第2話 一歩


(今、なんて言った?)


 呆然としながら目の前にいる女性のことを見つめていると、胸からの激痛でうずくまってしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

「は、はい」


(本当に何なんだ……)


 そう思っていると、手に持っている剣が今まで通りの形に戻っていた。


「本当に大丈夫ですか?」


 俺は大きく深呼吸を入れて答える。


「大丈夫ですよ。それよりも、大丈夫ですか?」

「はい。私は何もしておりませんので」

「そ、そうですか」


 胸を少しだけなでおろすと、女性が真剣な表情でこちらを見てくる。


「それで、さっきお願いしたことは……」

「え、え~とですね。俺って出来損ないって言われているんですよ。だから護衛は務まりません」


 この人が誰なのかは分からない。だけど、どんな人であろうと俺の実力じゃ護衛は務まらない。


 すると、女性は俺の手を握って来る。


「私はあなたがいいのです。ダメですか?」

「……」


 無言で女性のことを見ていると、ハッとした表情で自己紹介をしてくる。


「私、アリス・ローゼンと申します」

「ローゼン⁉」


 俺の記憶が間違っていなければ、ローゼンと言う苗字は王族であったはず。


「知っている表情ですね。ですが、名ばかりの王族ではありますが」

「そ、そうなんですね」


(やっぱり)


 ローゼン家の別名は没落王族。ローゼン王国の中心は王族ではなく、貴族である。


「それで……」

「ダイラル・エリクソンです」

「ダイラルさん、お願いします。私の護衛になってください」


 俺は少し考えたのち、答える。


「俺で良ければいいですよ」


(まあ、アリスさんも俺の実力を知れば、クビにするだろうし)


「ありがとうございます」

「ですが、一つだけ見返りが欲しいです」

「何でしょう?」


 俺は上半身の服を脱いで、アリスさんに見せる。すると、顔を真っ赤にしながらこちらをチラチラとみていた。


「この紋章を見覚えはありますか?」

「いえ……」

「俺はこの紋章の原因を突き止めたいのです。だから、手伝ってもらえませんか?」

「いいですよ」


 こんなにあっさり了承が下りて、驚いてしまった。


「私の真の目的は、ローゼン王国の復刻です。今のあそこは腐っています。貴族がやりたい放題して、平民は苦しい人生を送っている。だけど、私たち王族は何もすることが出来ない」

「……」

「だから、そのためにお力添えが欲しいです」

「はい」


 誰からも必要とされていない人生。それなら、俺の力を欲している人に力を貸したい。


「では、まずは隣国のリーゴ王国へ行きましょう」

「はい」


 そして、俺たち二人はリーゴ王国へと戻って行った。



 宿屋の手続きを済ませてから、冒険者ギルドの中へ入ろうとする時、アリスさんはフードを被った。


(王族だからバレちゃいけないのかな?)


 そう思いながら、受付嬢に依頼書を渡して、この場を去ろうとした。その時、後ろから元パーティメンバーのリーダーから声をかけられる。


「もうパーティメンバーを見つけたのか」

「あはは」


 すると、アリスさんの方へ近寄って言う。


「こいつと組むのはやめた方がいいですよ?」

「なんでですか?」

「出来損ないだからですよ。使い物になりませんよ」

「ご忠告ありがとうございます。ですが、それは私が判断しますので大丈夫です」


 その言葉に欠相を変えてアリスさんを睨みつけていた。


「そうかい。後悔しても知らねーからな」


 アリスさんは俺の手を握って来る。


「行きましょう」

「は、はい」


 そして、俺たちは冒険者ギルドを後にした。


 宿屋で俺たち二人になると、アリスさんが言う。


「ダイラルさんも苦労していますね」

「そ、そうですね」

「でも、私はあなたを信じます」

「‼」


 胸の奥が熱くなる。


(こんな気持ち、いつぶりだろう……)


 その時、俺の目から涙が流れていた。すると、アリスさんが抱きしめてくる。


 そこから、どれぐらい経っただろう。ハッとしてすぐ我に返り、距離を取る。


「ありがとうございます」

「いえ。それよりも、明日以降の目的を伝えますね」

「はい」

「この国のある貴族がローゼン王国の貴族と繋がっています。そこを突き止めます」

「その貴族は?」


 俺が首を傾げていると、アリスさんは言った。


「ラーバン公爵」

「え……」


 ラーバン公爵。裏世界ともつながっていると有名である悪役貴族であった。


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