシの胸に顔を埋めて、全てを諦めたように、震えていた。
どうして?
そう思ったのも束の間、ルルちゃんに気付くとゾンビはパッと顔を明るくして、今度はナユタ先生を睨みつけてと、ガラの悪いチンピラのようなことをして、ルルちゃんに早々に窘められる始末。
灰筒の震えも、いつの間にか止み、呑気に舌を出してアタシを見上げていた。
いったい、何だったの?
「ハァ、ハァハァ、ハッ、ハァッ」
アタシは逃げていた。
途中まで一緒に走っていた、ディール殿下とレオルドは途中から見ていない。
アタシより、足が遅いのが悪い。
「キャウン! キャンッ!」(アルジ! イソグ! クワレル!!)
「分かってるわよ!」
並走する灰色狼の子供、灰筒の言葉に苛立ち交じり返す。
あぁ、もう! 普段なら、こんなことは絶対にないのに!
今日だってそうだ。あんな魔物がこの森にいるなんて聞いてない! 予定と違うことが起こりすぎている!
「灰筒! 周囲の索敵!」
「キャウ!」(オケ!)
優れた嗅覚と聴覚、それに加えて魔力の流れを読むと言われる体毛を持つ魔狼の索敵能力は、人間の数倍。走りながらでも、背後の状況を正確に把握することができる。
「キャウッ!」(マダ、コワイ!)
でも、これだからなぁ……。
召喚したばかりだから、中身が幼いのは仕方ないとしても、報告があまりにも雑だった。
しかし、それは今後の課題であって、直近の問題は、……あれ? 直近の問題は?
アタシ達に逃げろと叫んだルルちゃんも、同じじゃないの?
まさか、だって、でも、あの魔物が追ってきていないのって、そういう……。
ルルちゃんは、逃げていない?
アレに立ち向かった?
無茶だ。あの使い魔が多少、強いことは知っている。でも、勝てっこない。
そして、勝てなかったら、きっと……。
その考えに至っても尚、アタシの脚は止まってくれなかった。
ごめん、ごめんなさい、ルルちゃん。
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