12
「こっちよ」
そう言われて、案内された部屋は存外広く、ベッドが4つあった。それぞれにカーテンがついているが、今は使用者がいないからか、開け放たれていた。
それとは別に、ベンチのような狭いベッドが部屋の中央にあり、そこにリドウさんを上着は脱がせてうつ伏せに寝かせる。
「はい、ありがとう。じゃあ、少し待ってなさい」
ガチムチ男改め、ヨウクさんの指示通り待つ。名前はここまでの道中で教えてくれた。
「『和らげて』、『キュア』」
今度のは、黄緑っぽい光でヨウクさんの手を包む。その手で、リドウさんの腰を服越しに撫でる。
「これはね、『キュア』って言って、痛みを和らげたり、化膿を抑えたりする効果があるわ」
俺が不思議そうに見ていると、ヨウクさんが教えてくれた。
「魔術っていうのね、直接触れたほうが効果が高いものが多いの。さっきやった、『ヒール』みたいに飛ばすと、僅かだけど、効果が落ちる」
「ぐぅぁー」(なるほどー)
「だから、こうして直接触れるのが一番、効率がいいのよ。まぁ、でも実際は飛ばして使った方が安全だから、そっちが主流なんだけど」
「ぐぅぐぅ」(ふむふむ)
「……ヨウク、お前さんゾンビと会話できたんか?」
うつ伏せのままリドウさんが聞いた。
「分かるわけないじゃない。勘よ、勘」
勘らしい。俺も、適当な相槌を打っていただけなんだけど。
しかし、いいことを聞いた。
ルルがしてくれていた、直接魔力を渡す方法は効率のいい方法だったらしい。
「はい、これで応急の処置は終わり。湿布をだすから、寝る前に貼ってください」
施術は終わったようで、ペチンとリドウさんの腰を叩くと、ヨウクさんは机の方に向かった。そして、立ったまま机の上の紙にサラサラと何かを書いてから、戸棚を開いて小包を取り出す。
「年なんだから、たまにはお休みしてくださいね」
「ははは、うるせぇいや」
悪態をつくリドウさんの顔は皺だらけでありながら、子供のような無邪気さが見てとれた。
俺が持っていた上着も、リドウさんに渡す。
「……これ、あなたが畳んでくれたの?」
ん?
そんなに、いけないことだっただろうか? 持っている間に、皺にならないように畳んだんだけど。
心なしか、リドウさんの表情も硬くなっている気がする。
「ぐぁ……」(はい……)
「ふーん。ありがとうね」
そう言うと、ヨウクさんが俺の頭をグシグシと撫でた。頭皮から伝わる分厚い手の感触に、思わず体が固まってしまう。
「もうっ、ウブな子」
うぇぁ!! ウィンクされたぁっ⁉
「リドウさん、この子って誰の魔物かしら?」
「ルル=ベネティキアだ」
「あぁ、あの子のですか……」
「ぐぐぁぐぐっぐぇ!」(ルルを知ってるのか!)
クソっ! このバケモノと、すでに邂逅済みだったというのか!
「ご主人様の名前にだけは嫌に反応がいいわね~。担任は、ナユタちゃんだったっけ? 報告は私からしておくわ。ああ、もちろんお咎めは無いようにするから」
ま、まぁルルに罰が無いように計らってくれるのなら、許容できる……できるか?
「それじゃあ、あんがとさん」
俺の苦悩など、当然知らないリドウさんがスタスタと出て行ったので、慌てて追いかける。
「ゾンビさん」
部屋を出る直前、ヨウクさんが声をかけてきた。
振り返ると、その表情は少し悲しそうにしていた。
「ルルちゃんにあまり、無茶させないであげてね」
「ぐるるぁ」(させるわけない)
何を、当たり前のことを言っているのだろう。
ちなみにヨウクさんは終始、上裸のままだった。
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