第2話 『約束のイストワールⅡ』(1)

 さてここで、俺が晴れて(?)転生することとなったゲームについて説明しておこうと思う。

 ……昔ドハマリしてたこともあってオタク特有の気持ち悪い長文早口になると思うが許してほしい。無理そうだったら適当に読み飛ばしてくれ。


『約束のイストワールⅡ』、通称『約トワツー』。


 平成時代に発売されたファンタジーRPGにして、屈指の名作と評された前作『約束のイストワール』待望の続編という位置付けだ。

 いわゆる日本製ジェイRPGの系譜なので、昔のヨーロッパ風の世界観なのにジャガイモや紅茶やガラス窓や水洗式トイレまで当たり前のよーに登場するのだが、そこはまぁ、ご愛嬌ということで。


 ゲーム機は初代エンジョイステーション。剣と魔法の世界〈イストワール〉を舞台に、ディスク二枚組のボリュームで壮大な物語が繰り広げられる。総勢五十人を超えるというプレイアブルキャラクターの数も発売前から大きく話題となった。


 前作『Ⅰ』が主人公を中心とした王道の一本道ストーリーであったのに対し、今作『Ⅱ』では「この世界に生きる人々の息遣いを感じてほしい」というコンセプトから群像劇へと方向転換。キャッチコピーも、「この〈歴史/物語イストワール〉に、〈主人公あなた〉はいらない。」という挑戦的なものだった。

 複数キャラクターの視点を通じて描かれるという〈イストワール〉の美しい情景は、それだけで魅力たっぷりだった。

 どこまでも澄み渡る空に、翼を広げて飛翔するドラゴン。謎めいた古代遺跡や、闇深い洞窟の奥で神々しく光り輝く聖剣――ゲーム雑誌に掲載された当時最先端の美麗なグラフィックに前作ファンは胸躍らせ、「この世界でどんな冒険が待っているのだろう」と期待したものだ。


 ――と、ここまでが『約トワⅡ』ののハナシ。


 現実には、なんというか、うん、その。


 “クソゲー”の扱いなんですよねー……。


・続編なのに、前作『Ⅰ』の要素がほぼ皆無。

・「群像劇」という触れ込みだったが、蓋を開けてみれば結局は【はい】【いいえ】しか言わない無個性主人公ひとりの一本道ストーリー。

・総勢五十名以上と謳っていた登場キャラの内、実際に仲間にできるのは半分以下の十二人。

・その仲間もやたらと数が多いだけで固有のエピソードや物語がうっすい(あるいはほぼ無い)。

・↑の中でまともな戦力となるのはせいぜい三、四人程度で、残りは愛がないと使えない(そしてキャラエピソードがないので愛着が湧かない)

・前半は似たようなおつかいイベントが多くてダレやすい展開。後半も世界が崩壊し、仲間を集めてラスボスを倒す以外はほとんど自由度のないストーリー。

・ラスボスの正体がぽっと出。

・エンディングも、設定資料集や辞書並みに分厚い攻略本(書籍名『約束のイストワールⅡ ファイナルマニア』、通称『ファイマニ』)がないと意味不明。

・やたらと多いバグ(ゲーム進行不可能になるものを多数含む)。


 ……あー、うん。自分で言っといてなんだが擁護の余地ねーわこりゃ。

 前作『Ⅰ』の正統な進化形発展形を期待していたファンたちは阿鼻叫喚し、当時のネットではさんざんに酷評された。発売後一年を待たずにワゴンセールで一本五百円で叩き売られる始末。挙げ句についた別称(というか蔑称)が『ヤクトワⅡ』。「このイストワールに〈Ⅱ〉はいらない。」という名言(?)も生まれた。

(なお『約束のイストワールⅢ』の構想もあったそうだが、『Ⅱ』のあまりの不人気ぶりに頓挫し、そのまま立ち消えとなったそうだ)


 ……とまあ、いろんな意味で“問題作”なのである。


 だが、待ってほしい。確かにクソゲーではある。どうしようもないクソゲーではあるんだが――


 ――光るモノもそれなりにあったのだ。


 まず、当時のエンステ1のスペックを最大限にフル活用した美麗なグラフィックや音楽は高く評価された。楽曲が今でもときどきテレビ番組のBGMに使われるほどだ。

 ゲーム中ではほぼ語られないキャラエピソードも、設定資料集や『ファイマニ』を丁寧に読み解けば本当はものすごく深い背景があったことがわかる。

 当時は意味不明イミフとされたエンディングだって、ゲーム中盤の古代遺跡ダンジョンに隠された石版をぜんぶ集めて読めばなんとか理解できるし、ラスボスも実は伏線が張られていたことがわかる。

 この辺りを踏まえて一部の熱烈なファンは「#ファイマニネタ注意」というタグを付けて熱心に二次創作を行っていたし、今でも行っている。


 加えて、クリエイターのひとりが最近になって一四〇字の某SNSで明かしたのだが、


約トワⅡは個人的に悔しさが残る作品ですね。本当はディスク三枚組で世界も崩壊しないし仲間全員分の個別ストーリー構想もあったんですが、いわゆる大人の事情で開発期間が短縮されたせいもあって、満足とは言い難いクオリティで世に送ることになってしまいました。ファンの方には本当に申し訳ないです


 とのよし

(ちなみにここでいう“大人の事情”とは恐らく、国民的といわれる某二大RPGの最新作と発売日が重なりそうになったことを指すものと思われる)

 なお、この投稿は往年の『約トワ』ファンの間でバズってしまい、「完全版リメイクの予定はないんですか!?」「リメイク待ってます!! 何年でも待ちます!!」などといったリプライが殺到。後に投稿そのものが削除された。


 ……ああ、わかってる。わかってるよ。擁護になってないことぐらい。ネット掲示板でもこうした擁護意見が出るたびに「単に広げた風呂敷畳めてないだけだろ!!」、「必要な説明はちゃんとゲーム内でやれ!!」、「他社製品を言い訳に使うな!!」って言われてたし。そりゃそーだ、と俺も思う。


 でもさ、好きだったんだよ、『約トワⅡ』。

 駄作だけど、クソゲーだけど、好きでいたっていいだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る