CASE:5 もっと違う関係と設定で出会ってたってキミとはきっと天敵


「あ~。フラグ回収しちゃったか~……」 

 

 メンドゥーサ……。貴方にとって喜ばしいことではないのは百も承知ですが、それでも言いますよ。

 

 おめでとうございます。ね。 


「みたいだね~。すごい鬱陶しいけど……」


 メンドゥーサが肩を竦めたのとほぼ同時に、もこちらに気が付きました。


「…………あっ♡ いたいた、メンドゥーサ♡♡ 今日もしごおつ〜♡♡」


「あ~あ。見つかっちゃった……」


 メンドゥーサは短く呟いたあと、ぷいっと彼女に背を向けてしまいました。


「えっ? 知り合いだよな? 挨拶くらいしとけば?」 


「メンドゥーサ~?♡♡ こっち向いてよ~♡♡」


 しかし、その程度で挫ける彼女ではありません。


 メンドゥーサの背に向かって、ぶんぶんと大きく手を振っています。


「……誰!? 誰なんだよ、あの激マブ姉ちゃんは……!」


 激マブ? 正気ですか、モブ男くん。


「え? 見た目は美少女じゃね? 中身はまだわかんねえけど!」


 …………私には理解しかねますが、まあ、女性の趣味も色々ですね。


「聞こえてないなら、そっち行くね~?♡♡」


 吐き気を催すほどの猫撫で声に、服に引っ掛かってしまいそうなゴテゴテのネイル。


 本日のコーディネートは……まあ、例によって、ロリータスタイルですね。


 毎日毎日、身嗜みを整えるのに何時間費やしているんでしょう。ご苦労なことです。


「言い方に棘しかない。棘通り越して茨……? 結局、正体不明のままだし…………」


「えーっと……。そこの人は『ドータン・キョヒ』だかってやつらしくて」


 ああ、メンドゥーサのたどたどしい発音がたまりません。音声でお届けできないのがもどかしい!


「同担拒否」


 おや。モブ男くんはチベットスナギツネとスペースキャットを足した顔になってしまいました。


「せめて二で割ろうか!」


 割りようがありませんでした。

 

「そっか!! なら、仕方ないな!!」  

 

 ここで続報……というより注意報を発表しますが、オリーブグリーンの縦ロールを揺らしたぺるるんが、しゃなりしゃなりと猛スピードでメンドゥーサ目掛けて突進接近中です。


 抱き留める準備か敵前逃亡の準備をしたほうがよいのでは、と……僭越ながら。


「うん、そうだね~。でも、実質一択だよね。それ」


 確かに。前者を選ぶメンドゥーサはメンドゥーサではありませんね。


「ねえねえ、ほんとは聞こえてるんでしょ♡♡ シカトやめて?♡ こっち向いてよ♡♡」


 ファンサをねだるおつもりなら、うちわくらい作ってきてはいかがかと。


「ナレー氏のオタク観って、かなりドルオタ寄りだよな? 気のせい?」

  

「ん~。それは思うけど、別にオレ、アイドルから転身したわけじゃないからよろしくね~」


「なぜバレたし」


「…………とりあえず、キミも逃げよっか」


 メンドゥーサはモブ男くんの手を取り、走り出しました。


「ねえ、どうして逃げるの?♡♡」

 

「いや、怖い怖い怖い!! 『しゃなりしゃなり』以外のSEはつけれない感じのおしとやかステップなのに、どうやったらあのスピード出せんの!?」 


 追いかけるぺるるんは、モブ男くんの迫る実況のとおりです。


「鬼気ってかが迫ってるんだけど!?!???」


「オレも知りたい。…………車使ってくれれば、スピード違反で足止めできるの切符切れるのにな~」 


 ええ。本当に小賢しい方ですね。

 

「ええ……? さっきまでこんなギスってなかったじゃん……。ていうかさあ! メンドゥーサはなんで最小限の腕振りでそんな早く走れんの!?」

 

 よくぞ聞いてくれました。

 

 メンドゥーサは、最低限の動きで最高速度を出せる走り方を研究したんです。面倒くさがりは長所にもなりうるということですね。


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