残念ゲーRPGに悪役貴族として転生したがチート技駆使してなんとか生き残りたいです。

志緒津 朔

第1話 目覚めれば、異世界

 目を開けると、見知らぬ天井だった。


「……………………は?」


 ……本当にまじで見知らぬ天井だった。なんか豪華なシャンデリアっぽいのがぶら下がってるし。キラキラ光ってるし。

 目を閉じる。深呼吸する。再び目を開ける――やはり、見知らぬ天井だった。夢でも幻覚でもない。


(いやいやいや、待て待て待て、待ってくれよ頼むぜプリーズ)


 俺はたぶんごくごく平均的で平凡な会社員――ジャパニーズ・ビジネスマンだ。都内1DKのアパートで慎ましく独り暮らしをしている。天井照明にこだわりなんてないし、まかり間違ってもシャンデリアなんか使わない。使うよーなご身分ではない。断じて。


 そして、どうやらおかしいのは照明ばかりではないではないらしく。


 布団で寝てたはずなのになんかベッドだし(すっげえふかふかしてる)ベッドには分厚い深緑色のカーテンがくっついてるし(天蓋ベッド、とかいったか? 姫かよ!)パンイチのはずがなんかつやつやした布地のパジャマとか着ちゃってるし(シルクか? お高級シルク100%なのか??)


 上半身を起こして周囲をぐるりと見回す。シャンデリアから予想はできていたが、1DKどころの騒ぎではなく。


(……うーわ、寝室だけで俺のアパートより広いじゃないですかー)


 幼稚園児や小学生ならば余裕で走り回って鬼ごっこできそうなほど広々とした空間。毛足が長くていかにも高級そうな絨毯が敷き詰められ、マホガニー、というのだろうか、なんかいい感じにアンティークっぽい重厚な家具がどどーん! と鎮座している。これぞまさしくThe・西洋貴族!! とゆー雰囲気のセレブルームだった。


(これって、これって、もしかして――)


 怖いほど軽くて暖かな羽毛布団をどけてベッドから下り立つ。そのまま裸足で足が沈むほど柔らかい絨毯の上を歩き、部屋の片隅へ向かう。

 部屋の持ち主が身だしなみに使うのだろう姿見を覗き込むと、そこに映っていたのは――自分ではない他人の顔貌カオ。短い黒髪と白髪はくはつが入り混じって、綺麗な緑色の目をしたイケメンだった。年齢でいえば十七、八歳程度だろうか。


「うーわ、やっぱり異世界転生じゃねーの」


 思わずそうつぶやいた美声イケヴォも、自分のものではなく。

 俺はいよいよ確信した――ゲーム内世界に転生したのだ、と。


 ゲームの名は『約束のイストワールⅡ』。かつて何度も何度もやり込んだRPGだ。

 そして、このキャラクターの名前はアレス・ローザベッラ。……主人公ではない。反対にその主人公にたおされる側だ。


 ……ストーリーの途中、ボスキャラとして殺される運命の悪役貴族なのである。

 ……そして、その中ボス戦後には世界崩壊イベントまで発生する。一部を除く大半の街や村が完膚なきまでに破壊され、ワールドマップから消滅してしまうのだ。直接的な描写こそないものの、多数の犠牲者が出たことがナレーションでも語られる。

 ……詰んでいる。見事なまでに、詰んでいる(五七五)


「あっははははは、W死亡フラグぅ~」


 あまりの事態に現実から逃避したくなって、鏡の前で変顔などしてみる。顔の両横でVサインをつくり、白目を剥いてあっかんべーと舌を出す。……くっそ、イケメンは変顔でもイケメンだな畜生腹立つ。


(……何はともあれ転生してしまった以上、)


 俺は変顔をやめて真顔に戻る。


(どうにかして自分アレスの死亡フラグと世界崩壊のフラグも折らないとだな)


 現実世界に戻れるのかどうか現時点では不明だが、少なくともこのままゲーム内世界で物語ストーリー通りに大人しく死んでやるつもりは毛頭ない。

 幸い、俺にはゲームの知識がある。ストーリー面のみならずシステム面でも。これらを駆使すればワンチャン改変かえられるかもしれん。


 ――つーか、改変かえる。改変してやる。


 俺は目を閉じる――ここが本当に『約トワⅡ』の世界だというならば。

 瞼の裏側の暗闇を見つめながら、ゲームのコントローラーを思い浮かべる。そして、[△]ボタンを押す想像をする。

 すると闇の中に青いメニュー画面が浮かぶ。……よし、成功だ。

 今度は十字キーの[↓]を押して【ステータス】を選択、決定の[○]ボタンを押した。


┌                       ┐

 名前:アレス  職業:ローザベッラ侯爵家次男

 レベル:7

 HP:58   MP:24

 力:31   体力:28

 敏捷:24  魔力:26

 器用さ:6  幸運:2


       [→]キーで次のページへ

└                       ┘


 予想通り、アレスのステータス一覧が表示される。

 ……なるほどなるほど、力と体力と魔力が比較的高水準でいい感じにまとまっている。状況に応じて前衛も後衛もこなせる魔法戦士型、だな。

 つーか、えっ、器用さと幸運ひっく!! 一桁とかはじめて見たし!! 現代日本ならポテトチップス開けようとして袋からぶちまけるしソシャゲのガチャは毎回天井まで爆死するレベルだろコレ。


 ゲーム本編での彼がたどる悲惨な末路などに思いを馳せながら、俺はステータス画面を閉じて目を開けた。鏡越しに、翠眼の青年と目が合った。


(さて、ステータスも確認できたところで――)


 俺は臙脂えんじ色のシルクっぽいパジャマを脱ぎ捨てて下着一枚になる。……ふー、やっと落ち着いた。

 あ、俺、部屋ではパンイチ派なんですよ。ラクだし。異世界転生したからって急に生活習慣は変えられませんし。

 さすがにアマ●ンの荷物受け取りやコンビニに買い物に行くときとかは服着ますけどね。

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