釣果④
この二人は奇妙だ。霊体が不安定で存在自体が危うい感じがする。言動もおかしいし、たぶん正常な思考力は持っていないだろう。意味のない金銭への執着は、生前の習慣や想念にでも囚われているのだろうか。
「お金ないと結婚式あげられないし、ハネムーンも行けないよ」
知らんわい。
その男と地獄へハネムーンでも行け。
「でも指輪だけちょうだい。その指輪でいい」
「これ? 外れねーんだよ。これさ」
「指輪ほしい」
「アレ? 外れた」
男は前にどうしても外れないと言っていた指輪を簡単に取り外した。
「アレ? 外れたのにまだ薬指に残ってる。分裂した? どういうこと?」
何故か指輪を外したはずの薬指にはそのまま指輪が残っていた。そして指から外した指輪もしっかりと存在している。
「ちょうだい」
「やるよ。愛しているよ」
「もっとちょうだい」
「あげるあげる。愛してるよ」
「もっともっと、ちょうだい」
いくら上げても無料の為か。男は太っ腹に指輪を与え続ける。その数は実に13個にもなる。それで打ち止めになった。
「こんなに指輪がいっぱい。ロマンチック」
私はいったい何を見せられているのだろうか。
「あ、思い出したわ。俺さ、そういう慈善事業もしてたんだよね。たくさんの女の子に指輪をあげて、そのお礼に女の子たちがくれるっていうお金を貰ってあげる仕事だった気がする」
「すっごい女の味方。オヂ、優しくてステキ」
私は頭が痛くなった。
男のクズさが跳躍して限界を超えていっている。
この男の霊体が黒い理由が分かった。
「あー、そうかそれでかー。思い出したよ。その仕事が原因でトラブって死んじゃったみたいな」
「危険でワイルドな仕事。オヂ、かっこいいかもネギ」
女の方は男のそういった発言に、まったく頓着しないと言った感じだった。むしろ好感を抱いてる様子だ。女の方には多少同情する余地があったような気がしたが、同じ穴のムジナなのだろうか。
「かもネギ?」
「うん。本音が少しだけ漏れちゃった」
二人の霊体は黒い。この黒さが罪の深さを表しているものなのだとしたら、女の方も、罪をあからさまにした男とそう変わらない状態なのかもしれない。
「臭そうなオヂの目を見つめて『これって運命かもネギ』て言うと、みんなだませるの」
「えっ、マジ。それだけ? やり方教えてよ」
「うん。けっこうちょろいよ。マニュアルも作った」
何なのだ。
なんで私は、こんな醜い人間たちの痴情を聞かされ続けねばならんのだ?
「俺たち、もしかして本当に気が合う?」
「うん。たぶん相思相愛」
二人はそう言うと、私の背後に移動してキスをしたようだった。
この二人のやり取りを見ていて、最初は何となくキツネとタヌキの化かし合いのようなものが目の前で演じられていたような気がしていたが、男女の仲は合縁奇縁、このような所でこの似たもの同士の縁は本当に結ばれてしまったらしい。
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