火山の恐怖と恩恵

 土器の発明は現代の我々が考えるより、大きな影響を与えたと推測する。煮炊きを可能にし、食糧の保存ができるようになっただけではない。食糧、または生活物資の輸送が容易くなったという点を見過ごしてはならない。


 もちろん、土器というのは土の塊を焼き固めたものなので重い。日常的にバッグとして使うわけにはいかない。しかし、日本列島においては物資を長距離移動させなくてはならないケースが存在する。


 それは災害避難である。

 古代日本列島に住む人間が最も恐れなくてはならないのは、自然災害である。温かい土地で雨はよく降る。食糧豊富、天敵も僅かと、古代人にとっては天国も同然だが、自然災害だけは他の地域と比べ物にならない。


 ただし、現代のそれとは少々、事情が異なっており、古代においては、倒壊して押しつぶされるような建物は基本的にない。よって、地震はびっくりはするけれども、恐れるほどではない。

 古代人が恐れたのは、津波、洪水、噴火だろう。


 彼らは16000年以上も前にこの地に来ており、災害に対する知識はあっただろうと思う。海のそばで暮らす者達は、津波から避難できる高台を確保できる場所に居を構えただろうし、山で暮らす者は川が増水するほどの降雨があれば、一時避難しただろう。おそらく、どちらも対処しやすい災害であったと思われる。


 問題は火山噴火である。噴火は規模にもよるのだが、古代において、近隣の火山が噴火した場合、長期にわたる避難生活を強いられたと想像している。火山は一度の噴火で終わるのではなく、数か月に渡って噴火を繰り返す事がある。そして、噴石による直接的な被害だけでなく、有毒ガスや、火山灰による日照量の低下によって、近隣で食糧の確保が難しくなる。噴火が落ち着いた後は、それによって噴き出した地球深部のミネラルなどで土壌は驚異的に回復、再生するのだが、それまでは別の土地に移らなければならなくなるはずである。


 さらに言うと、この時代、平地に住むというのは難しかったと思われる。食糧というのは、大抵が山か海にあるため、どちらかを選ぶ事になり、避難する際も、そのどちらかとなる。地元を離れて、火山灰の影響の及ばない遠方に移る際には、土器で保存食を背負いながら移動したのではないだろうか。



 前述したように古代日本列島は食糧危機に陥る事は少ない。古代文明が生まれた他の土地とは比べ物にならないほど潤沢である。その最大要因は火山である。

 定期的に噴火する火山は地中深くの栄養を地表に届けてくれ、雨を蓄え、獣や魚を養う。古代縄文人たちは、それらを頂いて生活していたのである。

 世界の約7%もの火山がこの列島に集中しており、自分は火山こそが日本を育んだのだと考えている。


 古代文明として有名なのはエジプトやメソポタミアであるが、あれらはいわば、大河文明である。大河のほとりに住みつき、村ではなく巨大な国家を作り、灌漑農業などを行う。なぜ、巨大国家を作るのか。

 それは、エジプトや中東の自然環境が日本列島より遥かに厳しかったからである。北アフリカや中東は砂漠が多く、大河が土を運ぶ事で、ようやくその近辺に緑が生まれる。しかも、それらの森林は針葉樹が多く、木の実などの恵みは少ない。当然、食用の獣も少なく、それらも強力な猛獣との奪い合いとなる。


 人は大河のほとりで生活を始めたが、そうすると今度は川の奪い合いになる。上流と下流で争い、より肥沃な土地を求めて戦闘が勃発する。相手に勝つためには相手より多くの戦闘員を確保しなくてはならない。国は大きくなり、戦に強いリーダーが実権を握る。


 学校では、四大文明が生まれたのは灌漑農業を行うためにリーダーが必要だったからだと習ったが、私はそれは真実ではないと考えている。実際には、大河争奪戦に勝ち抜くために巨大化し、その後に食糧効率を求めて灌漑農業を始めたのだと思う。古代日本のように、各々が好き勝手に村を作っても食っていけるだけの食糧がなかったから、争奪戦が行われ、その争奪戦に勝ち抜くために強力なリーダーが求められたのである。







 



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