第103話 ボス戦


 ノトスさん達と4対3で手合わせすることになり、ナーガ君が開始と同時に、速攻でディーロさんを抑えに行き、私は危険がないだろうとノトスさんを任された。


 兄さんは2対1だけど、問題なく戦っている。やりすぎないように手加減しているのが見ていてもわかった。攻撃を武器じゃなくて、蹴りがメイン……。舐めているともとれる行動だった。

 実際、刀で戦うとあっさり倒せそう……というか、怪我させてしまうので、間違ってはいないか。


 ナーガ君の方は、結構ガチで戦っている。ナーガ君に攻撃が通るというディーロさん強いな。

 

「さて、おチビが俺の相手とはな」

「二人と直接やりあいたかったですか?」

「いや、大丈夫だ……この後を考えるなら、兄貴の方とやり合うのはきつい。まあ、おチビがやる気ないのも助かっているが」


 一応、他の人の手前、攻撃はしているけれど……私の通常攻撃はタンクに通るわけない。それがやる気がないという意味だと思うけど。


「……私、ヒーラーとして必要とされてるんですよね? ちゃんと戦うべきです?」


 やる気を出した方が良いなら戦おうかと、武器に魔力を通すと、ストップと手で制された。


「いや、大丈夫だ。おチビが魔法系であることは知っているし、属性剣を使えるらしいってのも聞いてるからな」


 誰からの情報……?

 冒険者同士の情報網って、いまだに謎過ぎる。


 速さを活かしてちょこちょこと攻撃をするが、しっかり盾でガードされているのでこちらの戦いは茶番となっている。兄さん達との手合わせの方が、緊張感がある。

 そのまま、私は軽い攻撃を繰り返しているが、周囲を確認しているとナーガ君がまずいことになっている。

 

 流石にノトスさんとやり合いながらだと回復魔法を唱えるのが難しいので、近づいた瞬間に、風加速〈エリアルブースト〉を唱えて、突進をする。

 それを防ぐために、ノトスさんが技を発動したところで、後ろに距離を取る。盾術の技の多くは、防御を高める代わりに身動きが取れなくなる。


 その隙をついて、ナーガ君を回復する。


「光回復〈ヒール〉」

「よく見えてんだな……どうすれば、回復をする隙を作り出せるかもよくわかっている」

「レオニスさんに色々とお説教されてますから」


 レオニスさんは、「必要な時に回復するのがヒーラーだ。前線や遊撃で戦闘に参加したいなら、回復が必要な時に回復できないという状況にはするな」と言われている。

 どんな時であっても、仲間のHPが4割を削られた時点で回復をかける。自分が崩れるとパーティーが崩れる自覚をもって、無理はしない……。


 それ考えると、救出に参加する時点で、無茶をしている気もするんだけど……まあ、兄さん達が一緒ならいいよね。


「普通のヒーラーは回復する間は守ってもらうのが前提で、自分で隙を作りだそうとはしないんだけどな。優秀だな」

「ありがとうございます。ナーガ君たちもこれで終わりみたいなので、終わりでいいですか?」

「ああ……おチビはすぐに救出いけるか?」

「一応、水分補給だけします」


 汗かいたのと、魔丸薬を飲むついでにスポドリを飲んでおく。MPポーションを飲むほどではないけど、少し使ったのと、この後も使う予定なので、MP回復を早めておく。


 手合わせ後に準備をして、ボス部屋に入っていく。



「うかうかしてると下から抜かれるぞって、この前レオさん言ってたんだが……昇格試験受けとくかな」

「ノトスもか。俺も、パーティーの連中と相談するつもりだ」


 ボス部屋に向かう途中でぼそぼそとノトスさんとディーロさんが話をしていたが聞き取れなかった。



 そして、入口に立ったところで、作戦を立てる。


「おチビ。状況にもよるが、まずは救助者の回復を優先とする。おチビが魔法を使えば、強化されたボスがおチビに襲い掛かるが……」

「……俺が守る」

「ナーガが耐えている間に俺がタゲをとろう。いいよな?」

「言うじゃねーか。タゲは俺がとるつもりだったが……やってみろ。フォローはしてやる」


 私が回復、ナーガ君が守り、兄さんが攻撃する。その間にノトスさんは救助者の元へと向かうという作戦になった。ディーロさんはフォロー役……いや、兄さんと一緒に攻撃しなよとは思うけど。



 私達がボス部屋に入った瞬間に、ここのボス……コールクロコが遠くに見えた。

 だいたい7,8メートルくらいのワニ型の魔物で、鱗の上に石炭を纏っている。石炭が固く、中身に攻撃が通りにくい上に、この石炭が時間とともに熱を発し、赤くなっていき、最終的にこの石炭は爆発する……と聞いている。その時に火傷や裂傷を負うと大変らしい。


 入った時点で……すでに石炭が赤くなっている。爆発寸前というところだった。

 あれは近づくだけでもかなりの熱気で、戦いにくそう。


「全体聖回復〈エリアキュア〉……ノトスさん、ボスは対処するので、お願いしますね……状態異常抵抗〈レジスト〉」


 全員に対し、熱気による火傷を防ぐための状態異常耐性を上げるための魔法をかけておく。これにより、ボスのターゲットが私に移った。

 ボスがこちらに向かってくるのを確認し、ナーガ君が盾を構える。


「……プロテクガード……っ……」


 私に向かって突進してくるワニをナーガ君が大盾でかばう。その場に留まり、ワニと力勝負をしている。

 突進を正面から止めて、熱気にも耐えている。


「ナーガ! そのまま抑えてろ……破砕刃! 点滴穿石! 白刃無双!」


 ナーガ君が正面から抑えているワニの横に回った兄さんが、刀にSPを込めた状態にして、連続で技を繰り出した。

 ワニが身に纏う石炭を破壊しようとするが、一撃目では外側の石炭だけで、まだ内側の石炭が残っていたので、さらに技を使い、石炭をそぎ落とし、皮表面が出来たところで、連撃の大技を叩き込んで……右足に大ダメージを負ったワニがダウンした。


「クレイン、あっちに行って回復を頼む。何かあったようだ」

「わかったけど……大丈夫?」

「ダウンさせた俺にタゲは移っているから心配ない」


 兄さん達にワニを任せて、ノトスさん達に合流する。その間に、パンッ、パンッっと大きくはじけ飛ぶような音が聞こえているが……どうやら石炭の爆発が起きたらしい。

 後ろを振り返るがちゃんとガードしていたのか、ダメージは負っていない。



 ノトスさんの知人について、HPは回復させたけど、何かあったのか? 急いで合流すると、タンクの人はノトスさんの予想通り、余裕がある。ただし、他の人は……レベルも低そう。状態異常も起こしてる。


「ノトスさん! 何がありました?」

「麻痺と火傷で動けないらしい……コールクロコは?」

「兄さんがダウンを取ったので、大丈夫です……麻痺直しとか、使わなかったんです?」

「あ、いや……ヒーラーがいるからと薬はあまり持ってきてなくて」


 ノトスさんの知り合いのパーティーに合流すると、全体回復をしたけど、まだ回復は足りていなかったらしい。さらに状態異常にかかっている人が3人、うち2人は気絶中。


 速攻でヒーラーがやられて、パーティーが壊滅したと……。


「麻痺直しと火傷直し……これを使ってください。それとヒーラーを回復します。その後は立て直しをお願いします」


 パーティー分の薬を渡して、ヒーラーの気絶・麻痺・衰弱になっているヒーラーに状態異常回復〈リフレッシュ〉をかけて一つ一つ状態異常を回復していく。状態異常複数回復〈クリア〉をかけてもいいんだけど……せっかく兄さんに移ったタゲが私に戻ってきてしまうと困るので、一気に回復させるのはやめておく。

 


 遠くでは、たまに爆発の音が聞こえるが、ズドンというダウンした音も聞こえる。とりあえず、あちらの方は危険はない……まあ、そろそろ戻って回復しようかな。


「……向こうと合流したら、もう一度全体回復をかけます」

「ああ、すまない」

「おチビ、あっちは大丈夫か」

「兄さんがSPポーション使いながら、右前足、左前足、左後ろ足と部位破壊してダウンさせてます。ただ、回復魔法を全体にかけると、タゲが私に移る気がするので、向こうに行きます。ノトスさん……倒すまで、彼らをお願いしても?」


 正直、回復をさせただけで、彼らの瞳は絶望を映していて、戦闘に参加できるようには見えない。せっかく救出をしたので、このままタンクに守ってもらい、兄さん達と一緒に倒した方がいい気がする。


「わかった……おチビ、薬代も後で支払いするから」

「はい、そこはきっちりお願いします」


 兄さん達に合流し、再び、全体回復をかけてから、最後の右後ろ足を部位破壊してダウンさせる。


「たくっ、怒り状態が消えないな」

「…………怒り状態の方が、DEFは低いだろう」


 ディーロさんのボヤキにナーガ君が突っ込んでいる。割と珍しい? ナーガ君、人見知りというか、知らない人には無口な方なんだけど、打ち解けている。


「おチビ、あっちはどうなった?」

「戦いには参加できないと思います。ディーロさんはどうですか?」

「はっ……兄貴の方ばかり楽しんでるからな、俺も本気でやってやる」

「じゃあ、ダウンから起きたら、一斉攻撃で……」


 部位破壊した部分は、石炭が剥がれ落ちているので、防御力が下がっている。各自、一斉に足に攻撃を叩き込むという打合せをして散らばる。



「行くぜ」

「……ああ」

「おう」

「はい」


 一気に攻撃を仕掛ける。兄さんとディーロさんは武器にSPを纏わせて構えている。

 ナーガ君は大剣に持ち替えているが……まあ、そもそものSTRが高いから、生身の部分に攻撃するなら大丈夫だろう。

 私の場合はSTRは足りないから、相手の弱点属性に合わせて水魔法をミスリルの短剣に纏わせてのINTでの攻撃。


 すでに、ボスのHPは削っていたので、一気に攻め立てて倒しきった。



「お疲れ、大丈夫か?」

「大丈夫。兄さんこそ、だいぶSP消費したんじゃない?」

「次のボス戦は楽させてもらうさ」

「……さぼるな」


 ナーガ君はそういうけど……7人であのボスを倒すとして、兄さんが攻撃しなくても、多分倒せる。さぼってもいい気もするけどね。



「ナーガ君は平気?」

「大したことはない」

「一応、回復かけておくね」


 ナーガ君に回復魔法をかけて、ノトスさん達と合流。

 これ以上関わる気もなかったので、ディーロさんに挨拶をして、さっさとボス部屋を出る。薬代とかは、ギルド経由でということにして、最初戦っていたパーティーとは関わり合いを持たないことにする。


 面倒事はごめんだからね……。助けるために頑張ったけど、なんか、好きになれなかった。そもそも、薬とか用意してないのに、ボス戦やって、渋滞させてるから好感度ないけど。


 さあ、みんなの所に戻ろう。


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