世話焼きで甘々な天使は俺とのハグがお気に入り

系坂 快卜

第1話『女神』か『天使』か

4月ーー出会いと別れの季節に俺、有明 楓(ありあけかえで)は隣県にある宮王高校に入学した。宮王高校は日本で2、3位を争うほどの有名校であり、志願者は非常に多い。

その中をギリギリ勝ち抜き、晴れて新たなる高校生活が始まった。

隣県ということもあり家から高校までの数十kmの道のりを登下校するには時間がかかりすぎてしまうので高校の近くにあるマンションの三階にある部屋で1人暮らしをすることになった。洗濯や料理などの基本的な家事はある程度できるため、一人でも生活していける環境であった。


今日は入学式ということで、少し早めに起床し朝食を食べ、制服を着用し、余裕を持って早めに家を出た。有名校に通う身としてこのくらい当たり前にしとかないとなという自己満足な意見を心の中で呟いていると、一階に降りるために乗っていたエレベーターが二階で止まった。扉が開くとそこには見覚えのある制服を着た女子高生が乗ってきた。


(待てよ…この制服は……)


そう。彼女がまとっていた制服は宮王高校の指定制服だった。

まさかこのマンションに同じ高校の生徒が居たなんて……いや、でも高校からも近いし、俺みたいに少し離れた場所に家がある家庭はここに入居させることも少なからずあるだろう。と勝手に納得していると彼女の方から声をかけてきた。


「その制服…もしかして宮王高校の…?」


目を合わせて話しかけてきた少女の顔をよくよく見ると、今までに見た事ないほど目鼻立ちが整っており、色白な肌に長いまつ毛、金色に近い薄い黄土色の髪は神々しい。声も落ち着いていて可愛らしい。

美少女の鑑といっても過言ではない見た目だ。例えるならば『女神』か『天使』だろう。


「ああ、そうだな。もしかして君も?」


「はい。今から入学式に向かうところです」


「入学式…ということは新1年生?」


「はい。そういうことです。あなたは…?」


「俺も今日から新1年生だな。よろしくな」


「そうなのですね。よろしくお願いします」


ニコッとした笑顔はとても愛らしく、まるで猫のような小動物を見ているようだった。しかし、1年生にしては喋り方がかなり上品…というか敬語を使ってくるのでこちらも堅苦しくなってしまう。

どこかの令嬢様という雰囲気を醸し出していて、俺より一枚上の存在なのは間違いないだろう。


「ここから高校までだと道が同じはずですし、一緒に行きませんか?」


「まぁそうだな、じゃあ一緒に行くか」


常ににこやかな笑顔を浮かべた彼女の提案をすぐに了承した。可愛らしい笑顔に少しドキッとしてしまった。

別に彼女に好意や興味がある訳では無い。笑顔や容姿は可愛らしい…というか美しいとは思うが、それに俺が見合っているといわれたら違う。そもそも彼女を好きになったところで高嶺の花の存在、手を触れることすら出来ないだろう。まるで美術館に飾られている絵画のように。


「1週間くらい前にここらに引っ越してきたばっかりでこの辺りのことよく分かってないんだ。よかったら教えてくれないか?」


俺も彼女に提案してみた。実際、引っ越してきてからの一週間はずっと荷物の整理などで忙しかったからこの町のことはほとんど何も知らない。なんなら、学校までの道のりすら怪しいのだ。


「ええ、もちろんです。ではお話しながら向かいましょう」


彼女もまた、快く了承してくれた。


「そういえば、名前言ってなかったな。俺は、有明 楓だ。改めてよろしく」


「…………私は桐花冬華(きりばなふゆか)です。こちらこそよろしくお願いしますね」


こうして桐花さんともう一度挨拶を交し、学校へと向かった。

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