あの美女は、きっと泣いている!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 それは、10年ほど前のお話。僕がまだ、賑やかな街に住んでいた頃。



 それは、土曜日だったか? 日曜日だったか? とにかく仕事が休みの日の午前のことだった。僕が惰眠を貪っていると玄関チャイムが鳴った。新聞の勧誘だろうか? 宗教の勧誘だろうか? オートロックのマンションだが、かいくぐって勧誘する者がいるのだ。僕は出ないことにした。


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!


 もしかして、郵便(書留)などだろうか? 僕は出ることにした。ドアを開けると、目つきの鋭いスーツ姿の男2人組だった。多分、40代と20代。


「私はこういうものです」


警察手帳を見せられた。


「はい、なんでしょうか?」

「この女性をご存知ですか?」


 写真を見せられた。


「おお!」


写真には、美人、いや大美人が写っていた。僕のストライクゾーンのど真ん中だった。ちょっと夜のお仕事の雰囲気が漂っているが、そんなことは関係無い!


「知りませんね。これだけ美しい女性でしたら、会っていれば絶対におぼえているはずです。めっちゃ僕の好みです。是非お会いしたいですね」

「いやいや、女性じゃありませんよ」

「え! どういうことですか?」

「ニューハーフなんです」

「えー!」

「ここの6階の住人なんですよ。でも、刺し殺されたんです」

「え! でも、このマンションってオートロックですよ」

「そうです、鍵を開けて部屋に入れているということですので、顔見知りの犯行でしょうね。亡くなっているので、もう会えないですよ」

「お役に立てなくてすみません、会ったことが無いです」

「いえいえ、このマンションって、近所付き合いとかは無いんですね?」

「はい。みんな、他所の人のことには干渉しないと思います。隣に誰が住んでいるかもわかりません。エレベーターでたまに誰かと一瞬会って、会釈するくらいです」

「そうですか、失礼しました」

「はい、お疲れ様です」



 TVのニュースを見た。早速、ニュースに取り上げられていた。残念なことに、ニュースでは“男性死亡”と伝えられていた。あれだけ整形しまくって、多分、何百万もかけて女性になろうと頑張っていたはずなのに、“男性”と一言で片付けられてしまうのか? 僕は、そのニューハーフさんがかわいそうだと思った。きっと、そのニューハーフさんも悲しんでいるだろう。いや、悲しいなんてものじゃない。きっと、泣いているだろう。“女性死亡”と報道してあげてほしかった。あの大美人ニューハーフさんなら、“付き合ってくれ”と言われたら、僕は迷わず付き合っただろう。







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あの美女は、きっと泣いている! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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