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結局ルルは、図書館の閉館まで寝ていた。
閉館時刻になると、図書館全体が輝きだし、俺とルルは入ってきた魔法陣のあるところに転移させられた。寝ていたルルは必然、放りだされるような形になったが、なんとか抱えることができた。
「ん、あぁ、あれ、図書館は?」
寝ぼけ眼をこすりながら、ルルが聞いてくる。
(追い出された)
「閉館時間だったんですね」
(けっこう寝てたけど、大丈夫か?)
「夜寝れなくなりそうです」
(いや、そうじゃなくて。昨日も魔力使って、今日も使ってじゃ、体がキツいんじゃないか?)
「うーん、どうなんでしょう?」
ルルが力なく笑う。
「わたし、魔力が少なすぎるので、コレが普通なんですよね」
なん、だと……!?
俺は戦慄した。あんな疲れているのが、普通?
子供なんてのは、元気が有り余っていれば、それに越したことが無いというのに。
(ルル、無茶させてごめんな)
「気にしないでください。それに無くなるのも早いですけど、回復するのも早いのでもう元気ですよ」
そう言って、その場でピョンピョン跳ねてくるりとルルが回る。
いや、かわいいかよ。
(そうか。でも、無理だけはするなよ)
軽く頭を撫でて、そのままの流れで抱き上げる。
「え!? え⁉ なんで、なんでそうなるんですか!」
(いいかな、って。周りに人いないし)
夕日の差し込む廊下には、俺とルル以外に人気は無い。
「ま、まぁ、それだったら」
ただ、担ぎ上げてから肩車だと、ルルが頭を……ぶつけないか。
俺の身長もそこまで高いとは言えない。子供たちよりは高いけど、かと言ってルルの担任の女よりは低い。
俺の頭を両手でがっちりホールドしてる少女の、小柄なことを加味すれば問題はない。
(それじゃあ、いこっか。食堂でいい?)
「いきましょう!」
その声はたしかに、弾んでいた。
その後、俺たちは昨日よりはかなり人の少ない食堂で食事を摂った。
そんな中でも、いやだからこそ、爆食を敢行していた豚ガキは、非常に目立つ。今日はルルも気付いたようで、バレないように、コソコソ動いては端の方に座ていた。
部屋にもどってから二人きりとなったが、ルルは風呂に入ったので、俺一人の時間ができた。
今日、本で読んだ内容を頭の中で、何度も繰り返し、繰り返し思い出す。
基本の型稽古のやり方から、突きや蹴りで気をつけること。何より、気の使い方だ。
あれは体術を使った戦闘を組み立てていく上で、必須とも言える技能だろう。図書館ではルルから魔力を分けて貰ったが、自分では捻出できないのだろうか?
床に座り、座禅を組む。
そして目を瞑る。
瞑想。これも、指南書に書いてあった。なんでも気を練り上げる訓練になるらしい。
体の隅々まで意識を張り巡らせる。ルルに分けてもらった魔力に似たものを探すんだ。
結果として、見つけること自体はすぐにできた。お腹の下あたり、丹田にあった。なんで、そこを、丹田と言うのかを知っているかについては、この際はスルー。
ただ、問題があった。
薄い。あまりにも薄い。ルルのが水だとすれば、俺のは霧に近い。動かそうとしても、すぐに散り散りになっては、丹田に集まるのを繰り返す。
やっぱりルルの言う通り、俺だけでは魔力を捻出できそうにない。
完全にお手上げ。ぐでー、と座禅をしたまま上体を床に投げ出す。俺って体、柔らかいんだー。
そんな些細な発見をしつつルルを待って、上がってきたところ、そのことを質問した。すると、当たり前と言った表情をされた。
「ゾンビは魔力を練れないんです」
(魔力を練る? という行為が必要で、俺にはできないって、理解であってるか)
ベッドの上に座るルルを、床に座禅を組んだ俺はやや見上げる形になりながら訪ねた。
「はい、ですから、その、必要になったら分けて上げるので……」
何故か、ルルがジモジしながら言葉を濁した。
(分かった。言うよ)
でも、そうか。ゾンビの俺にはできないのか。
(そこら辺のことも、今日調べるんだったな)
行く前はその気だったのに、文字が読めなかったショックと、学園長の襲来ですっかり忘れていた。
「そこは安心してください」
ルルが控え目に胸に手を当てる。
「ちゃんと、調べておきました」
おぉー! 流石だ、ルル!!
ルルからのゾンビという魔物についてのレクチャーは、彼女が寝落ちするまで続いた。
座ったまま、船を漕ぎ出したルルを横にして、布団を掛けて寝息を立て始めるのを確認してから、昨日と同様、椅子に腰掛けて窓から見える6つの月を見上げる。
ゾンビについてとは、言ったもののルルから受けた説明の多くは、ゾンビを含んだアンデッドについてだった。
その多くの共通する弱点として、日の光で弱体化すること、神聖魔法に滅法弱いこと、回復魔法の恩恵が受けられないこと。
反対に強みとしては、長寿であることで、弱点以外では打たれ強くしぶといこと、高い再生力があること。
これだけ聞くと、俺のゾンビという種族も強いんじゃないかと思ってしまう。また、ゾンビというのはその特性上、力が強いらしく、また疲れることもないらしい。
しかし、実際はそう甘くない。
ゾンビという種族はあまり研究が進んでいない。いや、正確には研究が宛にならないようだ。
どういう訳か、ゾンビというのは生者だった頃の影響を強く受ける。
強い者がゾンビになれば、強いゾンビに。弱い者がゾンビになれば、弱いゾンビに。
俺は一体、どちらなのだろう?
というか、ルルが召喚したときに今の俺は作られたらしいのだが、本当に前世や生前なんてものがあるのだろうか? すべて、俺の勘違いなのかも。
悩んでも分からない。
答えも出ない。
それが分かってはいても、止めることはできない。きっとこれは退屈のせいだ。
そうだ、月を眺めることしかできないからだ。
明日こそは、夜のひまつぶしを見つけないと。
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