想い想われ伝わらない⑤




隣にいる愛海が沈んでいるのを見て思佑も反省していた。


―――おしるこ好きだと思ったけど今は違っていたのか。

―――乙女心って難しいな・・・。

―――いや、今はその乙女心が聞こえているのにちゃんと対応できない自分もどうなんだ?


だがいつまでもクヨクヨしてはいられないため気を取り直した。


「愛海! この後はどうする?」

「この後? そうだなぁ・・・。 あ、プリクラ撮りに行こう!」


そう言って愛海は笑顔を見せたが思佑は苦笑する。


「また? 愛海となら何回でも行きたいけど今月これで何枚目さ」

「今日は特別なの! 男女二人専用のプリクラ機が出たんだって!!」

「へぇ・・・?」


そう言われてもピンと来ないが愛海に引っ張られプリクラコーナーへと向かった。 新機種のためか既に列ができていた。


―――きっとここに並んでいる人たちはほとんどがカップル・・・。

―――もしかしたら俺たちも周りから見ると・・・?


期待を込めた目で愛海を見つめる。 だが隣で順番を待っている愛海は本当に楽しそうで、そのようなことを考えている自分が恥ずかしく思えた。


―――・・・そう思ったのは俺だけかな。


意識を集中させてみるも今は考えていることが何も伝わってこない。


―――折角だから今日は距離を詰めてみようかな。


しばらくするとカップルが多く並んでいることに愛海も気付いたのか、どことなくそわそわし始めた。


―――・・・少し揺さぶってみたら愛海もその気になってくれるかも。


「ここはカップルが多いね。 何か距離が近い」

「え? そ、そうだね」

「愛海は恥ずかしくない?」

「ちょ、ちょっと恥ずかしい・・・」

「俺とここに並んでいて嫌?」

「それは嫌じゃないよ! 全然!!」

「そっか。 俺も嫌じゃないよ」

「・・・!」


そう言うと愛海はあからさまに顔を赤くした。 その反応を見るだけで思佑としては嬉しい気持ちになる。 咄嗟に顔を背けた愛海はプリクラ機に描かれている一枚のプリクラを発見した。


「うわ、チュープリだ・・・」

「え?」

「ううん!」


それを隠すかのように遮ってきた。


―――見えなかったけどチュープリってキスの写真のことだよな。

―――・・・もしかして愛海は意識してる?


そう考えると思佑は首を振って視線をそらした。


―――いやいや、男からそれを言うのは違うって!

―――・・・でもチュープリか・・・。

―――俺たちは付き合っていないし当然そんなカップルみたいなことはしたことがないけど・・・。


色々と考えているうちに自分たちの番がやってきた。 いつも以上にドキドキした撮影はあっという間に終わってしまった。

当たり前のように『チュープリ』なんて言葉がお互いから出ることはなかったし、いつも通りカップルなのか友達なのか分からない微妙な距離感。

もちろん男女でプリクラを撮りにくること自体が既にカップルのようなものなのだが、二人からしてみれば当たり前の日常過ぎて気付かない。 二人で落書きコーナーへと移動する。

このプリクラは撮影場所とデコレーション場所が分かれていて順番待ち時間を短縮する作りになっている。


―――愛海の顔がいつも以上に近かった・・・。

―――本当にキスを求めていたとか、そういうんじゃないよね・・・?

―――そんなの変に期待するって・・・。


落書きを終えてプリクラ機を出ると丁度背後から声がかかった。


「あれ、思佑じゃん。 あ、愛海もいる!」


二人して声の方へ向くと同じクラスの男子が立っていた。 どちらかというとはっちゃけ系で交友関係が多いタイプだ。 複数グループで遊びに来ている様子で数人見知った顔がいる。

思佑からしてみれば何もなければ普通に話すが、愛海と一緒にいる今では少し相手するのが面倒といった感じである。


「え、ここから出てきたっていうことは二人は付き合ってんの!?」

「「!?!?」」


その言葉に二人の心臓はドキッと跳ね上がる。 思いもよらなかった発言に言葉が詰まっていると愛海が先に言い返した。


「ち、違うよ!! 私たちは付き合ってない!!」


そう強く言った愛海を見た。 大袈裟な動きと共に否定され悲しくなった自分がいた。


「そうなのか? でも今このカップル専用のプリ機から出てきただろ?」

「これはカップル専用じゃないんだって! ね、思佑くんも何か言ってよ!!」

「え?」


何故か愛海に助けを求められた。


「・・・あ、あぁ、そうだね。 俺たちはただの幼馴染だから」

「ふぅん?」


そう言うと彼は興味なさそうにグループの方へと戻っていった。 愛海は気まずそうに顔を背けている。


―――・・・愛海は俺に気があるとかそれは本当に勘違いだったのかな。


そう思うと少しずつ付き始めていた自信が萎んでいくのを感じた。



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