第104話 レアボス
ボスを倒した後、10階の入口側に戻り、みんなと合流する。
ボス戦は30分程度だったと思うけど、その前の手合わせや準備も合わせると1時間くらいは経過している。そして、一度ボス部屋に入っているせいで、後ろで待っている他の組から不満が出ていた。
こちらとしては、救出に行っただけで、ボス撃破の報酬を貰った訳でもないので、そのまま並んでいてもいいのだけど……結局、一番後ろに並び直すことした。9番目とか、しばらく順番こないかな。
パーティーメンバーが後から合流したようにも見えるため、並んでいる側から不満が出たことと、ディーロさん達のパーティーも後ろに並び直していたことも大きい。「悪いな」と謝られた。
ついでに、五月蠅いパーティーがどこ出身のパーティーかも教えてくれた。どうやら帝国からの冒険者ばかりだったらしい。王国と帝国ではダンジョン内のマナーが違うらしい。
「あっちはルール違うのもあるが……気を付けろよ?」
帝国の冒険者の方が悪意を持っていることを心配された。
ついでに、救出したパーティーのように能力不足が目立つパーティーも多いらしい。しばらく順番来ないという忠告ももらった。
ついでに、私達のパーティーもそう見えるので絡まれないようにとまで言われたけど……。
「俺ら、弱そうってこと?」
「レウス……まあ、そもそものマーレスタットの冒険者って他の地域より質が高いらしいよ。だから、同じC級を名乗っていても実力が違う。……というか、今、なぜかB級の人達がたくさん潜ってるから」
「実力が高いなら、何故、他のダンジョンに行かないのかな?」
「ティガさん……ここの鉱山ダンジョンは、王国でも指折りの稼ぎが良いダンジョンです」
キノコの森ダンジョンも近いのだけど……あっちは不人気ダンジョン。私としては、あちらに行って素材を採って来たいけど……冒険者ランク上げないといけないから困ってる。
毒とか状態異常の対策をしっかりしないといけないダンジョンだからね。いや、ここのボスも火傷と麻痺の対策をしないで、全滅しそうになってたわけだが……。ボスだけ状態異常の対策すればいいという点では、準備も少なくていい。まあ、それをを知らないのが帝国冒険者ならともかく……ノトスさんの知り合いって、疑問だけど。
「そうでなくても、冒険者としてはいい町だからな。俺とナーガが隣の領に行ったが、あそこで冒険者するくらいならこの町の冒険者になることを希望する。そういう理由で、ここに留まる連中もいるんだろうな」
「まあ、俺らには関係ないだろう。あんた達は休んだらどうだ?」
クロウの言葉に、順番で仮眠に入る事になった。
私とナーガ君と兄さんはそのまま順番が来るまで寝ていることにして、他は二人ずつ交代で……結局、順番が回ってきたのは翌日の昼近くになってからだったの。
前の冒険者がボス部屋を出たのか、入れるようになったが……。
「やれやれ……面倒なことになりそうだな」
「なになに、どういう事?」
「さっさと入ろう。面倒なことになる」
入口の状態が普通と違う。これは、レアボスが出ているという特徴だった。
「絡まれる前に入るぞ」
ざわついている周囲を無視して、兄さんに促され、さっさと部屋に入ることにした。一部、気付いただろう……ここのダンジョンが人気な理由の一つ、レアボスによる金稼ぎ。
「えっと……何が起きてるの?」
「……レアボスだ」
アルス君の問いにナーガ君が答え、大盾を準備している。
まだ距離があるが、そのうちボスが気づいてやってくるだろう。
「面倒なことになる」
「どう面倒なのか教えてくれるかい? 倒せないとか、そういう可能性があるということなのかな?」
「いえ……レアボスは貴重だからこそ、報酬が欲しい人は多いんです。さっきみたいに救出という形を取って、乱入してくる可能性があります」
「何それ!? いいの!?」
「普通は駄目だが……やるだろうな。マナーがなってない冒険者の方が多い上に、次に並んでいた組、3人だっただろう? 俺らが7人だから、入ってこれる。ついでにボスを強化して俺らを全滅させること企むかもな」
うん……兄さんの予想が無いとは言えないから、困るんだよね。
実力的にはそんなに強い人達でないと思うけど……30分過ぎたら、遅いとか言って入ってきそうだよね。
私たちの後ろに並んでる中に、マーレスタット所属の人はいなかったから止める人もいないだろう。
さっさと倒したいところだけど……。
「えっと……打合せをしていたけど、ボスの倒し方って、変わるのかな?」
「……レアボスはジュエルクロコ。石炭ではなく宝石を身に纏ってるから…………すごく堅いかな。あとは、爆発しないので、熱風とかもない。倒し方は変わらないけど……固いけど、危険は減って……お金はがぽがぽって感じ」
レアボスは美味しい。とりあえず、倒し方は変わらない。
「突進してきたら、ナーガが止めて、その間に攻撃するのがいいだろうな」
「わたしでは止めるのはむずかしいかな?」
ティガさんは、防御力こそナーガ君より低いけど盾の使い方に問題はない。
だけど、それなりにダメージを負う覚悟があるのであれば……というのが前提となる。
「ダメージを負うことになります」
「タンクは仲間を庇うのが仕事だろう。ダメージを負うくらいで役目を放棄はできないよ。わたしが止める間にナーガも攻撃に。回復はお任せするよ」
「わかりました……ナーガ君、攻撃にまわるなら、後ろから尻尾を……その大剣なら切断できるはず」
「……わかった」
ナーガ君は少し不満そうではあるが、二人で抑える必要もないので、ティガさんに任せることになった。
ジュエルクロコが現れる。
コールクロコが全身黒、又は熱せられて赤くなった石炭を身に纏うワニだった。ジュエルクロコはキラキラと光り輝き、色とりどりの宝石を身に纏っている。
サイズはコールクロコよりも二回りは小さいかもしれない。5メートルくらいのサイズだった。
「お~すごっ、なんかめっちゃ綺麗」
「目がチカチカするなぁ」
レウスとクロウがのんきに感想を述べている。まあ、わかる。赤、青、黄、緑に紫やピンク、白や黒も混じっているが、とにかくキラキラしている。
こちらに気付き、狙いを定めるようにぐっと溜めるように体を沈めた後、突進を仕掛けてくる。
「ティガさん、少し寒いかもしれないですけど、盾強化しますね……氷盾〈アイスシールド〉」
「ああ、ありがとう……挑発、ガード」
ティガさんからの挑発と、ティガさんの後ろに私とクロウが控え、目標を多くすることで誘導する。
そのまま盾にぶつかり、強化した氷が砕け散り、さらにティガさんにダメージが入った。
「ぐぅっ……」
「光回復〈ヒール〉」
ティガさんが攻撃を受けて、うめき声が漏れる。すかさず回復魔法を唱えておく。実際は2割くらいしか削れていないので、過剰回復かもしれないけど……おそらく、一気にダメージを負ったのが初めてだから、精神的に放置は良くないと思った。
「ありがとう……次からは、いつも通りの回復で」
「大丈夫です?」
「そうだね……一気に2割削られるとは思っていなかったのは事実だけどね。次は大丈夫だよ」
ワニを抑えている間に後ろにまわったナーガ君が溜め技で尻尾を切り落としに成功していた。しかも、ワニが切り落とされて怯んだ隙に兄さんとレウスが正面、口の部分を駆け上って、弱点になりそうな目を攻撃している。
「GYAAA!!」
「行くよ! 鱗剥ぎ!」
ワニが目を集中攻撃され、堪らずダウンしたところで、アルス君も攻撃に参加したが……鱗というか、宝石が剥がれている。
ぼとぼとっと宝石が落ちて、アルス君は宝石をどうしようとあわあわしているが……あの技、いいな。
宝石に傷つけずに、何故か皮膚と分離させている。あの宝石、後で回収したい。
「アルス、もっと続けろ! SP切れるまでそれだけでいい!」
「う、うん! いくよ!」
兄さんもしっかり見ていたようで、どんどん技を繰り出す様に指示している。その指示に従い、体の表面の宝石を剥がしている。
「クロウ、剥げたところ狙って魔法を。私は尻尾を凍らせる! 氷結晶〈アイスクリスタル〉!」
「狙いが難しいんだが」
「出来るでしょ」
この世界では、宝石は魔法に対し効力が高い。宝石をまとっている部分は魔法防御が高いので、アルス君が宝石を剥いでくれたところにクロウが魔法で追撃をする。
そして、私も切り落とされた尻尾の部分を中心に凍らせて結晶化させる。
ダウンから立ち上がったワニは、動きが鈍くなっている。
コールクロコは石炭を燃え上がらせるので、火に強い反面、水や氷に弱い。ジュエルクロコも同様らしい。
凍らされた尻尾のせいか、体温が下がり、動きに精細を欠いている。
「さっさと片をつけるぞっ、兜割! もう一度、総攻撃!!」
兄さんがワニの眉間に技を叩き込んで、再度ダウンを奪い、総攻撃の指示が入った。
そして、そのまま被害を出さずにジュエルクロコを倒し切る。
「宝箱だ! 開けていい?」
「ああ。さっさと回収してずらかろう」
レウスがボスを倒して出た宝箱の前でわくわくしている。そして、兄さん。強盗じゃないんだから、もう少し穏便な言葉にした方が良いと思う。
「……回収する」
「あ、僕も手伝うよ!」
ナーガ君とアルス君がジュエルクロコから落ちた宝石を回収し始める。
この宝石を売るだけで、みんなで山分けしても、しばらくお金には困らなそう……。拾った宝石を確認するとすごく純度が高い。これを使って付与したら、武器とか盾とかすごく強化できそう。
まあ、7人で山分けしてもかなりの量の宝石ゲット! 後で山分けするということで一通り詰め込み、ボスについても死体を回収。
「あ、ティガさん、怪我は?」
「回復してもらっているから大丈夫だよ。……この後は?」
「急いで11階へ向かいます。可能なら、さらに奥まで……大丈夫だとは信じたいですけど。走る必要はないですけど、休憩なしでそのまま行きたいんですけど……どうでしょう」
「けがは治っているから、問題はないよ」
ティガさんが攻撃を抑えてくれていたので、他は誰もケガをしたりはしていないけど、その分負担が重いのはティガさんのはず。
問題ないということなので、すぐに次の階層へと向かう準備をする。
「だが、なぁ……出口側からレアボスであったことはわかるのか?」
「わからない、はず……でも、連絡取れる可能性はあるので」
クロウとしては、しっかり休憩を取ってから出発するべきという考えらしい。本来、その予定ではあったのも事実だけど……。
いくつかのパーティーがクランを組んでる場合、互いの連絡手段は持っている可能性がある。……そうでなくても、休憩している間に次のパーティーが来て、レアボスだったことをバラされる可能性もある。さっさと離れる方が良い気がする。
「クレイン~なんか、普通の石っぽいんだけど、これ何?」
「? 〈丸い石?:何の変哲もない石?〉 え? なにこれ?」
宝箱から出てきたのはスーパーボールくらいの大きさの白い球体の石。レウスが二つ持っている。私の鑑定では、丸い石? となっていて、何もわからない。
「クロウ~」
「……無理だ。鑑定には時間かかる……ここで始めたら、俺は動けなくなるぞ」
「じゃあ、クロウ。君に預けておく。鑑定を急ぐ必要はないが、危険なら声をかけてくれ」
「え~、気になるのに!」
兄さんはそのまま二つの石をクロウに渡して、出口へと向かう。
そのまま、11階、12階へと進んで……13階についてところで、夜営を取ることになった。
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